疎との鳥 籠の禽
問題15 宇宙へどかん!
~ハイジャック編~
「定春がいない旅行なんて楽しめないアル」
「だーからババアに預けとけって言ったんだよ。もう台無しじゃねーか旅行が……」
そう話している二人なのだが、実際は料理を食べまくっていて言っている事とやっている事が矛盾していた。
「台無しなのはお前らの人間性だよ」
素早くツッコミを入れてから新八は優姫に尋ねた。
「優姫ちゃんはシン屯所に置いてきたんだよね?」
「んーん」
優姫は大きく首を振ってからカバンの中からずるりとシンを取り出した。
「エェェェェェェ !? 」
新八が驚いた様子で見ている中優姫はにこっと言う。
「『ぬいぐるみです』って言ったら通ったの――」
にこにこと説明した優姫とシンを見ながら新八は呆れかえって呟いた。
「ぬいぐるみって…………凄い涎垂れてるんだけれど……」
「わ――キレイだー」
定春定春言っていた筈の二人が窓の外に見える地球を見ているのを見て、我慢出来る訳がなく新八はすかさずツッコミを入れた。
「『わー』、じゃねーよ!キッチリエンジョイしてんじゃねーか!なんだオメーら!」
「おトイレ行ってきまーす」
ぱたぱたとトイレへ走って行く優姫の後ろ姿を見て、新八はこれ以上無い位に溜息をついてしまうのだった。
◆
「あれ?定春だ――」
トイレから出てくると丁度同じように男子トイレから出てきた男性の頭にかぶりついている定春を見て言った。
「定春――。神楽ねーちゃん心配してたよ――?」
定春に話しかけているとばっくりと頭をかぶりつかれている男性は顔色悪く言う。
「ん?嬢ちゃんどうしたけんに――?あ――気持ち悪いの――」
男性に話しかけられた為優姫は十四郎に言われた事を思い出すのだった。
『良いか優姫。旅行先で知らない奴に話しかけられても話したり着いてくんじゃねーぞ』
「嬢ちゃん?」
「ん――っと…………」
この場合はどうするべきなのか考え込んだのだが、よくよく考えると自分の方から(定春に)声を掛けたのだ。
(いっか)
「おにーちゃん顔色悪いけど大丈夫――?定春も噛みついてるし」
「ははは、さっきから何を言ってるに――。わしの名前は坂本辰馬じゃ。定春じゃないじゃきー」
へらへらと笑って言う坂本の頭にかぶりついて離れない定春の事をじーっと見ながら考える。
(これ……定春じゃないのかな……)
どう見ても定春なのだが目の前にいる坂本は(自分の事を)定春では無いと言っている。
どうするべきなのかと優姫は頭を悩ませるのだった。
すると突然のハイジャック放送が流れしばらくしてから爆音が響いた。
「あわわわ――」
その揺れにバランスを崩しかけた優姫をぱっと支えて坂本は言う。
「今日はばよく揺れるの――」
「でもなんか爆発してたよー?」
「気にする事なかとに。ほれほれ嬢ちゃん席まで送っちゃる」
フラフラと歩く坂本の姿を見て優姫は純粋に思った。
(……倒れそう)
◆
「定春ぅ !! このヤロー定春ば帰すぜよォォォォ !! 」
ドアを開けた途端神楽の跳び蹴りが坂本にクリーンヒットした。どうやら神楽は坂本が定春を誘拐したと思っているらしい。
「あわわ――坂本にーちゃん大丈夫――――?」
どう対処すれば良いのか迷う優姫の元に銀時は駆け寄ってきて言った。
「優姫無事だったか?…………ってコイツァ……」
のびている坂本を見るなり銀時は驚いた表情をしていた。
「銀さん知り合い?」
歩いてきた新八に対して銀時が答えようとした瞬間、再び大きな爆音と共に機体が大きく揺れた。
「大変だァァァァ !! 操舵室で爆発がァ!操縦士達も全員負傷 !! 」
誰かの叫び声と共に操縦士を失った機体が上下左右に大きく揺れだした。
「わわわわっ」
「優姫っ!」
派手にコロコロと転がっていた所、急いで手を伸ばして来た銀時に抱きかかえられ、やっと一息つく事が出来た。
「ふへぇ~~」
軽く目を回している優姫の事を落とさない様に必死になって銀時が抱きかかえている中、乗客達の叫び声が響いていた。
「どなたか宇宙船の操縦の経験のある方はいらっしゃいませんか !? 」
「もう誰でもいいから助けてェェェェ !! 」
「宇宙船の経験 !! 」
銀時は延びきっている坂本の事を見ると急いで立ち上がった。
「優姫行くぞっ」
「ふへ~~?」
未だ目を回している優姫の手をしっかりと握りしめ、もう片方の手で乱暴に坂本の髪の毛を掴んで銀時は走った。
