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第3話 私と風紀委員の仕事

 

 

 雲一つない晴天。時刻はまだ七時にもなっていない登校には早過ぎる時間帯。
 この時間帯に登校すれば生徒はいなく、静寂に包まれた校内を歩くのは気分が良い。
 ……筈だったのに。

「ワオ、奇遇だね」

 早朝登校早々、私は顔を引きつらせながらに声を掛けてきたそいつを見た。



私と
第3話   私と風紀委員の仕事



 待ちかまえてたと言わんばかりに、両腕を組みながら校門前に立ちつくす雲雀恭弥。絶対に捕まってはならないと、少しずつ、と安全な間合いを確保しながら私は言う。

「風紀委員は朝早くからお仕事大変ですね――。…………早く死ね」
「僕の所有物が明らかに僕を避ける登校をするから、ちょっと早めに活動始めただけ」

 逃げようとする私を追い詰める様に、じりじりと確実に迫ってくる雲雀の事を避けながら言ってやる。

「それはそれは大変ですね――。近寄るなド変態が」
「せっかく僕が渡した腕章勝手に捨てたんだね。数に限りがあるんだし、大事にしないと咬み殺すよ?」


『咬み殺すよ』


 この言葉を聞いただけで、全身に鳥肌が立つ。雲雀の口から放たれていると言うのがどうも駄目なのだ。
 別に雲雀なんかに負ける気は毛頭ないのだけれど。本能が拒絶しているのだから、私にもどうする事も出来ない。

「お仕事頑張って下さいっ!私ウサギ小屋の飼育当番あるんで !! 」

 何時から並盛中にウサギ小屋が出来たのだろう。訳の分からない言い訳を言うのと同時に、走り逃げようと試みた。
 が、いつの間に居たのかと言わずにいられなく、既に右腕をがっしりと捕まれていた。

「ギャァァァ !! 離せ変態!寄るな変態 !! お巡りさ――ん !! 」

 ぶんぶんと腕を振るのだが、相手は不良の頂点に立つ雲雀恭弥で男。鍛えてあるとはいえ、女の私が力に勝てる筈もなく。

「よし」

 雲雀はさも当然の事の様に、満足げな表情で再び腕章を人の腕に付けていた。

「誰が風紀委員になんかなるか―― !! 」

 私はすぐにべりっと腕章を剥がして地面に叩き捨てるのだが、雲雀は何事も無かったの様に、再び人の腕に着け直してくる。執拗い位に。

「人の話を…… !! 」

 叫びかけてぴたっと止まる。腕に手を出さないと思っていたら、雲雀は無表情で人の首に首輪を付けてきたのだった。

「……は?」

 突然の事に思考が追い付かずに固まっていると、ガチャっとご丁寧に鍵まで付けると、さらっと言って来たのだ。

「さあ行くよ」
「『行くよ』じゃねェェ !! 人に何付けてるんだ……、ってか鍵付けられてるから取れないっ!」

 ガチャガチャと首輪を外せないかと試みていると、雲雀は誇らしげな表情でキラリと光る鍵を胸ポケットから取り出した。

「それの鍵……これね」

 そう言うのとほぼ同時に鍵を素早くしまうと、雲雀は言った。まるで自分が上の立場だと言わんばかりの表情で。

「あげないから」
「変態に磨きをかけるなァァ !! 」

 てか何この状態は。生き地獄?生き地獄ってこの事の指すの?ちょっと軽く涙が出て来たんですけど……。
 首輪なんてまるで『所有している』と周りに示しているとしか思えなくて。
 そして、その相手が雲雀恭弥である。

「行こう音羽」

 首輪に付いていた短めの鎖を掴むと、雲雀はどんどん校舎の中に私を連れ込んでいく。
 ズルズルと引き摺られるし、外せない首輪の所為で首が締まって苦しい。そして、何よりも雲雀の距離が近過ぎて鳥肌が止まらなかった。

