疎との鳥 籠の禽
問題15 宇宙へどかん!
~ハイジャック編~
「宇宙旅行―― !? 」
屯所に顔を出した銀時達に対し、優姫はこれ以上無い位の笑顔で尋ねるのだった。
江戸のトラブル娘
第15話 宇宙へどかん! ~ハイジャック編~
時は遡る事三十分前、かなり偉そうな態度をとった神楽を先頭に万事屋がやってきた。彼らがやってくるや否、土方が怒鳴り返した。
「かーえーれっ !! 」
「さっさと優姫出せ、この瞳孔開きっぱなしが」
「死んだ魚の目してる奴に言われたくねェっつーの !! 」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ中、新八は落ちついた表情で総悟に説明をしていた。
「実は神楽ちゃんが宇宙旅行の旅四名様を福引で当てたんです。僕らは三人しかいないから、よければ優姫ちゃんどうかな、って思って」
「なるほど、それでウチに来たと言う訳ですかィ」
「ふっ、私が当てたアル。みんな私の事を工場長って呼ぶアルね」
鼻を高くして言う神楽の事を無視し、総悟は新八に言う。
「まァ優姫を連れて行きたい気持ちはわかりやすけど、いきなり旅行に行かせるなんて心配で出来やせんさァ」
「そう言うと思っていましたけど一応優姫ちゃん本人に話してみよう、って事で来させて頂きました」
「そんな話したら優姫行きたいって騒ぐじゃないですかィ」
二人のやり取りに気づいた土方と銀時は同時に怒鳴り言った。
「何勝手に話進めてるんだァァァァァァァ !! 」
「新八てめっ………新八の癖に生意気だぞォォォォ !! 」
「土方さん達を待っていたら一生話が進みませんので」
「何訳の分からない事言ってるんですか」
二人が即答すると、道の向こうからこちらに向かって歩いてくる優姫と菊の姿があった。屯所入口に皆がいる事に気が付くと優姫は嬉しそうな表情で走ってきた。
「ただいま―― !! 」
ぽふっと土方に飛びついてから銀時の方を見ていつもの様に言った。
「銀にーちゃんも新八にーちゃんも神楽ねーちゃんもこんにちはー」
「おーおー、元気そうだなァ」
ぐしゃっと乱暴に頭を撫でていると、買い物袋をたくさん提げた菊がやってきて言う。
「今日はお客さんがたくさんだね。お茶菓子でも出さないと」
「菊さん、こいつらにんなモノ出さなくて良い」
はっきりと言い切った土方に対し、菊は落ち着いた表情で言い返す。
「何を言ってるの。そんなに仲の良い友達なんでしょう?」
「「 友達なんかじゃねェェェェェェ !! 」」
声を揃えて怒鳴った土方と銀時の事をくすくすと笑いながら菊は言う。
「立ち話もなんだし中へどうぞ。お茶菓子も出しますよ」
◆
「宇宙旅行―― !? 」
興味津々でこれ以上ないくらいの表情で尋ねられ、新八は答える。
「うん、神楽ちゃんが福引で当ててね。四名様だから優姫ちゃんもどうかな、って」
「行きたい行きたい行きたい―――― !!! 」
興奮する優姫の事を落ち着かせてから土方は言い放つ。
「んな宇宙旅行なんか危ねェモンにほいほい優姫を行かせる訳ねェだろうが」
「え―― !? 行きたい――宇宙の塵になるゥ――」
訳のわからない発言をし、土方は大声で怒鳴り言った。
「絶対に行かせねェぞお前はァァァァァァ !! 」
「まあでも宇宙旅行なんて滅多に出来る体験じゃないのだし、社会見学って事で行かせてあげたらどう?」
茶菓子を運んできた菊がそう言った為、土方は困った表情で優姫を見た。優姫は『行きたい』と言わんばかりの表情でこちらの事をじーっと見つめている。
「しかしなァ…………」
確かに宇宙旅行に出すのは心配な部分があるが危険な事はない。ただ万事屋が連れて行く、と言う事が気に食わないのだった。
正確には『銀時』が連れて行く、だが。
「なんだか騒がしいなァ。どうかしたのか?」
ひょっこりと顔を覗かした近藤に優姫は飛びついて言った。
「宇宙行きたい !! 宇宙の藻屑になる―― !! 」
「はあ?」
◆
「なるほど。宇宙旅行ね」
優姫の発言が理解不能であった為、近藤は一通りの事を新八から聞き納得していた。
「丁度一週間後なんですよ出発」
「行きたい行きたい――」
腕を揺らして言う優姫の頭を優しく撫でてから近藤は笑顔で言った。
「連れて行ってもらって良いかな?」
「近藤さっ……… !? 」
「わ――い!」
優姫は足元で涎を垂らして爆睡していたシンの前足を掴んでくるくると回りながら言う。
「シン宇宙旅行だよ――!宇宙の塵になりに行こうね―――」
いきなり眠りから覚まされたシンは訳がわからないと言う感じのまま、涎を辺りに撒き散らしていた。
「まあなんで宇宙の塵になりたい言ってるかはわからないけどさァ、いつも窮屈な思いさせちゃってるんだしたまには旅行とか良いんじゃないかな」
「だからってよりにもよってこいつ等に連れて行かせる事ねーだろうが !! 」
反対だ、と言わんばかりの土方を宥める様に近藤は言う。
「せっかくお誘い来たんだし断ったら悪いだろう。それに何だかんだで彼らは信頼出来る人達だし、優姫ちゃんだって懐いてるし」
確かに優姫は銀時率いる万事屋メンバーに懐いている。よく遊びに行ったりする位に。
「そうだが……」
ちらっと横目で優姫の事を見てみると嬉しそうにシンと話をしていた。
「あんなに嬉しそうにしちゃって今更『やっぱり駄目だ』なんて言えませんねィ」
総悟もそう言ったのだから土方は諦めて折れた。
「ったく……仕方ねェな……」
◆
「うっちゅうっうっちゅうっ !! 」
嬉しそうにターミナル内を走る優姫の事を見つつ銀時は言った。
「おめーら忘れ物とかしてねェだろうな?」
「銀ちゃんじゃないから大丈夫アル」
「そうですよ」
「なんだよおめーら!お父さんが心配して聞いてやったつーのに !! 」
「いつから銀さんが僕らの父親になったんですか」
きっぱりと言う新八に銀時は得意げな顔で答える。
「まァ気がついたら、みたいな」
「変な事言ってないでどんどん乗車チェック受けましょう」
そう言ってから新八はキョロキョロうろうろしている優姫の事を呼ぶのだった。
「お客様、ペットの連れ込みは禁止になっておりまして」
「違うヨ人形だヨ」
定春を連れて行こうとする神楽の事を呆れながら新八は見ていた。
「姉上も一緒に行けたら良かったのになァ……」
すると隣に座っていた優姫が得意げな表情で言う。
「じゃあお土産話沢山してあげるの――!」
「うん、そうだね」
「定春ゥゥゥゥゥゥゥゥゥ !! 」
神楽の叫び声に顔を上げると、見知らぬ人に噛み付いた定春がそのまま連れて行かれてしまっていた。
「あわわ、誘拐だ――」
その様子を新八は呆れ顔で見るのだった。
「……なんだあの人?」
◆