疎との鳥 籠の禽
バレーオタクは
お胸が触りたいらしい
「んにゅ?……んー?」
触られている事に不思議そうな声を出すので、眼鏡を顔から取って抱きしめてしまう。
腕の中にすっぽり収まるのを確認する度に、朔夜は自分にとって小柄で、やはり女の子なのだと影山は確認していた。
身体は角張っていないし、スポーツマンみたいな筋肉もなくて柔らかい。
そして潰れながらに押し付く乳房はその中で一番の柔らかさだ。
ガードの高さは分かっていたが、ここまでとなるならばあの時、もっとしっかり揉んでおけば良かったと後悔しかない。
彼氏なんだから、ちょっと触る位駄目だろうか、と邪な思いが出ては消える。
自分の欲だけで生きていたら、朔夜とは言え、嫌われてしまうかもしれないのだし。
(……卒業までが長過ぎる)
高校卒業をしたら解禁となる、えっちい事。それまでは清く正しく付き合って行くのだが、少しは触るスキンシップもしたい。
高校生である事は分かっているけれど、恋人だから出来る事をしたいと思う自分がいる。そんな感情を持つ自分に驚いてしまうのと同時に、その感情を生み出させる朔夜がどうしようもなく愛おしい。
(惚れたもん負け、ってこう言う気持ちの事を言うんだろうな……)
朔夜の頭を撫でながら、影山は漠然とそんな事を考えていた。
すると朔夜が嬉しそうに胸板に頬擦りしてきて言うのだ。
「飛雄たん、ちゅき〜」
「……知ってる」
「ちゅき好き〜」
「聞き飽きる程に知ってる」
「飛雄たんの分まで言うのじゃ〜」
「そうかよ……」
こうも馬鹿正直に自分の感情を出せる朔夜が、影山には羨まし過ぎた。自分の性格の問題なのだが、どうしても感情を言葉にするのが苦手だった。
辛うじて最近はこうやって抱きしめる事が出来る様になっただけ、進歩はしてはいるが、まだまだである。
「…………」
「うみゃっ」
抱きしめたまま朔夜をベッドに押し倒すと、変な声を出された。それから少ししてもさもさと髪の毛に手を伸ばしながら言う。
「髪の毛ぐしゃったぁ〜お団子痛いから解くぅ」
するすると慣れた手付きで纏めている髪の毛を朔夜は解いた。髪型一つで本当に印象が変わるのだな、と影山は未だ見慣れないお団子頭でない朔夜の事をじっと見ていた。
東峰も同じ様に縛っているけれど、解いてもそんなに髪の毛が長くはない。のに、朔夜は解くと本当に髪の毛が長かった。
腰元位まで余裕である長さの髪の毛を触っていても、朔夜は嫌ではないらしく黙って影山の事を見ていた。
「……何だよ」
「飛雄たん、長いの好きなの?」
「…………」
好きかと尋ねられ、自然と視線が顔から下へと降りていく。と、すぐに視界が手で塞がれてしまい、目隠しされてしまった。
「おっぱいは駄目っ!」
「…………見る位は良いだろ」
「すけべはだーめ!」
朔夜が駄目と言ったらそれは絶対なので、影山はムスッと唇を尖らせた。
見るも駄目、触るも駄目、では目の前に在ると言うのに生殺し以外なんでもない。
「…………何時になったらすけべは良いんだよ」
ボソリと尋ねると、少し考え込んだ朔夜は笑顔で言ってきた。
「大人になったら!」
「……お前の言う大人の基準が永遠に分からねぇ」
はぁ、と大きな溜息を影山が漏らすのだから、朔夜は不思議そうに思い尋ねてみた。
今日は諦めが悪いなぁ、と思いながら。
「なんで飛雄たん、そんなにおっぱい触りたいの?」
「なんでって……」
答えようとした所で、影山は言葉に詰まった。
言われてみれば、そう言えば何故ここまで執着しているのか自分でもよく分からなかったのだ。
柔らかいから?だと誰の乳房でもいい事になってしまう。彼女だから?と言った所で、彼女だから無条件に触りたいと言うのも何だか変な気がしてきた。
朔夜だから触りたい、と言う感情だけは間違いないのだが、別に触れる所は沢山ある気までしてきてしまう。
「朔夜……だから……んん…………」
目を塞がれたまま真剣に悩んでいる様子の影山を見上げ、朔夜は返事を待ってみた。
朔夜にとっては乳房の価値が分からないのだから、触りたがる影山が純粋に不思議になってしまったのだ。
だが、この様子を見る限り影山も明確な理由が説明出来ないみたいである。
「飛雄たん飛雄たん」
「なんだよ」
「ごろん、ごろん」
視界を遮る手が無くなり、お強請りをしてくる朔夜の事を確認した。
答えも出てこないのだし、出てきた所で触らせてくれる訳では無いので溜息を付いてから、朔夜の要望に応えてやる。
くるりと体位を変えて朔夜を上にしてやると、嬉しそうに影山に抱きついてきた。
その様子を見つつ頭を撫でながら、影山はぼんやりと考えていた。
(まぁ……朔夜はどこ触っても柔らかいし……胸以外はある程度触れるから……)
良いか、と思いかけたのだが、胸元に感じるむにゅりとした感触に影山はやっぱり思わずにいられなかった。
(やっぱ揉みてぇ……胸)
お預けが後、二年半以上あるのかと思うと気が気ではない影山なのだった。
(2021,11,12 飛原櫻)