疎との鳥 籠の禽
木兎光太郎と飴玉
赤葦に口で勝てなく口篭ると、赤葦は本気で木兎の事を汚いモノを見るかの様な軽蔑の眼差しを送りながらに言う。
「人としても男性としても女性に対して失礼千万です。反省して下さい」
◆
赤葦にみっちり叱られ、木兎はしょぼくれモード出歩いていた。
赤葦は恋をしていないから自分の気持ちを分かってくれないんだ。
好きな子がスタイル良ければねっとりとする視線で見ていたいし、触りたい気持ちが。
「はぁ〜…………」
木兎は道路の端にしゃがみ込むと、ブチブチと雑草を引き抜きながら、独り言を言い始めた。
「彼女の事が好きなんだよぉ〜〜。俺の彼女になって欲しいんだよぉ〜〜。触りたいぃ〜〜キスしたいぃ〜〜」
色欲の塊の言葉を紡いでいると、いつの間にか木兎の隣に男の子がいた。
木兎の真似をする様に雑草を抜いている少年は、ギリギリ小学生になった位の歳だろうか。
気配なく隣にいたのにちょっと驚いたけれど、そんな事よりも彼女への想いを口にする事の方が大切だった。
「会いたいぃ〜抱きしめたいぃ〜、おっぱい触りたいぃ〜」
そう言った所、男の子の雑草を抜く手が止まって口を開いたのだ。
「お兄ちゃん、好きなお姉ちゃんがいるの?」
尋ねられた木兎はブチブチと抜き続けながらに答える。
「そうなんだよぉ〜〜。お兄ちゃん、大好きな子がいるのに、俺の気持ち全然伝わってくれないし、後輩には怒られるし……俺は彼女の事が好きなだけなのに……」
口にすると改めて悲しくなってきて、しょんぼりと雑草を抜く力すら無くしてしまう。
そんな木兎の頭をぽんぽんと叩きながら、男の子は言う。
「つまり、お姉ちゃんがお兄ちゃんの事を好きになってくれればいいんだね?ぼく出来るよ」
ニコニコと笑顔で言い切った男の子に、木兎は細い声で尋ねた。
「ホントに?お姉ちゃんをお兄ちゃんに惚れさせてくれるの?出来るの?」
「うんっ!ぼく出来るよっ」
男の子はハッキリと言うと、スボンのポケットに手を突っ込むと男の子の手には大きい飴玉を二つ取り出したのだ。
「飴玉?おいしそーだなぁ」
「一人で食べちゃ駄目だよ!お姉ちゃんと一緒に食べてね!」
「一緒……?」
男の子の言葉に木兎のしょぼくれが消えていき、飴玉を食い入る様に見た。
濃いピンク色の飴玉と紫色の飴玉。見た目は本当にただの飴玉にしか見えない。
ちょっと美味しそうな位の感想しか出てこない。
「この飴はねっ、欲望のお願い事を叶える魅惑の飴なんだよっ」
「どう言う事?」
「これを使えばお姉ちゃんはお兄ちゃんの虜になるんだよ」
木兎に冷たい彼女が木兎に虜になる。
男の子の手から飴玉を取ると、男の子は流暢に話し始めた。
「このピンクの飴から使えば、お姉ちゃんはお兄ちゃんのモノになるんだよ。あっ、二人っきりの場所で口に含んで、お姉ちゃんのお口の中に直接渡してね」
男の子の説明に木兎は食い付き気味に尋ねた。
「それって、彼女とキスして、って事だよな?」
「うんっ、そうだよ。お姉ちゃんにキスしてお兄ちゃんのお口の中からお姉ちゃんのお口の中に渡すんだ」
彼女と一緒に飴を食べる為に、あの何時も綺麗にグロスが塗られていて艶っている唇を奪えると思うと、木兎はワクワクしてきた。
「それでね、お姉ちゃんのお口の中に飴玉渡したら、そのままお姉ちゃんのお口のなかで仲良く舐め合ってね。大丈夫だよ、お姉ちゃん、絶対にお兄ちゃんの言う事きいて舐め合ってくれるから。二人で舐めてお口の中、飴の味でいっぱいになったらお姉ちゃんの好きな所を口にするんだよ」
「うんうんっ」
子供の話だと言うのに、木兎は本気にしているらしく、真剣な顔で頷いている。
そんな木兎を見ながら男の子は噛まずに言う。
「好きな所を伝えたらまた二人で飴舐めて。でもすぐにまた好きな所お姉ちゃんに伝えてね。お姉ちゃんの好きな所五つ言ったら、飴が無くなるまで舐め続けるんだ。飴が無くなっちゃったら、お姉ちゃんに名前を呼んでもらって。普段と違う呼び方をしたら、お姉ちゃんはお兄ちゃんが好きで仕方ないんだよ」
「マジか。この飴すげぇな……。なんて言う飴なんだ?コンビニに売ってる?」
陽の光で少し透ける飴玉に木兎が目を輝かせていると、男の子は笑顔で言った。
「売ってないよ。それは悪魔の惚れ薬でね。お姉ちゃんの事が好きで好きで大好き、ってお兄ちゃん言うから特別にあげるねっ」
男の子の言葉に木兎はテンションを上げて言った。
「惚れ薬とかすげーな!ありがとうなっ!お兄ちゃん、これ明日お姉ちゃんに使って俺の事、大好きにさせてくるから!」
◆