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ラッキーすけべなどは
二次元だけである

 

 

 そう告げ、数を数え始めたので全員慌てて下を着替え出した。
 数を数えてはいるが、ゆっくりと伸ばし気味で言っているので時間に余裕はあった。

「にーじゅーうっ!終わったぁ?」

 目隠しを止め、眼鏡をかけ直す朔夜に影山は言う。

「そのまま大人しくしてろ」
「えぇー」
「大人しくしてろ!」

 ゴソゴソと上も着替え出すので、数秒は大人しくしていた朔夜だったが、すぐに我慢出来なくなったらしく、再び影山にタックルを始め出した。

「はっやくっ、はっやくっ」
「分かった分かった」

 こうなったら言う事は聞かないので、さっさと着替えるしかないと着替えを続けていると、突然朔夜の動きが止まった。

「…………今度は何だよ」

 また新しい何かを始めるのかと呆れ返って尋ねると、そっと胸元に手を宛がっている朔夜がいた。

「さく……」
「飛雄たん、大変だ!タックルのし過ぎでブラのホック外れた!」

 その一言に全員が吹いた。流石にスルー出来る内容じゃなくて。

「うわぁ……胸元ブカブカして気持ち悪いぃ……ブラジャー直してもいいー?」

 かさかさと朔夜が変な動きを始めたので、影山はテンパって言った。

「外でやってこい!」
「外でやんの !? 」
「間違えた!此処でやるな!角に行け!」

 朔夜の上半身をジャージで隠しながら、壁角へと移動をさせる。
 ジャージが破れる程の勢いで引っ張り、朔夜の事を隠して影山は全員を睨み付けるので、澤村は言う。

「影山、落ち着け。流石に全員空気読んでるから。誰も見ないから」

 その言葉を聞いても影山の警戒心は消えないので、菅原が声をかけてやる。

「うんちゃん俺ら後ろ向いてるから安心するべー?」
「あいー」

 返事を聞き、全員素早く影山と朔夜に背を向けるが、正直気になってしまって聞き耳を立ててしまう。
 そこは男子高校生なのだから、仕方ない。

「うぁー、飛雄たんブラジャーキラーじゃ」
「訳分からねぇ事言ってるな」
「飛雄たん見たらえっち虫だからね!」
「痴女してるお前にだけは言われたくねぇ!」
「えっち!」
「見てねぇだろ!顔の方向見てから文句言え!」
「あ、飛雄たん首のホクロめっけ」
「早くしろ!」
「えっち!」
「見ないから早くしろ!」

 いや、そこは彼氏なんだから見ろよ、と正直各々思っていた。

 影山の性格もあるが、律儀に約束を守って見ない様にしていて、それは男子高校生としていいのかと。

(うんちゃん実際影山が見ても許すんだろうなぁ……)
(王様奥手かよ……)
(……影山と海野さん、二人っきりの時何してんのか気になってきた)
(うんちゃん大丈夫かなぁ〜〜……あぁ、不安なって来て清水呼びたい……)
(らっきぃすけべぇ……龍の気持ちが分かるぜっ……)
(ツッキー影山の事、奥手とか考えてそう)
(俺ら小三の弟さんと同列かぁ……そりゃあ着替え程度じゃ照れたりしない訳だ)
(今度うんちゃん一回叱っておこう……)
(影山その立場変われぇー!)

 それぞれが考えている中、朔夜は能天気に言う。

「装着おっけぇー!」

 終わったとひと息付いていると、影山はいそいそと自分のジャージを朔夜に着せて、ファスナーまでしっかり閉めていた。

「えー、暑いよ」
「うるせぇ、今日はもう帰るまで問題起こすな」

 それは同意見であると、全員頷いてしまうのだった。





「やっぱ暑い」
「おいっ!ファスナー下ろすなよ!」
「それ位は許してやるべ?」

 部室の鍵を閉めている澤村を見つつ、自転車を取りに先に進む日向の後を朔夜も追っていた。
 そして階段を降りようとした日向が、何かに気が付いて声を上げたのだ。

「ヒィッ!ゴキブリっ!」
「ゴキブリっ !? 」

 後ずさった日向と、その言葉に驚いた朔夜が躓いてバランスを崩しかけた事に、影山はすぐに気が付いた。

「朔夜っ!」

 焦って力いっぱい引っ張ってしまうと、その力に朔夜の身体が宙に舞った。

「うほぅ !? 」
「うおっ !? 」

 朔夜が飛んできた事によって、影山もバランスを崩してしまう。
 そのまま飛んできた朔夜を上にして、二人は派手に転んだ。

「ゴキブリそこだ!倒せ!」

 影山と朔夜が倒れ込むのと入れ違いに飛び出した縁下がスニーカーで叩き潰し、ゴキブリ発見者で階段から落ちそうになっていた日向は、手すりを掴んで間一髪になっていた。

「か、影山さーん……?」

 倒れ込んでいる影山と朔夜の元に近寄った田中は状況を理解して、ヒィッと青褪めていた。
 ただ倒れただけではないのかと、視線を移した面々は状況を理解して田中と同じ様に固まった。
 引っ張られた勢いで飛んだ朔夜の身体は、影山の身体よりも少し上に来ていた。

 影山の顔の上に胸元が落ち、影山の手には尻が掴まれていた。


 ラッキーすけべのフルコースだった。


「…………お?」

 流石の朔夜も状況を理解したらしく、自分の下敷きになっている影山の状況を見た。
 胸の下にある顔はピクリとも動かないし、よく分からないが尻を掴まれている。

「ラッキーすけべのフルコースぅ!」
「田中黙れっ!」

 悲鳴を上げた田中に澤村が怒鳴りつけると、朔夜は取り敢えず答えた。

「田中パイセン!ラッキーすけべは二次元の世界だけのお楽しみですぞ!」
「目の前で起こってて全然説得力がねぇ!影山羨ますぎるぅ!」
「西谷膝を付いて嘆くなぁ!」

 怒鳴りに付いていけなくなっている澤村をみつつ、青褪めたまま東峰が言う。

「うんちゃん影山大丈夫 !? 怪我してない !? 」
「つか、影山動いてなくないかっ !? 」
「ちょっと状況に付いていけない、ツッキー説明して!」
「何で僕に振るの !? てかホントに二人共何で動かないのっ !? 」

 月島の言葉に、朔夜は一息ついてから親指を立てて言い切った。

「飛雄たんにマジモンのケツ掴みされてて動けません。因みに飛雄たんは無反応っす」

 朔夜の一言に全員影山が気を失っていると理解した。それもとんでもない状態で。

「ちょっ……取り敢えずうんちゃん動ける所まで身体上げてっ!影山に呼吸させて!」
「物凄い倒れ方だったけど、頭打ったのかっ !? 」
「俺ちょっと武田先生呼んでくるからっ!」
「木下っ!あそこ歩いてるのコーチじゃないか !? コーチの方行った方が早い!」

 ワーワー大騒ぎしているので、清水が気が付いたらしく、武田先生を呼んできてくれていた。
 気を失っている影山の無事を確認出来たのはそれから十分後の話だった。





「飛雄たん、大丈夫だった?」
「軽い脳震盪とたんこぶ出来た」
「ゴキブリこっわ!」
「ゴキブリと言うよりもこれは……」

 気を失う前に確かに顔に在った、柔らかい感触を影山は思い出した。
 弾力あるそれが顔に当たったと思ったら、そのまま意識が途切れたのだから。
 後、なんだか手にも変に何かの感触が残っていて、指が動いてしまう。

「飛雄たん?」

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