疎との鳥 籠の禽
第2話 私と幼馴染み
「たけちゃんちゃんと聞いてる―― !? 」
「はいはい、聞いてるって」
「本気で聞け―― !! 」
部活が終わり帰るや否、勝手に自室に入られていた私の姿を認識していた。それと同時にわーわーと騒ぎ立てる私の事を、幼馴染みは呆れ顔で対応しているのだった。
私と
第2話 私と幼馴染み
「風紀委員なんか絶対に嫌だ―― !! 」
かれこれ一時間以上そんな事を繰り返し言う私に、幼馴染みである山本武ことたけちゃんは慣れた様子でいた。
そして荷物をかたづけつつ、私の隣に腰を下ろして言った。
「だからその格好止めた方がいいって、何度も言っただろう?綾と有美にも散々言われてただろ?」
二人だけでなくたけちゃんにまで全く同じ事を言われてしまい、私は頬を膨らませた。
確かに校則違反をしている私の行動が風紀委員に目を付けられている原因である。でも納得出来ないので言う。
「たけちゃんまでそう言う――。綾も有美も同じ事言ってさ――。何よみんなで」
性格から私はどうしてもリボンを付けたくないし、ニーハイは勿論の事、メッシュもピアスも好きだ。
美意識に拘っているのではなく、折角開けたピアスホールを塞ぎたくないし、一部分だけのピンク色が気に入っているから直したくない。
ぶすっと頬を膨らませながらいじける私の頭を、ポンポンと宥める様に叩きながらたけちゃんは言った。
「まあ音羽のその格好も個性の一つだもんな。でも風紀委員に前々から目付けられてたんだろう?実際に注意もされてたんだろ」
そう、私のこの格好の事で何度も風紀委員が私に服装を直せ、と言われていた。でも服装なんて個人の自由なんだから、ほっといて欲しいと思っていた。
何よ服装くらいで……、そりゃあ学生服なのだから違う事をしたら確かに校則違反だけど。
でも……。
「てゆーか風紀乱してるの向こうの方が酷いじゃん―― !! リーゼントの不良の集まりじゃないの !! 制服だって学ランじゃん!ブレザーじゃないし !! 」
納得出来ないと再び騒ぐ私の事をたけちゃんは溜息を漏らしながらに見ていた。
勿論だけれど、たけちゃんも私の風紀委員長嫌いを知っている。綾と有美以上に奴に関する愚痴を言っていたから。
ぎゃーぎゃーと喚く私の事を大人しくさせる為なのか、当たり前の様に後ろからぽふっと抱きしめてきた。そしてその体制のまま、たけちゃんは慣れた様子で私の事を宥め始めた。
たけちゃんの膝の上は昔からの私の定位置だ。
私が何かぎゃーぎゃー騒ぎ散らすと、必ずたけちゃんは此処に私を置いて宥めてくる。それはもう当たり前の事になっていて、お互いに分かり切っている事だ。
たけちゃんが此処に入れる人は私だけ。私がこの位置に入る人はたけちゃんだけ。私達はそんな関係だ。
「まあでも服装の事に関しては、風紀委員は学ラン指定らしいからちゃんと着てるな」
確かに不良なんだけど、特例である風紀委員の学ラン着用。風紀委員独自のルールだけれど、それをしっかりと守っている部分は風紀委員は正しいかもしれない。
だけど………。
「でも私の不良具合なんて、向こうと比べたら赤子じゃないか―― !! 」
「分かった分かった。音羽機嫌直せって」
たけちゃんの膝の上でバタバタ暴れると、ポンポンと頭を叩かれ私はむすっとしつつも黙り込んだ。
たけちゃんの手に安心するとは言え、ピタリと静かになった私の事を見て、たけちゃんは話題を変えるかのように時計を見て言った。
「そうだ、今日の飯は家で食ってけよ。オヤジが寿司食わせてくれるってよ」
『寿司』
その単語を聞き、私は目を輝かせた。
「お寿司食べて良いの―――― !? 」
「ああ、オヤジがたまには高級なモンも食えって」
「やった―― !久しぶりのおじさんのお寿司――!」
風紀委員に対する不機嫌が一瞬に飛び去り、ぱっと立ち上がって私は喜んだ。
たけちゃんのお父さんのおじさんは板前さんで、とっても美味しいお寿司を握る人だ。私みたいな一人暮らしをしている奴は、お寿司なんて贅沢な物はそうそう食べる事は出来ない。
特に回っていなく直接握ってくれるたけちゃんの家のお寿司は高いからね。
「えへへ――楽しみ楽しみ――」
食べ物に釣られたとはいえ、上機嫌になった私にたけちゃんはほっと息をついてた。晩ご飯は美味しいお寿司と決まり、本当に嬉しい事だ。
嬉しい事ついでで風紀委員の事も夢だったら良いのになぁ………。
「取り敢えず私、おじさんのお手伝いしてくる――」
そうたけちゃんに伝えると、パタパタと私はお店の方へ走って行くのだった。
(2022,2,20加筆修正 飛原櫻)