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#4 父母

 

 

 俺達の親も勿論であり、メニュー表を俺達に渡して雑談を始めていた。
 お子様ランチがあるページを見ながら、出久も目を輝かせている。俺も腹が減っていたし、オマケの玩具も貰えるのだからソワソワしてしまう。

「お子様ランチの玩具は一人一個、このカゴの中にあるのから選んでねー」

 店員の女の子人がそう言いながら、おもちゃが入っているカゴを出してきた。

「オールマイトあるかなぁ !! 」
「オールマイトなんかあったら瞬殺だろ」
「しゅんさつ?」
「かっちゃんは本当に難しい言葉いっぱい知ってるね!」

 俺の言葉に首を傾げる命と、目を輝かせる出久に、照れているのを気が付かれない様にドンとした状態で言ってやった。

「出久と命が何も知らねぇだけだっての」
「出久、しゅんさつ、って何?」
「えっと……」

 答えられずに口篭る出久は、助けを求める様な視線を俺に送ってくる。その姿を見て、はぁと溜息を付いてからさも知っていて当たり前の様に俺は言ってやるのだ。

「瞬殺つーのは、ほんの短い時間っつー意味合いだよ」
「かっちゃん本当に何でも知ってるね!」

 俺に尊敬の眼差しを送ってくる出久に鼻が高くなっていると、命はゆっくりと小首を傾げて言う。

「短いじかん?」

 余り命にはピンと来なかったらしい。命にも分かりやすい説明はないかと考えていた所で、絶の事を見て教えてやった。

「この間のスーパーの肉の特売の日。絶、肉の取るまで滅茶苦茶早かっただろ?あー言うのを瞬殺って言うんだよ」

 主婦にとって特売入手程大事な事はないと、目にも止まらぬ速さで特売肉を手に入れた絶は言っていた。
 確かにあの時の絶の動きはまるで熟練の敵かと思う程の覇気もあった位だ。
 親で誰よりも身近な存在である絶で説明されて、命は理解したらしい。
 絶の事を目を輝かせながらに見て言う。

「お母さんしゅんさつ格好良い」
「オールマイトの玩具なんか、そんな感じに合ったらすぐに誰かに持ってかれるんだよ。合ったら運が良い」
「でもやっぱりオールマイトが欲しいなぁ……」

 ガサガサとカゴの中を漁りながら言う出久を見て、命は徐にカゴの中に手を入れると掴んだ物を取り出していた。
 それはソフビ人形のオールマイト。二個掴み出した所を見ると、俺と出久に一つずつの様である。

「オールマイトだ!」

「……よく見つけられたな」

 カゴの奥底の分からない位置にあったにも関わらず、命には見えていたのだから相変わらず運の良い奴だ。
 案の定俺と出久に渡すと、命はじっとカゴの中を見つめていた。

「命ちゃんは何が欲しいのかな?」

 オールマイトを手に入れて上機嫌の出久に尋ねられ、命はポツリと答えた。

「……おつきさま」
「お月様かぁ……お星様ならいっぱいあるんだけどなぁ」
「形の問題なんだろ。月なんかただの丸なんだし」

 そう言いつつも命の為に俺と出久は月を探していた。でもやっぱり月は見つからないで、出てきたのは星ばかりだった。
 その結果にシュンとしている命に、出久は慰める様にカゴの中に合った星の髪留めを取って言ってきた。

「今日はお星様にしよう!ほら、お月様の周りにはお星様もいっぱいあるから、お月様きっと喜んでくれるよ!」

 ニコニコと笑いつつ、髪留めを袋から出し出久は言う。

「ほら!付けてあげるよ!」

 そう言いながら命の横髪を留める。命の水色の髪色に星の黄色はとてもよく映えて似合っていた。
 でも出久が付けたからか、髪の毛が寄っているし傾いていて見栄えが悪い。はぁ、と溜息を漏らしてから俺が改めて付け直してやった。

「凄い似合うよ、命ちゃん」
「ほんと?」
「うんっ」

 出久に褒められたのが余程嬉しかったらしい。
 命が珍しい位に嬉しそうな表情をしながら、グラスの氷を見つめていた。結露が滴り、氷が溶けてカランと鳴るのを見つめているとお子様ランチが三つ届いた。
 やっと食べられるとフォークとスプーンを手に取り食べつつ、命が零したりしないかを見ている中、親達の会話内容がふと耳に入って来た。

「あら、そうなの !? 」
「そうそう、やっと三日間の休みが取れてねぇ〜」
「何時帰って来るの?」
「ゆっくり命と遊んであげたいみたいだから、来週の土日月」

 来週。帰って来る。
 その単語を聞きつつ、俺はケチャップで汚れている命の顔を拭いているのだった。


 三日後。幼稚園に登園するやいな、命が俺に飛びついてきたのだった。
 出久じゃなくて俺なのが珍しい、と思いながら頭を撫でてやるとパッと顔を上げた命が口を開いたのだ。

「かっちゃん!かっちゃん!」
「何だよ、朝から珍しいな」

 俺がそう言うと、命は今までに見た事が無い程の笑顔で話を続けてきた。

「お父さんがかえってくるの!みんなでお出かけする、ってお母さんが言った!」

 半年間、一度も見なかった命の父親、大地が帰って来ると言う事実に俺は目を見開いて、すぐに返答してやれなかったのだった。
(2022,2,16 飛原櫻)

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