top of page

第1話 私と風紀委員長

 

 

「ち―こ―く―す―るーぅ―― !! 」

 この日『遅刻』と言う存在を死ぬ程、絞め殺したいと私は思う事案を起こしてしまうのだった。
 この日から、私の生きている世界と環境が変わっていく事を誰が予想しただろうか。少しずつ大きく、一人の人間をきっかけに私の世界は変わっていく。
 この世で、一番、嫌いだ、と自負出来る相手と出会い、特別な存在になるなんて、誰が予測出来ただろう。
 そんなの、私が一番否定したいに決まっている。


私と
第1話   私と風紀委員長


「うわ――ん !! もう絶対に間に合わない遅刻するっ―― !! 」

 時刻は八時半。通学路を近道を使いながら必死に走る。どれだけ走ろうが、学校のチャイムが時刻を告げる音を告げ、その音を聞いてから十分以上過ぎていた。
 とある理由から私、山本音羽は遅刻する事だけは絶対にしたくなかったのだ。その理由はただ一つだけ。


 並盛中学校風紀委員長、だ。


「よしっこうなったら……」

 どうせもう遅刻であるのだから、正門への道を止め、裏門へ回った。正門から堂々と遅刻登校なんかしたら目立つし、風紀委員に見つかってしまう。
 私は辺りを確認しつつ、素早く塀をまたぎ超えながら叫んだ。

「セーフ!………じゃないんだけどね」

 普通にホームルームが始まっている時間だ。いや、もう終わっている。完全なる遅刻。でもまあホームルームなんて暇な時間だし、一時間目の授業に間に合えば良いかなぁ、って言う軽い気持ちで私はいた。
 それが間違っていた………。


 そう、学校の塀を登り飛び越えたのは良いのだけれど、下を……校内の方は全く見てなかった。


「……何してるの?」
「えぁっ !? 」

 突然聞こえた声に驚いてしまい、空中でバランスを崩して思いっきり着地に失敗した。失敗したのだけれど身体へ大した痛みは無く、はっきり言えば誰かに受け止められたらしく、痛みの代わりに人肌の暖かさを感じた。
 ……が、それと同時に全身に悪寒が走り、私は慌てて顔を上げた。


 そして……相手の顔を見て全身が固まる。
 私の事を受け止めた相手は淡々とした声色で私に告げてくる。その表情にも声色にもこれと言って感情はなかった。


「……遅刻の上、正門から入らないなんて良い度胸してるね。咬み殺すよ」
「ひっ……」

 目の前の人物を見て、相手が誰であるかを認識した私はこれ以上無い位の大声で相手の名前を発してしまった。

「雲雀恭弥ァァ !? 」

 相手を理解し、慌てて雲雀の腕から逃げる様に着地をし、私は青白い顔で後ずさった。逃げようとしているその動きにいち早く気付いたのか、奴はじりじりとこちらに迫りながら言う。

「君確か………1-Cの山本音羽だよね。風紀を乱す」

 話しつつ、どさくさに紛れてトンファーを構える雲雀に対し、私は悪寒に震えながら必死になって指差しながらに言ってやった。

「不良が偉そうに風紀を語るなっ !! そしてこれ以上私に近寄るなっ!」
「……咬み殺してあげる」
「 !! 」

 雲雀恭弥の一言に、これ以上無い悪寒に鳥肌が立ち、私は叫ぶのと同時に教室へ向かって一目散に逃げた。

「寄るな変態―― !! 」

 身の安全を確保する為に慌てて逃げて行く私は、不機嫌そうな表情でじっと見ている奴に気付かないのだった。





「ふへぇぇぇぇぇ」

 教室に着くなり、私はべたっと机にへばりついた。
 当たり前だけれど、ホームルームはとっくに終わっていて、一時間目の授業が始まる前に滑り込んだ形の遅刻。
ぐったりと机に臥せりつつ、今先程起こった事を改めて思い出していた。
 朝から嫌なモノを見てしまった……。寝坊をしてたけちゃんには置いて行かれるし、あの……あの……あの気持ち悪い……。

