疎との鳥 籠の禽
オタップルの大人への階段登り
その事実に混乱してしまった朔夜は何を思ったのか、バフっと影山の顔を胸元に抱きしめて言う。
「おっぱい見ちゃ駄目っ!」
ギューッと強く抱き締めながら、朔夜は必死な様子で言っていた。
胸を見られてしまった事実に混乱していて、服を直すのも忘れてしまっているのに、全く気付いていない。
見ちゃ駄目だと言うモノに顔を挟まれている状況に、苦しいとは思いつつどさくさに紛れながら、また尻を揉んでいた。
(完全に混乱してるな……見ちゃいけないの顔に押し付けてるし、ケツ揉まれてるのも分かってねぇし)
影山は思ったよりも冷静でいられている事に、驚いていた。朔夜の身体を見てしまったら、我慢出来ないと思っていたからだ。
ただ、無意味に冷静なのは朔夜は混乱しているからであり、他人が混乱しているのを見ていると落ち着くモノなのだと思っていた。
(……女の身体って柔らかいし、いい匂いするんだな)
それは朔夜だから、かもしれなかったけれど、改めて知る女と言う存在をゆっくりと確認していく。
身体は曲線を描いているし、胸部や下腹部は男とは違う脂肪の付き方をしている。個体差があるとは思うが、朔夜は確実に肉付きが良いタイプだ。
胸なんか特に、だ。
未だに触らせてもらえていないが、何時かこの柔らかいモノを好きなだけ触れる時が来るのが楽しみで仕方ない。
ずっと触っていたいし感じていたいが、万が一親が帰って来てこの状況を見られたら説明が出来ない。
ほぼ全裸の状態なのだから、高校を卒業しているとは言え、まだ怒られる気がする。
「……さく、苦しい」
尻を揉むのを止め、優しく背中を叩きながら言う。すると朔夜の力が少しだけ緩んだので、顔を上げた。
耳まで真っ赤にした朔夜が見下ろしているので、ゆっくりと肩を掴んで下に力を込めて座らせてやる。
もそっと服で胸を隠すと、朔夜は抱きついて言う。
「……おっぱい見た、えっち」
「見たけど事故だろ?」
「……事故でも見た」
「綺麗な胸だったと思う」
「……すけべ」
恥ずかしさで縮こまる姿を見て、今日はここまでが限界なんだろうと影山は悟った。
性的知識が無い訳ではないが、朔夜は性欲が低い方なのだろう。だからキスすら高校卒業まで禁止にしていたのだ。
性的な事に直結しなければ、触れる事や変な事をするのもいいのだろう。童貞を殺すセーターも多分そんな考えからだったに違いない。
「さく……」
「んっ……」
ぽすっとベッドに押し倒し、何度も優しく頬を撫でてやる。
撫でられる動きを大人しく受け入れている朔夜の姿を見ながら、影山は口に出さずに考えていた。
(ゆっくりと、時間を掛けていかねぇと……)
嫌がっている訳では無い。ただ恥ずかしがっているだけ。
なので影山が出来るのはゆっくりと確実に、段階を踏みながら先に進んでいく事だ。
暫くは触りたい気持ちも、繋がりたい気持ちも我慢して、キスから慣れさせていこう。
朔夜から「シたい」と言う気持ちを出してこれる様に、導いてみよう。
「……みゅーぅ」
訳の分からない言葉を発しだしたので、朔夜が落ち着いてきたらしい。
じっと影山の事を見てくるので、肩を抱きしめて掛け布団の中に連れ込んでしまう。
布団が大好きな朔夜なので、掛け布団を掛けられた事が嬉しかったらしい。影山の胸元に頬擦りして甘えきっていた。
もう少し異性として意識してくれても、とは思うけれど、自分以外とこう言う事をしないならば今は良しとしようと決めている。
「さく、落ち着いたか?」
「オフトゥンさんちゅきぃ〜」
「……俺は?」
「飛雄大好き……」
ギュッと抱きつくので、影山は満足気に朔夜の頭を撫でた。
他の皆を好きだと言っていても、朔夜の特別は自分だけなのだから。
「ぬくぬく〜幸せぇ〜」
「そうか」
「東京行っても一緒〜」
「……そうだな」
朔夜は東京に伯母が居るし、職場には牛島も居るので独りになってしまう事は無い。
特に伯母の方は何かとサポートしてくれると言っているので、引っ越したらまず最初に挨拶しにも行かねばならない。
生まれ育った宮城の地を離れる事にはなるが、フォローしてくれる周りに恵まれていて本当に助かっている。
自分はそんなに周りの人間を求めたりしないが、朔夜に寂しい思いだけは絶対にさせたくないのだ。
朔夜は常に幸せでへにゃへにゃ笑っていてもらわないと困る。
そして東京の地でゆっくりと恋人として、男女の関係にもなりたい。
今はまだ半裸に近い姿が限界であるけれど、少ししたら全裸で抱き合える様になれる様に。
段階を踏みながら、大人への階段を登って行きたい事が影山の願いであった。
◆
無防備にもそのまま寝てしまった朔夜の頭を影山は撫でて過ごしていた。
烏野を卒業してから一週間、東京へ発つまでは後五日である。
残された時間を家族や友人と過ごす事も出来るのに、朔夜は影山にべったりだった。
二人で過ごすのが当たり前だと思いたいのか、朔夜なりに高校の間我慢をしていたのかは分からない。
それでも、自分が選ばれたのは間違い無い事実であり、優越感に浸れる。惚れたあの日から、結局の所、朔夜を手放したくなかったのは影山の方だったのだ。
「…………」
チラッと胸元に視線を落とし、朔夜が寝ているのを確認してつん、と触ってみた。
服越しでも柔らかったけれど、生はやっぱり段違いの柔らかさだった。
(ずっと触ってられる……)
つんつん、つんつん、と触っているとやっぱり欲が出てきてしまい、そおっと服を引っ張って乳房の先端を見てしまう。
ツン、と勃つソレを見てつい生唾を飲んでしまった。
(朔夜の乳首……ちょっとだけでいいから、触ってもいいか?)
朔夜は寝付きが良いから、暫くは起きない筈。胸を触る許可はまだまだ降りなさそうなので、生で触れるチャンスは今しかない。
「…………ちょっと、だけ」
目の前にあってお預けに耐えられる程、影山の性欲は弱くない。そっと服の中に指を入れ、先端に触れてみた。
くにっと固さを指の腹で感じ、興奮で息が上がる。
「……さく……好きだ、さく」
指の腹で擦れば擦る程固くなっていく感覚がたまらない。朔夜の大事な部分を、犯しているのだと思うと尚更に。
「…………んー……」
「 !! 」
朔夜の声に慌てて乳首を弄る手を離した。
起きてしまったのかと、ビクビクしていると、すぅっと薄目を開けた朔夜が影山の事を見ていた。
(寝惚けてるヤツだ……)
触られた事に気が付いている様子もないので、影山は安心して朔夜の事を抱きしめた。
暫くの間反応のなかった朔夜だったが、影山の胸に頬擦りしてきたので寝惚けたまままた寝る様だった。
バレなくてホッとしつつ、影山はボソリと口に出してしまった。
「……早くお前と、セックスしてぇよ」
二人一緒に大人の階段を登るには時間を要しそうだったが、それも楽しみの一つとして影山は考える事にするのだった。
(2021,7,27 飛原櫻)