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ラッキーすけべなどは
二次元だけである

 

 

「ラッキーすけべ、って言葉知っているか?」

 部活の後片付け中に、田中がいきなり言い出して全員の手が止まった。



ラッキーすけべなどは二次元だけである



「男の夢だな、龍!」
「流石ノヤっさん!すぐに分かってくれて嬉しいぜ!」

 ノリノリで答える西谷を見つつ、月島は冷めた声色でモップを掛けながら言う。

「現実見てくださーい」

 月島の通り過ぎていく姿と、怒る田中西谷の姿を見つつ、ネットを外している日向は向かい側にいる影山に尋ねた。

「なぁ、ラッキーすけべって何?」
「俺が知る訳ないだろ」
「じゃあやまぐ……」
「くぉらぁ!影山!お前だけはそれを言うな !! 」

 噛み付く様に言う田中に、日向と影山は同時に首を傾げてしまう。
 田中は日向は兎も角影山は、と言った様子だ。

「何で俺なんですか?」

 ネットを畳む手を止めずに尋ねると、田中は影山を指差し叫ぶ様に言った。

「お前がうんちゃん相手にラッキーすけべしているのは知ってるんだぞ!今日昼休みにお前、うんちゃんのパンツ見ただろ!知ってるんだぞ !! 」

 田中のその言葉に全員の動きが止まる。
 吹き出したり持っていた物を落としたり、阿鼻叫喚。
 流石の興味無い関係ないとスルーしていた月島も止まった。
 影山はと言えば、耳まで真っ赤にしてネットを落として固まっている。

「……はっ……まっ…………!」

 言葉が出てこない影山の姿に、流石の菅原も驚いた様子で尋ねてきた。

「え……影山マジか?」

 その言葉に影山は大慌てで言い出した。

「事故っ……事故ですっ!そもそもアイツがいきなり『私は空を飛ぶ!』とか言い出して、階段上からジャンプしただけで !! 」
「成程、その過程で…………見たんだな、影山。うんちゃんのパンツは何色だったんだ?」

 真顔で、どさくさに紛れて言った西谷に、影山は言う。

「教える訳ないですよね !? 」
「あー、うん。教えなくて良いぞ、影山」

 西谷の襟首を掴みながら言う澤村の姿に安心したが、それで引き下がる田中の筈が無い。
 自分は捕まっていないので、ズンズンと影山に歩み寄り責め立てる。

「可愛い彼女の下着見れるのは彼氏の特権だもんなぁー!…………はぁ?普通の女子高生は空飛ぶとか言いませんー!階段飛んだりしませんー!はぁ !? 彼氏居るからキャッチしてもらえますってか !? 」
「田中、止めるべ」
「うぉぉぉ!スガさん止めないでくれぇ!」

 菅原に羽交い締めに合い、連れていかれる中、田中は泣きながら言うのだ。

「後輩の声が聞こえたと思ったらデカい音がして、何だと行ったら階段下でイチャついてる姿見せられた時の、俺の気持ちを分かってくれぇー!」
「イチャついてないんで!降ってきたアイツ受け止めようとしたら、そのままバランス崩して倒れていただけなんで!」

 影山の言い分に、ピタッと止まった田中は昼休みの状況を思い返したらしい。
 またすぐに悔しそうな顔で言う。

「それで彼女のパンツ見るわ、腹の上に彼女乗せてるとか!どうせ受け止めるの失敗した時におっぱい触ってるんだろ !? ラッキーすけべの定番!」
「田中後輩で勝手な妄想するのもいい加減にしろ!」

 遂に澤村の雷が落ちている中、縁下は影山に心配そうな様子で尋ねてきた。

「それ、影山もうんちゃんも怪我してないか?」
「あ、はい。それは大丈夫です。ちょっと俺が尻痛かった程度でしたので」

 縁下に続く様に木下、成田も言う。

「しかし、話聞けば聞く程うんちゃんって女子高生じゃなくて小学生みたいな事してるな」
「まぁ、その姿が容易に想像出来る所がうんちゃんらしいと言うか……」

 簡単に想像出来る、と言う状態には自分も含まれているのかと影山は思っていると、騒ぎの原因である朔夜が笑顔で体育館に飛び込んで来た。

「飛雄ったーん!お片付け終わったぁ〜?」

 また飛んでいるので嫌な予感しかしないと思っていると、朔夜はドヤ顔で言った。

「華麗に着地……は出来なかったァ!」

 すってーん、と綺麗に転んだ朔夜に東峰が駆け寄りながら言う。

「うううんちゃん!パンツ見えちゃう、パンツ!」
「……パンツ?」

 ガバッと起き上がった朔夜はぺろん、とスカートを捲って言う。

「今日お昼にしこたま叱られたから、今の私は体操ズボン装着済みであるっ!」

 ドヤ顔で言ったが、何も知らない身からするといきなり目の前でスカートを捲り上げてられたので、固まってしまう。
 腐っても朔夜は女子であるのだから。

 朔夜の行動に影山はロボットか、と思う位の素早い動きで朔夜の元に向かい、頭を叩いていた。

「いったぁ!」
「捲るな!」

 影山の当たり前過ぎる怒りに対し、朔夜はブーブー口を尖らせながら言う。

「ちゃんとズボン履いてるじゃん!」
「そう言う問題じゃねぇ!」

 ギャーギャー言い合う二人の姿を見て、指さす田中に澤村は黒い笑顔で一言だけ言った。

「次、言ったらどうなるか分かってるだろうな?」





「はーやーくーぅー!はーやーくーぅー!」

 体育館を片付け終え、部室に戻ると着替えたいのに朔夜が居て、その上何故か影山にタックルを繰り返し行っていた。

「着替えるまで外で待ってろよ!」
「一人だけ除け者かっ!」
「着替えさせろって話なんだよ!」

 影山の言葉にピタッと止まった朔夜は真顔で尋ねてきた。

「着替えればええやん?なんで着替えないの?」
「お前がいるからだろうが」

 ギリギリと顔面を掴むと、朔夜は苦しみながらも言う。

「何時も上平気で脱いでるやーん!」
「ちゃんと着替えたい奴もいるんだよっ!」
「着替えればええやーん!今更照れる間柄でもないのに!」

 それは確かに、と全員思ったが月島は追い出したいらしいので、ふっと見下し笑いしてから言う。

「え、何?君もしかして僕達の下着姿見たい訳?変態?」
「…………は?お前らのブリーフなんか、弟のブリーフと変わらんわ」

 真顔で返されて、何処から反論すればいいのか分からなくなる。
 取り敢えずブリーフに対して言えば良いのか考えていいると、影山は言う。

「小三と高一を一緒にすんな」
「くっ……飛雄たん、今日はパンツに関して執拗いなっ……人のパンツ見た癖に、自分のパンツは見せたくないとは如何にっ」

 折角話題から逸らした筈なのに、掘り返され影山は掴む手に力を込めて言う。

「あれはお前が見せてきたんだろうが!」
「いででででっ!見せたつもりはないっ!私はただ飛びたくなっただけで!」
「その場勢いの感情で動くな!」
「じゃあ次からはアントニオ猪木の赤いパンツ履いておくから!」
「売ってても買うな!」

 二人のやり取りに、普段からこの二人は何をして過ごしているのか、皆不安になるのだった。

「じゃあ目隠しして二十数えるんで、その間にズボン着替えたい人は着替えてくださーい」

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