疎との鳥 籠の禽
木兎光太郎と飴玉
意中の相手がいるけれど、自分の思いを素直に伝える事が出来なくて。
恋人未満であるのは当たり前だけれど、友達以上と言えるのかが分からない。
自分はこんなにも想っているのに、相手はきっと自分の事を『仲の良い友人』としてか見てくれない。
そんな感情しか持ってくれていない相手に告白をして、友人、と言う関係すら失うのが怖く、一歩先へ進む事が出来ない。
でも、その一歩先を自分の意のままに進める事が出来るとしたら?
自分の望むままに出来るとするならば?
「この飴を口の中に入れて意中の相手に口付ける。そして相手の口内で舐め合いつつ、相手の好きな所を五つ伝えてごらん。伝えて飴を食べきれば相手はお前に惚れてしまうから」
差し出された掌にある二つの飴。
悪魔の囁きを聞き入れてしまえば、甘い誘惑に堕ちていくだけである。
企画夢小説
キャラメル デェア ディアボロ
木兎光太郎と飴玉
「なーなー見てくれよ!エロ本拾った!」
「さいってい!」
スパーン、と打音が綺麗に鳴り響き彼女は怒りながら歩き去っていった。
顔を叩かれた木兎は頬を摩っていた。
「いってぇ〜〜何も殴らなくてもいいのにさ……」
綺麗にもみじ型の跡が付いたまま、木兎は歩いていた。
手に握るエロ本に目を落とし、ぺらっと中身を捲る。
裸の女性の写真が沢山あるのだけれど、求めているのは女優達ではない。
木兎が見たいと思っている裸の相手は、先程木兎を叩いて去ってしまった彼女。
セクハラ紛いな事をしてしまっている彼女こそが、木兎の想い人である。
彼女に対しては一目惚れ、である。
泣きぼくろがエロいと思ってしまうのと同時に、胸が大きかった彼女の見た目に一目惚れした。
それから何度も彼女を口説こうとしているのだけれど、毎回失敗している。
彼女の事を褒めようとする度に胸を見てしまい、酷い時はうっかり触りたいと口走る。
その度に怒らせ、叩かれ、の繰り返し。それでも木兎は根気よく彼女に声を掛け続けているのだった。
全ては彼女と恋人になりたいからである。
◆
「あっ」
木兎は放課後部活に向かう途中、彼女の事を見付けて嬉しくて声を掛けようとした。
が、その瞬間彼女の隣に赤葦が来て、二人仲良く話しながら歩いていくのを目撃してしまったのだ。
赤葦京治に浮いた話は聞いていなかったし、本人も彼女はいない、と言っていた。言っていた筈なのに、彼女と仲良く歩いていた事実に木兎が黙っている訳がなかった。
赤葦と彼女が別れた瞬間に、木兎は物陰から飛び出した。
「わっ、木兎さん何しているんですか?新手の嫌がらせだったら止めてもらっていいですか?」
「あかーし!どう言う事だぁっ!」
何故か怒っている木兎なのだが、赤葦は本当に思い当たる節が無いので首を傾げた。
その様子が木兎には『余裕あります』に見えたらしく、ビシッと指を指しながら言い放つ。
「お前は今日から俺の敵だっ!」
「話聞きますので、落ち着いて下さい。木兎さん」
赤葦の顔はまた木兎の面倒事に巻き込まれた、と言ったモノであった。
◆
木兎の主張を一通り聞いた赤葦は、木兎の事を本気で引いた顔でいた。
「何だよその顔っ!」
怒る木兎に赤葦は大きく溜息を付いてから答えた。
「いや、まさか話に聞いていた『上級生の先輩』が木兎さんであった事実に本気で引いています。木兎さん、人として神経疑いますよ」
「どう言う事だよっ」
ぷりぷり怒る木兎に赤葦は大きな溜息を付いてから、木兎の事を責め立てた。
「彼女は同じ委員会の子です!そんな彼女は『二ヶ月前から変な先輩に絡まれて困っている』と話をしていたんです!その先輩、が木兎さんだったんです!」
「俺の事、話してくれてたのかっ?」
彼女の話題に自分がいると木兎が喜ぶので、赤葦は酷い頭痛を感じながら、年上だろうが関係ないと木兎を叱る様に言い続ける。
「彼女の悩みは『知らない上級生が執拗く付きまとってくる』、『声を掛けられたかと思えばあからさまに身体を見られている』『三度に一度身体を揉ませてくれ』って言われてるって話してたんですよ!木兎さん何をやってるんですかっ!男バレ部活動自粛させたいんですかっ!」
マシンガントークの様に赤葦に叱られ、たじろんだが木兎は正直が自分だと思っているので必死に反論を試みた。
「俺は彼女の事が好きなの!顔も身体も性格も全部!」
「だからって常識を考えて下さい!ちゃんとしたお付き合いをしている男女ならばまだしも、向こうは!木兎さんの事を!知らない!他人なんですよ!木兎さんがしている事は変質者の痴漢です!」
「ぐっ !! 」