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#4 父母

 

 

ちちと、はは。ちちはは。両親。

goo辞書より転載

 地殻家は三人家族、らしい。


 父親と母親と命。


 母親の名前は地殻絶。俺の母親とはまた違ったタイプの、気の強い女性だった。
 なんて呼べば良いのか尋ねた事があり、本人は笑いながら名前を呼び捨てすれば良いんじゃないかと言い、俺は本当に絶と呼んでいた。
 長身ですらっとした細い体型。キリッとした切れ長の目が気の強さを物語っている人。
 モデルとかやっている、と言われたら信じそうになる位の雰囲気を持っていた。
 絶の職業は、分からない。専業主婦……には見えないが、かと言って働いている姿を見た事もない。
 ちょこちょこ旦那の手伝いがある、と不在になる位で。
 個性に付いては教えてくれないので、知らない。絶曰く、『使い方次第で危ない個性』であるらしい。
 一人娘である命の事を本当に大事にしていて、その命の友達である俺と出久の事も大事にしてくれていた。


 隠している事は多いのだが、裏表なく、俺達三人の事を平等に特別視しない絶の性格が俺は好きだった。


 俺の中での絶は『命の母親』であるのと同時に、『気の許せる近所の姉貴』的存在であった。

「絶達はここに引っ越してくる前は何処に住んでたんだよ」

 俺がそう尋ねる度に、絶は笑いながら本気なのか冗談なのか分からない声色で答えてくる。

「くっっっっそヤバい位の山ん中。霧が消えなくて年中真っ白な所」

 秘密が多くても絶は嘘は付かない。それに命が話していた事と一致するので、本当にそんな所で生活していたのだろう。

「なんでんな所に住んでたんだよ」

 続けて尋ねると絶は遠くを見る様な表情になり、言うのだ。

「色々と遭ってねぇ……人がいない所が良かったと言うか、安全だったと言うか」
「意味分かんねぇ」

 ブスっと不貞腐れると絶は乱暴に頭を撫でてくる。俺と出久にだけしてくる、優しいけれど乱暴な頭の撫で方。
 命にはしないので、俺達が男だからしてくるのだと思っている。

「まだまだガキの勝己には難しくて早いからねぇ。アンタがもっと大きくなったら教えてあげるよ」
「大きくなったら、ってどれ位だよ」

 尋ねる俺に絶は少し考えてから、笑顔で正直に答えてくれたのだった。

「そうだね、じゃあ勝己が高校生になったら、はどう?それ位の年齢になれば理解力も付くでしょ」

 高校生。今の俺には途方も無い程に先の話。

 でも、絶が高校生になったら、と言ったら絶対に守ってくれるので俺はそれ以上は追求しなかった。

「命の奴が」
「ん?」
「命がお父さんに会いたいって俺に言ってきた」

 地面に落ちていた木の枝で地面をぐりぐり掘りながら言うと、絶は言う。

「あの子、父親の事が大好きだからねぇ」
「命の父さんは何処にいるんだよ」

 俺の問い掛けに絶は少し濁す様な言い方で返してきた。

「そこら辺に転々としてる」
「何だよそれ」
「仕事が忙しくてねぇー。一箇所には居られないんだよ」

 あはは、と笑う絶の事を黙って見つめた。俺が何を訴えているのか分かってくれたのか、絶は俺の頭に手を乗せて言った。

「大地。地殻大地。それが命の父親の名前」
「……大地はなんの仕事してんだ」
「誰でも救ける仕事」

 救ける仕事、と言われ一瞬ヒーローが頭を過ぎったが、親がヒーローだったら命がヒーローの事を分からない訳が無いと、それは無いと判断した。

「少しの間サボってた分のツケが来てて、休みが無いんだよね。自業自得だけどさ」
「大人の癖にサボってんのかよ」

 仕事をサボるなんてろくでもない奴なのかと思っていると、絶の表情が何処と無く柔らかくなった気がした。
 ぐしゃぐしゃと頭を撫でながら、絶は言った。

「命を護る為にね、人目に付く事が出来なかったんだ」
「命、危ねぇのか !? 」

 護る、と言う単語に慌てて立ち上がると、絶はゆっくりと話してくれた。

「大丈夫、今は危なくないから。危なかったら此処には住めないでしょ?」
「……じゃあまた何時か危なくなったりするのか?」

 ギュッと両手を握り締めながら絶を真っ直ぐ見ると、絶は目を逸らさずに真っ直ぐ見つめ返して答えた。

「それは分からない」
「 !! 」
「でも」
「……でも?」
「勝己と出久はヒーローになるんでしょ?じゃあヒーローになった二人に命の事を護ってもらえば、何の問題もないじゃない」

 ニカッと笑いながら言う絶に、顔が真っ赤になった。
誰もが憧れる職業であるヒーローは、俺と出久の目標である。何時かナンバーワンヒーローオールマイトの様になるのが、夢。

「勝己も出久も強いヒーローになりそうだから、将来安泰だわー。期待してるわよ、未来のヒーロー」

 ポスッと胸を叩かれ、どこか熱く感じる胸元をギュッと掴んだ。

「おかーさん!かっちゃん!」
「ごめんなさいね、待たせちゃったかしら?」

 背後から命と出久の母親の声がして振り返る。そこには出久の母親とその母親の手をしっかりと掴んでいる、出久と命がいた。

「緑谷さんごめんなさいね、命べったりで」
「私は全然平気よ。命ちゃんと一緒にいると娘が出来たみたいで、ついつい女親として嬉しく思っちゃうのよ〜」
「あー、分かる分かる。私も勝己と出久がいると息子が出来たみたいになるもの。私の性格こんなんだから、息子って良いって思っちゃってねぇ〜」

 楽しそうに雑談を始めているのを見ていると、出久の母親の手から離れた命と出久が真っ直ぐに俺の所に来た。

「ったく、トイレ位一人で行けよな」

 俺が呆れながらに言うと、出久は顔を赤くしながら必死な表情で訴えてきた。

「だっ……だって公園のトイレって外見えるし、時々でっかい虫が出るから怖いじゃん!僕、かっちゃんみたいに強くないんだし」
「出久とママと一緒」

 出久のトイレに付き添ってきた出久の母親と、その二人にべったり離れたがらない命。見慣れた光景を見ていると、俺の母親も戻ってきた。

「ごめんなさい、電話長くなっちゃって」

 俺の母親も戻ってきたので、やっと飯にありつけると持っていた木の棒を捨てた。

「かっちゃん」

 出久が俺の隣へ来ると命もすぐに来た。本当に金魚のフンの様に二人は着いてくる。
 出久のいる所には必ず着いていく、と言わんばかりの命だったけれど、ギュッと俺の手を掴んできた。
 小さな命の手を握って頭を撫でてやる。ぐしゃぐしゃになる髪の毛を見ると、俺の頭の撫で方は乱暴なのだと思う。
 でも命は嬉しそうに撫でられている。

「かっちゃんに頭撫でてもらえて良かったね」
「うん」

 俺が頭を撫でてやるのを止めると、今度は出久が命の頭を撫でている。ゆっくりと優しく、ボサボサになった髪型を整えていく感じに。
 俺達の頭の撫で方は互いの性格を本当に表していると、出久と命を見てぼんやりと考えていた。

「さーて、お昼食べに行こうか」

 絶の言葉に、命の目が輝いた。そんな気がしていた。





 ガキを連れた大人達の井戸端会議にはファミレスはもってこいらしい。
 お子様ランチに気を取られている子供を横目に、雑談に花を咲かせるのだから。

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