「ギャァァァァ !! 」

 朝早くから、私の悲痛な悲鳴が学校に響き渡るのだった。





「ぎゃはははははははは !! 」
「…………」

 折角早朝登校したと言うのに雲雀に連れ回され、やっと解放されて教室に入るや否、私の姿を見て綾が腹を抱えて笑っていた。

「災難だね。それ風紀委員長がやったの?てか外せるのそれ」

 日直らしく、日誌を記入しながら有美はペンで首輪を指さす。首輪には相変わらずキラリと光る施錠。有美が言うのは首輪自体ではなく、南京錠の事を言っているみたいだった。

「外せるモンならとっくに外してるわぁ !! 」

 ばしっと床にカバンを叩き付けて、私は怒り狂う。そんな私に対して、綾は未だ大声で笑い続けている。
 どうやら私の状況が彩のツボに入ってしまった様だ。

「あははははっ……音羽もう最高だよそれ !! 」
「ねえ、有美。綾の事殴り殺して良い?」

 青筋を立てつつぐっと拳を作ると、有美は『駄目よ』と一言だけ言った。

「他人事だからって笑いまくって、アンタ達親友を悪魔に売る気 !? 」

 バンと机を叩くと笑いたいだけ笑って落ち着いたのか、真面目そうに手を振りながら綾は答えた。

「だって雲雀さんに逆らったら殺されるもん。運が悪かったと思って諦めれば?てか雲雀さんのその趣味……ぷぷっ」

 並盛風紀委員には関わるな、逆らうな、が並盛のルールである。なので、彩の言う事は間違っていない。
 でもそんな状況を作っている雲雀に殺意を抱くし、私の不幸を笑う彩に怒りを感じてしまう。
 やっぱり今すぐにでも雲雀の野郎を殴り殺したい…。

「でも風紀委員長必死だね。音羽捕まえる為にわざわざそんな物まで用意しちゃって」

 日誌を書き終わったのかパタンと閉じシャープペンを転がしつつ、まじまじと首輪を見て有美は何かに気付いたらしく言う。

「でもそれは困るよね。お風呂とか着替えとか」
「それ以前の問題なんですけど……」

 そう、重要なのは首輪が外せない、ではない。雲雀恭弥の『所有物』と言わんばかりのこの状態なのだ。


 自分が雲雀の所有物なのだと考えただけで、蕁麻疹がァァァ !!


「取り敢えず、鍵屋さんに行ってみて合い鍵作ってもらえば?」
「そだ!その手が合ったか !! 」

 有美の意見にずびっと指を指し、なんとかこの首輪を外せる術を手に入れる事が出来、私は一安心する事が出来たのだった。





「は?合い鍵は作れない?」

 学校帰りに商店街の合い鍵屋に行った私は、店主に言われた事に目を見開いた。合い鍵屋なのに合い鍵を作れないとはどういう店だ。
 訴えるぞ。

「実は並盛風紀委員に、その施錠の合い鍵作ったら店を潰すって脅されてて……。他の店も同じ様に脅されてるみたいなんだ」

 私に目を合わせない様に横を向きながらに、冷や汗なのか汗を流しながらに言っている。ひっ雲雀の野郎ゥゥ !! 小賢しいマネをしやがってェェェ !!

「マジですか?」
「風紀委員が目を付けてない合い鍵屋探すしかないよ」

 そんな店があるならば、とっくに向かってるわ!と叫びたい……。
 雲雀の権力はイマイチ分からないのだけれど、どうも並盛一帯を牛耳っているのだけは分かる。

「じゃあ本人から鍵奪うしか外せる方法無いんですね……」

 ぐったりと私が言うと、店主は気の毒そうに大きく頷くのだった。

「アイツ何時か絶対に殴り殺してやる……」
「災難だねお嬢ちゃん」

 希望を失い、私はとぼとぼと帰路を歩いた。


 山本家に戻ると私の姿を見て、案の定たけちゃんは大笑いするので、ついつい本気で飛び蹴りを食らわせてしまった。
(2022,2,26 飛原櫻)

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