疎との鳥 籠の禽
木兎光太郎と飴玉
「俺滅茶苦茶良いの貰ったから、使おっ」
部活のない放課後。彼女を探して一人徘徊していて、木兎はやっとの思いで彼女の事を見付ける事が出来た。
また木兎が変な事をしようとしていると決め付けている彼女は、木兎の事を無視して帰ろうとした。
けれど、木兎に強引に手を掴まれたかと思うと、グイグイと引っ張られて驚いて声を出した。
「ちょっ!何っ !? 何処に行くのよっ!先輩話聞いてるのっ !? 」
彼女の問い掛けを無視して、木兎は階段下にある小さな格納庫の扉を開けた。
ここは災害時の備品を保管している所で、普段は鍵が掛かっている。
その鍵がたまたま壊れていたのを、木兎は見付けたのだ。
惚れ薬を使う為には二人っきりの場所が必要。そんな時に鍵が壊れて入れる事を知ったのだから、使わない訳がない。
「よっと」
屈み込んで中に入るとそのまま彼女引っ張って無理矢理連れ込むと、ドアをしっかりと閉めた。
外からは閉められなくても中からは閉められるのだから、鍵を掛けて密室を作り上げた。
「ちょっと先輩!何なのよっ本当にっ!」
荷物がぎっしりの狭い空間に二人で入っているので余計に狭い。
木兎はいい所に座ると彼女の腰を引き寄せ、無理矢理自分の膝の上に座らせると、ルンルンで飴玉を取り出した。
飴玉を見せられた彼女は、訳が分からないと言った表情で尋ねてきた。
「飴っ?それがなんだか知らないけれど、また叩かれる前に離してっ」
逃げようとするので逃がさないと木兎は強く腰を抱き、口を使ってピンク色の飴玉を包み紙から出して言った。
「これ一緒に舐めよっ」
「はっ !? 舐めっ !? 」
驚いて反射の様に叩こうとしてきた彼女の手を避け、彼女によく見える様に飴玉を見せて言う。
「これ惚れ薬なんだって!」
「はぁ !? 」
木兎の言葉に彼女の声が裏返る。エロ本だけでは飽き足らずに、飴玉を持ってきてそれを惚れ薬と言っている木兎。
本当に木兎には付き合いきれないと胸元を押し返すけれど、体格差の所為でビクともしない。
「惚れ薬とか頭おかしいっ!変な事に私を付き合わせないでよっ!離してっ!」
グイグイと押して逃げようとする彼女が可愛いと思いながら、木兎は飴玉を口に含んで言う。
「ねっ俺に惚れてよっキスして舐め合おっ?」
後頭部を掴んで逃げられなくして、彼女を引き寄せていく。木兎の行動の早さに彼女は顔を真っ赤にして、消え入りそうな声で言う。
「やっ……嘘っ……待って冗談……」
「じゃないから惚れ薬食べて」
「止めっ……」
顔を固定されて動けない彼女の顔がどんどん近付いてくる。
可愛い彼女に惚れ薬を与える瞬間が来ると木兎は胸を踊らせながら、グロスで綺麗に光っている彼女の唇を求めた。
鼻先が触れてしまい、羞恥心で泣きそうな顔の彼女が口を開く。
固定された顔は否定の首振りをさせる事も赦さず、唇を差し出せと触れてしまう距離にまで迫られて、彼女が小さく言いかけた。
「……駄目せんぱ…………」
けれど彼女の言葉を塞ぐ様に、木兎は口付けをした。
本気で自分に手を出てきた木兎に怯んで、彼女は何時もの様に木兎を振り払えずにキスをされてしまった。
彼女とのファーストキスに木兎は高鳴る気持ちに正直になりながら、口の中にある飴玉を彼女の口へ移そうと押した。
トントン、と飴玉が彼女の塞がれた唇に触れ、口を開ける様に指示する。
木兎からの口付けに震えて目を閉じていた彼女だけれど、執拗に飴玉が唇に押し付けられてくるので、目を開いた。
キスをしている超至近距離で木兎と目が合った彼女は、飴玉を受け取らない限り木兎がキスから解放してくれないと悟った様だった。
恥ずかしそうに顔を赤くし、震えながら口を開けた。
彼女が惚れ薬を受け取る為に開けてくれたのだと、遠慮なく木兎が飴玉を口の中に入れてしまえば、彼女の身体の震えが止まった。
相変わらず赤い顔をしているけれど、瞳は潤んでポーっとしているのが分かる。
(惚れ薬受け取ってくれたっ)
彼女の口の中に飴玉が入ったので、あの男の子に言われた様に舐め合おうと、彼女の口の中に舌を入れた。
飴玉は彼女の口の上に乗っていて、控えめに舐めている様だった。
(ちゃんと舐めてる偉い偉いっ)
彼女の頭を撫でつつ飴玉を舌で取ると、いきなり口の中が甘酸っぱくなって、流石の木兎も驚いた。
ずっと味がしていなかったので、惚れ薬は味が無いのだと思い込んでいたのだけれど、ちゃんと味はあったようだ。
それが何で彼女の舌の上から飴を舐めとったらしたのか分からないが、美味しい味で木兎は喜んで飴玉舐めた。