「音羽やっほ。遅刻するなんて珍しい事もあるんだね」
「そうそう。いつもあのひば……」
「スト――ップ !! それ以上言わないで !! 」

 私の所へやってきながら悪気無く言ってきた親友の口を両手でふさぎ込んで、発言を何とかシャットダウンする事に成功した。けれどすぐに私の手をはね除けると、呆れた声色で言われてしまった。

「音羽の風紀委員長嫌い、相変わらずだねぇ……」
「ホントホント。つ―か名前すら駄目なのか」

 私の事を呆れつつ話している二人は、私のクラスメイト兼親友。私に口を塞がれた方が大村綾、もう一人は市原有美だ。
 小学校以来の付き合いであるこの二人は、私の風紀委員長嫌いに呆れているらしい。
 並盛中学校風紀委員と言うのはこの地域では特殊な存在であり、関わらない様にするのが身の安全を確保する為の暗黙の事。

 でも私の風紀委員長嫌いはそれとは別である、そして付き合い長い親友二人を呆れさせる位に、確かに私の風紀委員長嫌いは尋常じゃ無い。委員長の名前を聞く事すら鳥肌が立ってしまう程なのだから。


 今また考えただけでも鳥肌が……。


 鳥肌立つ腕をゴシゴシと擦っていると、ハァと言う溜息の後に言われてしまった。

「てか其処まで風紀委員長嫌いなら、まずはその格好どうにかしたら?」

 綾がそうやって正論を言うと、有美も私の事を見て頷いきながらに言うのだ。

「そうだね。そんな不良丸出しの格好してるから、風紀委員に目付けられちゃうんだよ。一応風紀委員、だから校則違反の取り締まりしてるんだよ?」
「むぅぅぅぅぅぅ……」

 有美の言葉に私が不貞腐れながらに唸っているとじーっとこちらを見て、綾は言い切る。

「ピアスにオーバーニーソックス。女子生徒なのにネクタイ着用。で、トドメにピンクメッシュ。アンタ馬鹿でしょ?」

 確かに綾の言う事は正しい。校則を全く無視した格好をしている私はいわゆる不良だ。

「だってリボン嫌いだし――良いじゃんオシャレしたってさぁ……」
「「 オシャレじゃないでしょ、どう考えても 」」

 声を合わせて二人にはっきりと言われ、私は苦虫を噛みしめた表情をするのだった。正論にぐうの音も出ないのだから。

「それでいつも風紀委員に捕まらない為に早起きしてるのに、どうして寝坊したの?」

 有美に言われ、私は誤魔化せない空笑いを返した。

「アンタもしかして………」

 私の反応に呆れ顔でいた綾が突然目を見開いて固まった。有美の方を見ると同じ様な状態になっていた。と言うよりも………クラス中の人間が、同じ様にこちらと言うか私を見て固まっているのだ。

「ん……?」

 何を急に固まったのかと思った瞬間、突然右腕を掴み上げられ、驚くのと同時に鳥肌が身体中を駆けめぐった。


 この反応はもしや…………。


 慌てて振り返ると其処には、無言で私の腕に何かを通して居る雲雀恭弥の姿が在った。

「ギャァァァ !? 」

 私が悲鳴を上げる中、作業を終えたらしい雲雀は涼しい顔で私に言い放った。

「君……今日から風紀委員ね」
「は…………?」

 自分の右腕を見ると、風紀と書かれた腕章が光り輝いていた。ソレとコイツを何度か見てから、状況を把握した私は再び叫んでしまった。

「ハァァァァ !? 」
「逆らったら出歩けない様に飼い殺すから」

 さらっととんでもない事まで言い切った雲雀に鳥肌を立てつつ、私は脳内の片隅で思った。


 もう……夜中までルービックキューブに熱中するの止めよう、……と。あ……でもやっぱりやりたいなぁ……とも。
(2022,2,17加筆修正 飛原櫻)

←サイトTOPへ飛びます

​作品閲覧中の誤クリックご注意下さい

動作/画面サイズ確認確認環境 Windows10/iPhone12

2022/4~ (C)飛原櫻

bottom of page