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二次元の黒髪短髪ツリ目は最強

 

 

 オタクにとって何よりも大事なのは金銭確保。未成年、ましてはアルバイトも許されない義務教育中に、推し作品のイベントやら次々に出るグッズは地獄以外説明が出来ない。
 お小遣いには限度があるし、お年玉だって使えばすぐに無くなる。貯金なんて単語オタクの辞書には存在せぬ。
 その為に諦めたグッズは山の如し……。
 だから高校は帰宅部があり、アルバイト許可が出る所に行くとずっと決めていた。交通費も掛からず、徒歩か自転車で通える事も大事なポイント。
 全ての条件をクリアした高校が宮城県立烏野高校。
 進学クラスがあるけれど普通クラスならばそんなに偏差値も高くなくて自分の学力で問題無くいける。
 勿論受験シーズンはそれなりに勉強を頑張り、無事合格。

 これから夢のオタクライフ、オタ充するぞ!と意気込んでの入学式当日。
 桜がなんとか入学式までもってくれてピンク色の入学式日和。これから始まる高校生活に花を咲かせながら歩く新入生の中に一人、朔夜はジッとスマートフォンの画面を見ながら歩く。
 リア充には入学式は大事かもしれないが、オタ充に大事なのは如何に時間を無駄にせずに素早く、かつ正確な情報収集する事が出来るか、で全てが決まる。
 ネット社会は便利の一言しかなく、スマートフォンを手にしたらもう手放す事など出来ない。まぁ、パソコンには勝てないけれど持ち運びはスマートフォンの一人勝ちである。
 ここ数年の朔夜の推しキャラは家庭教師ヒットマンREBORN!に出てくる雲雀恭弥。ただし、彼と自分がイチャコラするのではなく、彼の隣にこんな女の子が居たら全力で萌える!と言う思考持ちだった。
 ただ、黒髪短髪ツリ目キャラが兎に角好きであった。その理由は己の髪の毛の色が黒髪でない事である。
 中学時代はちょこちょこ地毛にも関わらず、頭髪検査に引っかかったのも懐かしい思い出になる。

「どこかに黒髪短髪ツリ目の二次元男子は落ちてないかっ!もしくは二次元と三次元の壁を突き破りたいっ!」

 今から入学式を迎えるとはとてもではないが思えない言葉を朔夜はくぅっと悔し顔で一人呟きながら校門をくぐるのだった。



オタク+オタク=?
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「えっと名前……名前…………」

 新入生名簿が貼り出された掲示板から自分の名前を探す。ついでに中学から同じである友人二人の名前も探す。
 オタ充ライフは大事だが、気の置ける友人とはやはり同じクラスになりたい。あわよくば語りたい。下心はオタクの必需品である。

「あ、合った合った」

 一組から順番に名前を探してきて無事に三組に名前を見付けた。幸運な事に友人二人とも同じクラスであった。
 初日ボッチ回避!と心の中でガッツポーズをしてから友人にLINEを飛ばす。


殿下:『うぇーい!同じクラスktkr』
隊長:『腐れ縁』
総帥:『うん、腐れ縁だね』
殿下:『これで存分に語れるぅー』
隊長:『総帥今何処?』
総帥:『もう教室向かってるよー』
隊長:『おー、じゃあ俺も靴箱にいるし向かうわー』
殿下:『安定のスルー !! 私も教室行くばい!』


 それなりに付き合いが長い二人とのやり取りなど何時もこんなモノだ。気にする事はないのでぽちぽちとスマートフォンを弄りながら教室へ向かう。
 入学式まで後少しの時間なのだから色々と廊下を行き交う人達とすれ違ったり、如何にも高校生!と言わんばかりの同級生を生暖かい目でスルーする。
 人種が違う人が同じ歳なのに眩しいのは何故だろう。

(…………ビバ、オタクライフの高校生活!)

 これから始まる高校生活と今まで制限されていたオタク活動を充実させると意気込み、そっとスマートフォンを取り出して再度情報チェック。始業式が始まったら暫くチェック出来なくなるのだし、教室入るまでの間と自分に言い聞かせる。

「…………あ――、Blu-ray観たい」

 そう呟きながらガラッと半開きだったドアを開けて教室へ入ろうとスマートフォンから顔を上げて……固まった。
 教室内は友人同士で集まっている人、静かに席に座っている人、と様々だったがその中の一人。頬杖を付きながら仏頂面で座っている少年。


 黒髪単発ツリ目。


 ここは間違いなく、三次元の筈……だ。
(2018,6,19 飛原櫻)

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