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彼女が生理だと自己申告してきた時の、正しい回避方法を知りたい

 

 

「飛雄たん、飛雄たん」
「今回は何だよ」

 昼休み、自販機からぐんぐんヨーグルトを買って戻ってきたら何故か浮かれ顔の朔夜が影山の元へやってきた。
 大体、朔夜がこう言う表情をしている時はろくな事がないのを、影山は学んでいる。
 それ程までに、彼女である朔夜は変わり者であり、自称奇行種なのだ。

「とっても大事な話でございますよ、王様」
「次、王様呼んだらどうなるか分かってるだろうな?」
「あのね」
「俺の話を聞け」
「聞いて驚け」
「ヲイ」

 怒る影山など無視し、朔夜は胸をドン、と叩きながら高らかに言ったのだった。

「さっきトイレに行って来たらあらビックリ。生理になってましたよ」
「ぶっ !! 」
「きったな!ぐんぐん飛ばさないでくれない !? 」

 飲んでいた物を吹き出し、暫く咽ている影山にポケットティッシュを差し出しながら、朔夜は言う。

「ゆっくり飲まないからぁ~」
「違うわボケェ !! 」

 影山の怒鳴り声にクラスが一瞬静寂に包まれたが、相手が朔夜である事が分かると、また名物オタップルが騒いでいるだけか、とすぐに静寂は無くなった。
 1-3名物、オタップルの影山と朔夜は常にこんな感じであり、たまに彼氏彼女であるのかと疑われている。
 が、れっきとした恋人同士であり、影山は公言しないが朔夜は平気な顔で影山が好きだと公言している。

「え~~?じゃあなんで咽たの?」

 真顔で尋ねてくる朔夜の頬を片手で掴みながら、影山は答える。

「いきなり生理なっただなんだ言われる身になってみろ」
「わひゃひと、とびゅおたんのにゃかにゃん!」
「んな仲になった覚えはねぇわ!」

 がーがー怒る影山の手か逃れ、頬を摩りながら朔夜は言った。

「なんだよぉ~、折角自己申告してあげたのにぃ」
「頼んでねぇよ!」

 青筋を立てて怒る影山の様子を暫く眺めた朔夜は、そっと影山の手を握って言う。

「彼女が生理やで?労われこの童貞」
「次変な事言ってきたら、この口二度と開かない様に接着剤付けてやろうか?この処女」
「ひゅんまひぇんでした」

 流石にこれ以上怒らせたら本当に脳天を殴られそうだと、朔夜は素直に謝った。
 そんな朔夜をすぐに信じても良いのか、と疑いつつ解放しながら影山は恐る恐る言い出した。

「えと……で、生理、なんだよ、な?」
「うん?それがどした?」

 自己申告してきた割にはあっさりとしている、朔夜の様子に影山は迷い出す。
 生理中の女子はホルモンバランスの乱れから、気持ちが不安定になったり、酷い時は痛みも伴うと聞いている。
 もしかして朔夜が自己申告してきたのは、生理痛が酷い事を遠回しにアピールしているのかもしれない。
 既に痛みが合ったり、気分がおかしくなっている……様には見えない。

「いや……その……な」

 もごもごと口ごもる影山に向かって、朔夜はドヤ顔で言った。

「もしや飛雄たんは私が生理痛に苦しんでいるのではないのかと心配してくれているんだね。ところがどっこい!私は生理痛とかないタイプだから生理期間も何も変わらないのであった!」
「…………」

 得意げに言い切った朔夜の眼鏡を取り、顔面をがっしりと掴み、握り潰したい衝動を抑えながら、一応確認を取ってみる。一応、だ。

「何の為に生理だと言ってきたか答えろ」
「……飛雄たんの反応で遊ぼうとしました、本当に反省してます、すんません」
「……生理痛はないんだな?」
「腹痛持ちだけど、生理痛はないです」
「気分が落ちたりとかは?」
「推しが死なない限り何時でも廃テンション」

 確認を取った影山は、朔夜に向かってドスの効いた声で告げる。

「次似た様な事したらないと思え」
「飛雄たんの意地悪ゥ !! 」

 改めて席に付き、眉間に皺を寄せたままぐんぐんヨーグルトを飲んでいると、朔夜が言い訳の様に言ってきた。

「だってぇ~~、最近ネットの小説とかで生理彼女心配する彼氏、っての見るから飛雄たんの反応見たくなったんだもん~~」
「人の心配心で遊んでるんじゃねぇ。つか軽々しく生理とか男に言うな」

 正論を告げると朔夜はう~~、っと唸り負けていた。
 こうやって度々朔夜は変な事を言って影山の事を振り回してくる。今回は生理とか、男に言う事じゃない事を平気で言うので、朔夜には羞恥心がないのかと不安になる。
 不安になる理由は一つしかない。どうせ朔夜の事だから……。

「と、言う事で飛雄たんの反応確認出来た所で、月島に嫌がらせしてくる !! 」
「おい待て!」
「ほぉら噂をすると廊下にちゅっきしまとただしんの姿発見!お――い!お二人さ――ん!」

 物凄い勢いで廊下を歩く月島と山口の元へ走って行く朔夜に、影山は慌てて立ち上がって追いかける。

 百歩譲って自分は彼氏だから彼女が生理になっている、と言われても構わない。
 だが、それを他人に、男に、それも自分が嫌っている月島になんか話して欲しくない。山口は別に良いが。

「げっ!」
「あれ?海野さんど、どうしたの?」

 月島と山口の反応する声を聞き、意気揚々と口を開く朔夜に短距離走で一番のタイムを出せる気がする程の、早さを出せたと影山は思っていた。

「あのですねぇ~~私ねぇ~~」
「さ~~く~~や~~ぁ~~ !! 」
「ギョース!顔こっわ!そう言う顔めっさ好きだけどこっわ !! 」
 
 影山まで走って来るのを見て、月島は顔を引きつらせながら後退って言う。

「ちょ……オタップル馬鹿がうつるから来ないでくれない?」
「え?何 !? 海野さんまた影山怒らせる事してるの !? えっ?ちょっと待って!」

 廊下で大騒ぎする男子バレー部の声が響き渡っていると、三年の教室まで伝わったらしく、数分後、どす黒いオーラを発した澤村が来る事になるのを四人はまだ知らずにいた。


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