疎との鳥 籠の禽
9ページ目
出撃!烏野高校排球部!
その一人、金髪長身眼鏡と眼鏡合った刹那……。
「シャー !! 」
「いででででっ !? 」
「……え、何……?てか誰?」
威嚇している猫状態の朔夜に、菅原は慌てて駆け寄ってきて言う。
「うんちゃんどうしたべ !? あの二人チームメイトの月島と山口だからっ」
菅原からの説明を受け、朔夜はもう一度月島を見ると威嚇を再開した。
「……本能が月島を嫌ってるのか?」
朔夜の性格から、誰にでも懐くとばかり思っていたら、しっかり好き嫌いがあるらしい。だが、それで猫の様に威嚇するのは高校生としてどうかと思うが。
「……で、本当に誰ですか、その子。何で僕に威嚇してんの?」
「そうだぞ!ツッキーに失礼だぞ !! 」
「山口は五月蝿い」
月島の一言に山口がシュンとしていると、それを見て朔夜が言ったのだ。
「うるせー !! 眼鏡に指紋付けてやろか !! 」
「…………」
その言葉に月島は何故、同じ眼鏡を掛けている人間に眼鏡を馬鹿にされたのか理解出来なかった。それに、やろうとしている事がお子様過ぎる。
「……」
スっとチョキを作って朔夜の事を見下ろすと、喧嘩でも売られたと思ったのか、影山から離れて朔夜は構えて言う。
「やんのかこんにゃろー !! 」
なんだこの生き物は、と思いながら、月島は取り敢えず朔夜の眼鏡のレンズにべとっと指を付けてやった。
それをやられた刹那、朔夜は四つん這いになって嘆き騒いだ。
「ア゙ァ゙ー !! レンズに指紋付けられたぁ !! 明日も見えないぃー !! 」
「……何この変な生き物」
月島が眉間に皺を寄せながら呟くと、駆け寄ってきた田中が言う。
「月島何て野郎だ !! 女子にも容赦ねぇとかそれでも男かよ !! 」
「そーだそーだ !! 海野さんに謝れー !! 」
田中に便乗する様に日向も言うと、月島はこれ以上ない位に嫌そうな顔をしながら、澤村の方を向いて尋ねる。
「男バレって一年のマネージャー希望いないんじゃなかったんですか?」
「あー……その子は入部希望者じゃなくて、んと……影山の彼女?らしくて見に来ただけらしい」
朔夜の立場を知り、月島は影山を見て言う。
「へぇ〜〜、王様って人並みに女子に興味あるとか意外」
「あぁ !? 」
月島の馬鹿にする言い草に影山が反応すると、それとほぼ同時に眼鏡のレンズを拭いた朔夜が眼鏡を掛け直しながら言った。
「王様?」
何の事じゃ、と言う朔夜に影山が視線を逸らしていると、月島は察したのか更に煽る様に言ってくるのだ。
「あ、もしかして王様隠してたんだ。ごっめーん」
「っ !! 」
影山が怒って月島の所へ行こうとしたのとほぼ同時に、朔夜がふにゃりと土下座をした。
突然の事に全員固まっていると、朔夜は土下座したままに言う。
「そんなそんにゃ王様なんて高貴な血族とも知らずににに……」
「王様じゃねぇから止めろ !! 」
影山が怒鳴り言うと、朔夜は思い出した様に起き上がり、手を叩きながら言ってきた。
「あ、でも私のあだ名殿下だし、おっけーか。王様ぁー王様ぁーミッキーマウスぅー !! 」
「意味分からねぇ事言ってんな!後、王様呼ぶなっ !! 」
ガーガーと怒鳴る影山を見つつ、うっかり流し掛けた事を山口が口にした。
「……あだ名が殿下?」
「うん」
ピタッと止まった朔夜は頷きながら説明をしてきたのだった。
「私が殿下でー、友達が隊長と総帥」
「何の組織 !? 」
「うえっへっへっへっ」
全力でツッコミをいれてくる山口に向かって、朔夜はドヤ顔で得意げな顔をしている。
そして改めて月島と山口の二人を見て、影山に尋ねた。
「……敵?」
「……対戦相手」
影山の返答を聞くと、訳の分からないポーズをしながら、朔夜は山口にも威嚇をして言う。
「敵とは仲良くせーん!」
「えぇっ !? 」
どうしよう、と言わんばかりの視線を送ってくる山口を見て、月島は二度目のレンズ攻撃をお見舞いするのだった。
再びの指紋攻撃に朔夜は膝を付きながらに、嘆いていた。
「あぁぁぁぁ !! 二度も指紋をぉ!鬼だ!悪魔だ!」
「くそっ…… !! うんちゃんの仇は俺達がしっかり取ってやるからな !! 」
「たにゃかぱいせーん」
くだらないやり取りを見せつけられた、と言わんばかりの月島を見つつこのままだと終わりが見えないな、と菅原が動いた。
「じゃあそろそろ試合するから、うんちゃんは俺達とこっちで一緒に観てようなぁ〜」
「ふわぁ〜い」
菅原の後を付いていっていると、何やら田中がお怒りの様子で月島の事を見ていた。朔夜が見ていない間にどうやら月島が煽ったらしい。
それを教えてもらった朔夜はびゃーびゃー騒ぎながら言う。
「やっつけろー!イヤミ眼鏡粉砕したれー !! 」
「いや、眼鏡粉砕は駄目だべよ?うんちゃん」
「えぇー」
菅原の言葉に、朔夜は本気で残念そうに声を出すのだった。
(2021,8,24 飛原櫻)