「イタタタタタタ !! 何じゃ―― !! 」
バタバタと走る中、状況を理解出来ぬ坂本は言う。
「誰じゃ―― !? ワシを何処に連れていくがか?」
「テメー確か船大好きだったよな?操縦くらい出来るだろ !! 」
そう言った銀時に不思議そうに顔を上げた坂本は、その顔を見た途端嬉しそうに言うのだった。
「おおおおお!金時じゃなかか !! おんしゃ何故こんな所におるかァ !? 久しぶりじゃのー金時!珍しいとこで会うたもんじゃ!こりゃめでたい!酒じゃ――!酒を用意せい !! 」
金時、金時連呼した坂本を銀時は思いっきり顔面を壁にぶつけて言う。
「銀時だろうがよォ、銀時!」
再びのびきった坂本に銀時はそう言い、操舵室へ入っていった。
操舵室の中に入るとそこら中煙が上がっていて最悪の状態だった。中で倒れている船長と思われる人の顔を坂本は思いっきり踏んでいた。
「オイ早くしろ !! 」
のんびりとしている坂本に向かってそう言う銀時に優姫は不思議そうに眺めていた。知り合いである事は見れば分かった。
「銀さん!ヤバイですよ。みんな念仏唱え出してます」
すると後からやってきた新八が乗客の状況を伝えてきたのだ。しかし銀時は坂本の後ろ姿を見てはっきりと言い切った。
「心配いらねーよ。あいつに任しときゃ……。昔の馴染みでな、頭はカラだが無類の船好き。銀河を股にかけて飛び回ってる奴だ……」
大きな機械相手に慣れた手付きで動いている坂本の後ろ姿を見て、銀時は満足そうに腕を組んだ。
「坂本辰馬にとっちゃ船動かすなんざ自分の手足動かすようなモンよ」
「……よーし、準備万端じゃ」
くぃっとサングラスを上げてから坂本はハツラツと叫んだ。
「行くぜよ!」
その手には気を失っているパイロットの足がしっかりと握られていた。
「ホントだ。頭カラだ……」
新八がツッコミを入れるのと同時に銀時は走って坂本の顔面を殴った。
「おーい、もう一発行くか?」
「アッハッハッハッ!」
坂本は鼻血を流しながら当たり前の様に言う。
「こんなデカイ船動かすん初めてじゃき勝手がわからんち」
それから辺りを見回し言い続ける。
「舵はどこにあるぜよ?」
「銀ちゃんこれは?」
「オイオイヤベーぞ!なんかどっかの星に落ちかけてるってオイ!」
「銀さんコレっスよ、コレ!」
上の階に合った舵を見つけた新八が力一杯舵を動かそうと試みたのだが、全く動く様子が無かった。
「ボクでかした。後はワシに任せ……うェぶ!」
すたすたと新八の方まで近寄ってきた坂本だったのだが、思いっきり船酔いして今にも吐き出しそうになっていた。
吐瀉物なんて吹きかけられたらたまらないと新八は悲鳴を上げていた。
「アンタ船好きじゃなかったの !? 思いっきり船酔いしてんじゃないスか !! 」
怒る新八に青白い顔で坂本は言う。
「いや、船は好きじゃけれども船に弱くての~」
「何その複雑な愛憎模様 !? 」
坂本が役立たずと分かった途端、神楽と銀時が舵を掴んだ。
「新八もういいから私に任すヨ !! 私文集に将来の夢パイロット書いたヨ」
「オメーは引っ込んでろ、もういい俺がやる!普通免許持ってっからこんなモン原チャリと同じだろう」
「嫌ッスよ!アンタらに命預けてたら何回転生しても足りねーよ!」
神楽に握られているのは相変わらずのパイロットだ。
「これだけじゃねー事だけは確かだよ!」
「パイロットから頭離せェェェ !! スイマセンパイロットさん」
素早いツッコミが終わってから皆バラバラに舵を探し出した。その中、ちらっと外を見た銀時が慌て叫んだ。
ぎゃーぎゃーと舵を取り合う万事屋を見て、優姫は楽しそうに手を挙げて言う。
「私も運転してみたーい」
「オウオウ!素人がそんなモン触っちゃいかんぜよ」
船酔いが多少回復した坂本は歩きながら言う。
「このパターンは三人でいがみ合う内に舵がポッキリっちゅ~パターンじゃ。それだけは阻止せねばいかん!」
が、次の瞬間瓦礫に足を引っかけた坂本は派手に前に転び倒れた。
その手には折れた舵を握りしめて。
「アッハッハッハッハッそーゆーパターンで来たか!どうしようハッハッハッハッ !! 」
「アッハッハッじゃねーよ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ !! 」
舵を失った船は引力に逆らえずに真っ逆さまに星へ落ちていくのだった。
(2007,9,1 飛原櫻)