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オタップルの大人への階段登り

 

 

 烏野高校卒業式の日、高校生の間は禁止されていたキスを遂にする事が出来た。
 互いの第二ボタンを交換して、初めて触れた唇は柔らかくて、何度でも飽きずに影山はしていたかった。
 宮城を離れて東京へ引っ越すまでの残された時間。堂々と恋人だから出来る事を三年間我慢した分、したいと思うのは当然であった。



オタップルの大人への階段登り



「元々物が多くなった飛雄たんの部屋だから、段ボールの数少ないし、見た目変わんない〜」

 殆ど荷造りが終わってしまっている影山の部屋に、朔夜は気分転換を兼ねて遊びに来ていた。
 影山の希望するVリーグのチームへの就職。
 本来ならば朔夜は出来ないのだが、先に入団していた牛島からの推薦で『特別』に朔夜も就職が決まっていた。
 本当は朔夜も目指したい道があるのではないのかと不安ではあったが、朔夜は差程気にせず即答で着いて行くと言った。
 通訳の仕事を入りながらに覚えて、マネージャーに近い雑務も執り行う事になっている。


 好きだから連れて行きたい。片時も離れたくない。ガキかと言いたくなる様な独占欲の願望。


 叶うか不安だったが、牛島のおかげで叶い安堵したし、感謝もしている。
 東京に行っても朔夜は常に傍に居てくれる。幸せの一言である。

「とーきょーとーきょー!」

 影山のベッドに腰掛けながら、朔夜は上機嫌そうに言っていた。
 オタクの朔夜にとって東京、と言うのは魅力の塊らしい。それも朔夜が着いて行く、と言ってくれた理由になる。
 そんな色々な幸運が重なり、卒業しても変わらず付き合っていける環境が続く。


 そして、高校生でなくなった事によって、縛られ続けていたルールから解放されたのだ。


「…………」

 楽しそうに話している朔夜の唇を、ジーッと影山は見ていた。
 ぷるんとした血色の良い赤い唇。触れたくて、重ね合いたくて仕方なかった。

「……さく」
「う?」

 呼ばれて顔を上げた朔夜の顎を掴んで上を向かせる。きっと自分の顔は熱の篭った目をしているのだろう、と影山はぼんやりと考えていた。
 流石にもうキス未経験ではないのだから、影山が何をしようとしているのか、朔夜も分かる。
 駄目だと逃げるのが良いのか、影山の想いに応えるべきなのかと悩んでいる間に、唇と唇は重なってしまった。

 キスをされて端正な顔が目の前にあるな、と少し他人事のように朔夜は考えていた。
 朔夜には分からないのだけれど、卒業を境に影山が熱の篭った目で見てくる事が増えていた。

(……そんなにキス、いっぱいしたいのかな…………)

 離れようとしてくれない影山に強く抱きしめられ、身動きが取れない朔夜は黙って影山を受け入れるしかない。
 それに影山とのキス自体は嫌いじゃないし、どちらかと言えば好きだった。
 男なのに唇のケアも怠っていないのか、影山の唇は何時でも柔らかくて、重なっていて気持ちいい。
 普通の恋人達は普段からこんな事をよくしているのか、と考えているとキスをしたままベッドに押し出されてしまった。

「……ぷはっ」

 やっと唇を解放されたので、沢山酸素を吸い込んでいく。その間、影山は朔夜の頬や額などに好き勝手にキスをしていた。
 そしてやっぱり邪魔だったのか、眼鏡を外されるとまたキスが始まった。
 触れては離れて触れては離れて。そんなキスの繰り返し。でも、影山の表情を見れば全く満足していない事はすぐに分かる。

「……さく」
「とび、ぉ……」

 互いに性格の所為で、二人っきりにならないと出せない恋仲らしい素直な姿。
 キスで紅潮する頬の熱を感じていると、影山の手がスルスルと下へと降りていく。

「……触っちゃめっ」

 影山が朔夜の胸を触ろうとしているのに気が付き、パシッと手首を掴んで朔夜は阻止してしまう。
 えっちぃ事が禁止なのは高校生までの間の話。でも朔夜にはまだ触られる事に、どうしても抵抗してしまう。
 恥ずかしいのだから仕方ない。

「……もう俺達高校生じゃない」
「そうだけど……おっぱい触られるの恥ずかしい」

 モジモジと言う朔夜を黙って見ていた影山は、するりと掴まれていた手を解き、そのままスカートの中に手を入れると尻を撫でてきた。

「……胸は駄目なのに尻は良いのかよ?」
「……お尻もいっぱいはえっち虫だからめっ」

 上半身よりも下半身の方を大事にしろ、と影山は頭の中では思ったが、それを口にする事は無い。
 言ってしまえば影山も例外無く、朔夜の身体に触れなくなってしまうからだ。
 撫でるだけで満足など出来ないので、朔夜の表情を見ながら少しずつ尻を揉む力を強くしていく。

 乳房の柔らかさとは異なり、弾力の強い尻を揉むのは力加減が難しい。
 我慢出来ずに揉み過ぎたのか、遂にストップが入ってしまった。

「……えっち虫おしまい」

 そう言われても年々溜まっていく性欲は、何時爆発してもおかしくない。それ程に三年間と言う期間は、健全高校生男子には長過ぎる拷問だったのだ。

「……そう言えば」
「?」

 影山は引越しの為の片付けで出てきた、懐かしい服を朔夜の前へ出した。
 朔夜もそれには見覚えがあり、パッと明るい表情に変わって言った。

「童貞を殺すセーター!懐い!」
「お前が勝手に俺の部屋に保管した癖に、すっかり忘れてただろ?」

 影山の言葉に、朔夜はえへへ、と頭を掻いていた。コレを着たのは高一のあの日。その後、完全に興味が無くなったらしく、影山の部屋に放置されていたのだ。
 あれから二年。朔夜の身体は身長は伸びなかったが、胸は少し成長している。
 少しでも成長した乳房でコレを着たら、前回よりもエロくなるのだろう、と影山はずっと考えていた。

「久しぶりに着ないか?」
「これ?」
「そう」

 服を持ち上げて少し朔夜は考えてる様だった。
 嫌そうな顔はしていないので、別の事を考えていると思われる。

「三月だから、寒くない?」

 露出した服だから、そこを気にしたのか、と暖房器具を指差しながら影山は即答した。

「暖房入れてるだろ」
「じゃあ寒くないか。いーよぉ、着る」

 サラリと答えると、朔夜はすぐにモゾモゾと服を脱ぎ始めた。
 生着替えをジーッと見ていたら案の定怒られてしまう。当然だが。

「着替え見ちゃ駄目!」
「……その内見たい」
「飛雄たんのえっち虫!」

 ぷりぷり怒る朔夜ではあるが、本気で怒っている訳では無いのは、声色ですぐに判断出来た。
 朔夜がちゃんと年相応の知識を身に付けてきているので、安心しつつふと思った事を口にしてしまったのだ。

「なぁ、俺も脱いで良いか?」

 その言葉にピタッと止まった朔夜は、真顔で言うのだ。

「……裸族?」
「違う。トランクスだけに」
「なんで?」
「なんででも」

 影山の言葉に不思議そうにはしているが、拒否する理由が朔夜にはなかったらしい。
 少し考えた後に朔夜は頷きながらに言う。

「飛雄たんがしたいなら良いよ」

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