疎との鳥 籠の禽
彼女が生理だと自 己申告してきた時の、正しい回避方法を知りたい
「菅原パイセン」
「ん?そう言う呼び方してくるって事はうんちゃん悪巧みしてるべな?」
放課後、部活動に顔を出した朔夜はすすすっと菅原の元へ来ていた。
「大地に聞いたべー?廊下で騒いでて四人で怒られたんだって?日向いないの珍しいべな」
「タイミングでござる」
てへへ、と照れる朔夜に菅原は笑顔で対応していた。朔夜の事はいたずら大好き小学生位の気持ちで相手にしていれば、さほど気にならないからだ。
「で、今回はどーしたべ?」
「ん?うんちゃん大地に怒られたんだってなぁ」
菅原と話していた所、東峰も来たのでまだ影山の姿はない、と周りを確認してから朔夜はまた得意げに言う。
「おいどん生理になってしまってでござる。部活のお手伝いが出来ない、無念」
朔夜の発言に廊下で大騒ぎになった理由はこれかぁ、と苦笑いをする菅原と、耳まで真っ赤にしておどおどする東峰の反応を見て、朔夜は満足そうに見ていた。
「えっ?えっ !? せせせせい……駄目だからそう言う事男子に言ったら !! 」
東峰の反応と満足気な朔夜の顔を見て、菅原は朔夜にデコピンしつつ言う。
「こう言う反応見たくて言ってるべなー?うんちゃん女の子なんだから、彼氏の影山以外にそう言うの言ったら駄目だべ」
「うえっへっへっ」
対応に慣れきっている菅原はほんわかとしているが、東峰は慌てた様子で朔夜に言ってくる。
「だだだ大丈夫 !? もしかして痛かったりする !? 保健室行く !? 」
「旭は落ち着くべ。調子悪かったらこんな事流石のうんちゃんも言わないから」
「ででででもスガっ……せせせせい、りだよ !? 」
「病気じゃないんだから落ち着けって」
これだ、これを見たかったんだぁ、と思っていた所、背後から殺気を感じて慌てて振り返ると、着替え終わった一年が丁度体育館に入ってきた所だった。
東峰の様子を見てすぐに覚ったらしい影山が、まっすぐに此方に向かってくる。
手を見る限り、顔面鷲掴みコース確定である。
「くっ……急な痛みぃ!」
生理痛キタァ、とアピールしてみたけれど、嘘なのがバレバレだったので、めでたく顔面鷲掴みコースとなった。
「さ~く~や~ぁ~」
「推しに会いたい人生だった!」
「まーまー、影山が怒る気持ちも分かるけど、うんちゃんなんだから」
影山を宥めようと菅原が言うと、影山は本気顔で言ってくる。
「菅原さんそうやってコイツの事、甘やかさないで下さい!だから調子乗るんで !! 」
これはマジ怒りだなぁ、と苦笑いしていると、未だに焦っている東峰が言うのだ。
「か、影山、うんちゃんせい、りで調子悪いのかも……」
「東峰さん信じないで下さい!コイツ生理痛とか無いタイプだって俺に白状してるんで !! 」
影山の怒鳴り声に何故か日向が顔を真っ赤にして言ってきた。
「はい !? 生理 !? 」
「え?何?まだそのくだらない流れ続いてたの?流石に引くんだけど」
月島の言葉に影山は青筋を立てながら答えた。
「あぁ !? 朔夜が生理になって文句でもあるんか !? 」
「いやもう王様、何に対して怒ってるのか分かんないんだけど」
このままだと収拾が付かなくなるし、澤村が来たら全員正座コースになると、菅原は慌てて仲裁に入った。
「落ち着け落ち着けって。うんちゃん、影山こうヤキモチ妬きだから、生理とか女の事話俺達にしたら駄目だべ?また大地に怒られるぞ?」
「ふわぁ~~い……」
やっと大人しくなった朔夜の姿を見て、影山は菅原に尋ねた。その顔は本気であった。
「菅原さん!彼女が生理だと自己申告してきた時の、正しい回避方法ってないですか!」
「いや、それは俺にも分からんべよ。うんちゃんが特殊過ぎて」
やっぱり総ては朔夜に問題があるのか、と影山は朔夜の事を改めて睨み付けた所で、澤村と清水が来たので一旦収束するのだった。
◆
「朔夜ちゃんなんでジャージ二枚重ねなの?それ影山の?」
部活が始まった後、檀上に座る朔夜がジャージの二枚重ねをしているので、清水は不思議そうに尋ねた。
「生理が来たからみんなの事をからかった結果、東峰先輩が身体冷やしちゃよくない、って言ったら飛雄たんが着せてきましたぁ」
昼間から騒がしかった理由を知り、同時に今の上機嫌な朔夜の姿を見て、清水は笑いながらに言う。
「良かったね、影山に心配してもらえて」
「飛雄たんはツンデレ子で何時も優しいんですぅ~~」
素直に相手にして欲しいと、構って欲しいと言えばいいのに、と清水は思ったけれど、今の状態が二人には合っているのだから、と口にするのを止めるのだった。
(影山も、本当に大変なんだろうな。朔夜ちゃん、本当に変わってる子だから)
生理一つでここまで話を大きく騒げる事に、関心するけれど、やっぱり彼氏の影山以外には話して欲しくないと、清水はしみじみと思いながら、朔夜の頭を撫でてあげた。
(2021,4,16 飛原櫻)