疎との鳥 籠の禽
日向翔陽と飴玉
意中の相手がいるけれど、自分の思いを素直に伝える事が出来なくて。
恋人未満であるのは当たり前だけれど、友達以上と言えるのかが分からない。
自分はこんなにも想っているのに、相手はきっと自分の事を『仲の良い友人』としてか見てくれない。
そんな感情しか持ってくれていない相手に告白をして、友人、と言う関係すら失うのが怖く、一歩先へ進む事が出来ない。
でも、その一歩先を自分の意のままに進める事が出来るとしたら?
自分の望むままに出来るとするならば?
「この飴を口の中に入れて意中の相手に口付ける。そして相手の口内で舐め合いつつ、相手の好きな所を五つ伝えてごらん。伝えて飴を食べきれば相手はお前に惚れてしまうから」
差し出された掌にある二つの飴。
悪魔の囁きを聞き入れてしまえば、甘い誘惑に堕ちていくだけである。
企画夢小説
キャラメル デェア ディアボロ
日向翔陽と飴玉
彼女と出会ったのは本当に偶然。
体力作りの為にロードワークを一人でしていた所、荷物を落として困っていたのを助けたのが出会い。
他校の生徒だったけれど同じ歳であり、助けてくれたお礼を今度ちゃんとしたい、と連絡先を交換した。
一週間後に会った彼女は愛らしい、と言う言葉がぴったりの少女だった。
「日向君は体力凄いね。毎日通学で山越えなんて、私には絶対に出来ないよ」
「まぁおれ、中学の時から山越え登校してから、慣れこって言う感じかなぁ」
今日もまた会い、自転車で来たらそう言われた。
本来だったら片道一時間は掛かる距離なのに、会いたい一心で半分の時間で到着してしまったのだ。
予定よりも早すぎたと言うのに、待ち合わせ場所に彼女は既に来ていて、自分に会いたくて早く来たのではないのかと、日向の心は飛び跳ねている。
「この間、初めて試合見たけど、本当に日向君って凄いジャンプ力だったね。びっくりしちゃった」当に日向君って凄いジャンプ力だったね。びっくりしちゃった」
「練習試合だったけどね!それにまだまだだよ!おれは満足出来てないし、もっと上を目指せると思ってる!」
握り拳を作りながら力説すると、クスクスと笑われた。
その笑顔に耳まで真っ赤になっているのだけれど、日向の気持ちには一切気が付いてくれずにいる。
「あ、そうだ」
彼女は思い出した様に持ってきているカバンの中を漁ると、可愛らしいラッピングがされている小袋を取り出して言う。
「昨日カップケーキ作ったの。良かったら日向君に、って思って」
「いっ良いのっ !? 」
身を乗り出す様に食い付いて尋ねると彼女の顔が何時もより近くなった。
それに慌てて身を引くと、クスクス笑いながら返事をされる。
「勿論。日向君にも食べて欲しいなぁ、って思って作ったから」
そう言われて差し出された手にある小袋を受け取る為に手を差し出した。
受け取る時にちょっとだけだけど触れた手は自分よりも小さく、女の子なんだと日向は改めて思っていた。
「家帰ったら夏に見付からない様に、大事に食べるからっ!感想も絶対に伝える!」
「それじゃあ感想楽しみにしてるね。次は夏ちゃんの分も作ってこなきゃね」
笑顔で言う彼女に日向は頭がクラクラする位に、心がふわふわして気分が良いのだった。
◆
「それじゃあまたね。また試合見に行けそうだったら行くね」
「うっうんっ!」
可愛らしく小さく手を振る彼女と別れ、日向は夢心地で自転車を引きながら歩いて帰宅をしていた。
自分が恋した女の子は、本当に女の子の代表、と言わずにいられない少女だった。
小柄な身体に長い髪の毛。瞳は大きく睫毛は長い。
赤い唇は綺麗で、鈴の音(ね)の様に綺麗な声で笑う。
「……今日も可愛かったなぁ…………」
別れたばかりだと言うのに、もう会いたくて仕方ない。
他校の生徒である彼女とは頻繁に会う事は出来ない。本当にタイミングが合わなければ、一ヶ月だろうが会う事は叶わない。
「…………友達じゃなくて彼女だったら、何時でも会えるのかな」
無意識にそう呟いた日向は、茹でダコの様な顔になってしまい、必死に顔を左右に振った。
告白する度胸なんてない。何時も会うだけでいっぱいいっぱいだし、触れる事だって今日が初めてだった程なのだし。
でも本当は付き合いたい。あの愛らしい彼女が自分の恋人になってくれたら、と思うと空にでも舞い上がる気持ちになってしまう。
綺麗な髪に触れ、絹の様な頬に触れる。あの赤い唇に唇を重ね合い、そして……。
「……ちょっと落ち着こう」
妄想で股間がムズムズしてしまい、日向は前屈みになりながら、適当な裏道に入った。
落ち着け落ち着け、と何度も深呼吸をして自身の昂りを落ち着かせていた所。