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一話

 

 

 朝。ソファーに腰掛けながら緑茶を飲んでいる影山は、目前に広がる光景をホンワカと幸せな気持ちで眺めていた。
 テーブルの上に作った朝食を運んでいる朔夜。そして、そんな朔夜の足元にくっ付いて離れない子供が二人。
 長子勝成、次子早志。影山家の一卵性双生児の初めての子供達である。
 イタリアへ移籍からの移住で影山たっての希望で作った子供。初めての妊娠と出産が双子となり、朔夜にはかなりの負担を与えてしまった。
 産まれるまで気が気ではなかったし、産まれた後も気が気ではなかった。
 が、そんな影山の心配を他所に子供達は朔夜の人脈もあり、周りから愛されてスクスクと成長をして、今の所大きな病気を患った事も無い健康良児。


 そんな我が子達も早いもので、気が付けば一歳七カ月になっていた。


「ご飯出来たよ〜」

 朔夜がそう言うと、勝成は影山の元へ、早志はてまりの元へと駆け寄って行き言う。

「とーたんごはん!」
「てまりごはん!」

 流石双子。息ぴったりである。

「そうだな、ご飯にするか」

 影山の足にしがみついてきた勝成の頭を撫でてから抱き抱え、てまりの所にいる早志の事も抱き上げてテーブルへと向かう。
 てまりは自分のペースではあるが、影山の足元をしっかり歩いて自分の餌入れへ向かう。

「とーちゃんとてまり呼んで来て二人とも偉いねぇ〜」

 影山から勝成を受け取り、椅子に座らせていく。
 そろそろ二年の時間が流れるのだから新米であっても母親が板についていて、朔夜は立派な母親になっていた。
 早志の事を座らせて、自分の椅子に座る。手の届く距離に二人ともいるので、何かあればすぐに対応出来るこの距離が影山は好きで仕方なかった。

 目に入れても痛くない程に可愛い我が息子だから。
 嬉しそうにお椀を見る勝成と早志は双子故に、全く同じ顔をしていた。

「新しい味噌でも届いたのか?」

 卵にわかめ、豆腐の入っている味噌汁を見て尋ねると、勝成と早志が得意げに言うのだ。

「こづけんくれた!」
「シロモといっしょにくれた!」
「孤爪さんからか。また今度お礼の連絡しないとな」

 ズズっと味噌汁を啜りながら、日本食の味にやっぱりホッとしてしまっていた。

「後でコヅケンの配信一緒にやる約束してるから、その時に伝えておくよー」

 子供が生まれてからは育休として朔夜は仕事を休んでいる。

 最低でも二人が五歳になるまでは、バレーボールに関わる仕事はしない事になっていて、一応形としては専業主婦だ。
 まぁ、実際は子育てが忙しいとは言え趣味の延長線で、孤爪研磨と頻繁にゲーム配信をしていたり、自分が面白いと思った小説等を日本語訳して売り込みをしている。
 世界的に人気があるコヅケン経由で宣伝する事が多く、翻訳本が日本で売れ行きが良いらしい。ネット配信収益と合わせて普通に稼いでいるのが現状であった。

「こづけんとあそぶ!」
「こづけんとどうぶつのもりやる!」

 配信、と言う単語を聞いて二人が足をばたつかせてしまい、テーブルが揺れるので影山は急いで二人の足に触れて暴れるのを止めさせる。

「孤爪さんは仕事でゲームしてるから、邪魔したら駄目だ」

 影山にそう言われると勝成と早志は互いを見合ってすぐに言い返してきた。

「こづけんあそんでくれるいった!」
「どうぶつのもりしまつくってくれる!」

 画面越しのゲームでしか関わっていないと言うのに、この懐きっぷりに影山は溜息が出た。朔夜に似ているのかコミユニケーション能力が無駄に高い。
 それから我が子達にはバレーボールを教える気満々でいて、男なのだから期待しかないと言うのに、二歳前にして既にこのオタクっぷり。完全に母親の血を強く引いている。


「……ゲームと同じ位バレーボールにも興味持ってくれよ」


 ボソリとだが本音を漏らすと、黙ってやり取りを見ていた朔夜が口を開いた。

「まだ二人は危ないから本格的なバレーは駄目」
「ぐっ!」

 ご飯をこぼす早志の口を拭きながら、朔夜は淡々と影山に告げるのだ。

「別にこの子達バレーボールに興味ない訳じゃないし。てかどっちかと言えば好きな方。ただまだ小さくて危ないから、飛雄たんが一与さんの時みたいに地域のママさんバレーに連れてく感覚で、プロの現場に連れて行って欲しくないだけ」
「…………で、でも早いに越した事はないだろ」

 朔夜の言葉は母親として正論でしかないが、やはり認めたくなくて反論をしてしまう。
 口先を尖らせた影山を見て、勝成と早志も同じ顔になって言う。

「ぼーるびゅん」
「とーたんびゅん」

 同じ顔が三つ揃った為に、朔夜が溜息を珍しく付いた。
 影山が昔から何かあると口先を尖らせる癖があるのは気にしていなかったのだけれど、子供達が真似をするならば話は別だ。

 誤魔化しや言い訳する時に、顔に癖が付くのが子供達は嫌だと感じたのだ。


「飛雄たん口先尖らせないで!また二人が真似してるじゃん!」


 朔夜に言われ、チラリと視線を移すと確かに二人共に口先を尖らせている。その顔が自分に似ているなぁと思っていたら、テーブル越しに脛を蹴られた。

「いっ !! 」
「同じ顔三つ見せられる見にもなれっ!」
「……だからって脛を蹴るのはないだろ」

 痛みに伏せる影山を横に、朔夜は二人に話しかける。

「とーちゃんの真似してその顔しちゃ駄目だから」

 その顔、と言われた勝成と早志は互いの唇をツン、と触ってから口を開く。

「とーたん、かーたんにおこられるとおくちつんしてる」
「おくちとがってるとーたんとおなじすると、かつとおなじかお、おもちろい」
「ほーーらーー!」

 影山の真似をして双子であり、父親と同じ顔になって面白いと言うのだから、朔夜の怒りの矛先はどんどん影山へと向いていく。
 このままだとマズイ、と影山は慌てて口を開いた。

「分かった!俺はお前達には絶対に勝てないんだから勘弁してくれ!」
「とーたんにかった!」
「かーたんつおい!」

 キャッキャッと喜ぶ二人の姿を見て、影山は溜息を漏らさずにはいられなかった。


 勝成と早志は二歳児前とは思えない程に頭が良い。会話の理解力も高ければ、言葉を覚えるのも早かった。
 そして何より、親の上下関係を把握しきっているのだ。


「……何でコイツらはこんなに頭良いんだよ…………」
「まぁ、その当たりは飛雄たんの頭の良さ、かなぁ……」
「……バレーに使ってくれよ」

 バレーボールよりもゲームに夢中の我が子が、影山は残念で仕方ないのだった。
(2022,4,29 飛原櫻)

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