疎との鳥 籠の禽
第4話 私と部活動
「帰ろう」
「黙れ、消え失せろ」
並盛に居る限り、今日も今日とてバトルなのだ。
私と
第4話 私と部活動
バチバチと先程からずっと教室ドア前で火花を散らしながら睨み合っている私と雲雀恭弥に、クラス中が怯えている。正確に周りが怯えているのは雲雀に対してだけなのだが……。
雲雀恭弥は並盛中学校の風紀委員兼不良の頭。弱くて群れる人達は問答無用で叩き潰すと言う、タチの悪い不良集団の頂点。
目を付けられたら最後。それがこの学校……いや並盛町での決まり事の様なモノだった。
そんな雲雀の事を怯えない生徒は片手でも余る位だ。私のクラスも例になく、毎日の様に教室に現れる様になってしまった雲雀の存在に怯えきっているのだ。
「帰るよ」
「だ~か~ら~~、今日は部活動あるって言ってるじゃん。それ以前に誰が一緒に帰るか消えろ、去れ、変態」
雲雀に対して毒づく度にクラス中が怯えかえる。それでも引き下がらないのは、私が雲雀恭弥を嫌っているからである。
生理的に無理なモノは無理なのだから。
「ちょっと音羽っ !! 」
「ちょっと音羽借りますっ!」
流石にこの空気はマズイと思ったらしく、綾と有美が慌てて私を教室の奥へ引き込んだ。
「二人とも何?」
「『何?』じゃないよ!もう何してるのよ !! 雲雀さん今にも教室破壊しそうな勢いじゃないの !! 」
雲雀の奴に聞こえない声量で慌てふためく綾に、対し私はキッパリと言い切ってやる。
「壊したければ壊せば良いじゃないの。修理費はどうせ向こうが出すのだから」
「もう音羽!そう言う問題じゃないでしょ!あ――もうっ……音羽も根が不良だから困ったなぁ……」
元々待たされているに近い状態である雲雀の事を、更に待たせている。どんどんドス黒いオーラを出しているのだから、ちらちらと雲雀の様子を伺いながら、有美は話を続ける。
「クラスの為にも今日は部活休んで、一緒に帰れば良いじゃないの!いつも一緒に帰ってるんでしょ?」
「帰ってない!」
毎日の様に授業が終わると当たり前の様に向かえに来る雲雀を無視し、たけちゃんと帰っている。その後を雲雀が付けているだけだ。一緒に帰って等、一度たりともない。
「良いじゃないの!一日ぐらい一緒に帰っても !! 」
「冗談じゃないよ!二人とも私の雲雀恭弥嫌い忘れたの !? 」
「最近名前言われても蕁麻疹出ない位に平気になってきたんだから、そのまま好きになれっ!クラスの為よ!」
綾のその一言に私は立ち上がって怒鳴ってしまった。我慢出来ずについつい、だ。
「結局はクラスの為の生け贄かァァ !! 」
クラスの為とは言えども、雲雀恭弥と共に生きろなど冗談じゃない。そんな生活する位なら死ぬわ、今すぐ死ぬ!
「まだ?」
「ぎゃ―― !! 何時の間にか背後にいるし !! 」
ぴったりと私の背後に立つ雲雀に対し、怯えた親友二人は慌てた様子で私を売り飛ばしたのだ。
「もう話終わったのでっ !! 」
「無理矢理でも良いのでどうぞどうぞ !! 」
「こらァァ!親友を売るなっ!薄情者!」
「じゃあ遠慮無く」
がしっと首輪に付いている鎖を握りしめて、雲雀はずるずると私を教室から連れ出そうとする。冗談じゃない!
今はどうしても野球部に顔を出さないといけない理由があるんだ。
それを抜きにしても雲雀の相手など不可能である。
「部活あるから絶対に帰らない!そもそも私が何処で何しようとアンタには関係ないし、勝手でしょ !? 」
雲雀が掴む鎖を掴んでぐぃっと引っ張って抵抗をすると、雲雀の奴はぼそっと呟いていた。
「………弱い奴等が群れてるの見ると潰したくなるんだよね」
「誰が弱い奴等だ―― !! 」
雲雀の言葉にぐわっと手をあげた私を見て、綾と有美が大慌てで飛びついてきた。
「音羽落ち着け―― !! 」
「駄目駄目駄目っ!雲雀さんだけは駄目だってば!」
がっしりと押さえつけられながらも私は暴れた。
百歩譲って私自身を馬鹿にされるのは良いとしよう。だけどたけちゃん……いや、野球部を馬鹿にされるのは我慢出来ない。
「だってコイツたけちゃん達の事馬鹿にしたんだよ―― !! 」
「『たけちゃん』?」
たけちゃんの名前にぴくっと反応を示した雲雀に、二人は慌てて私の口を塞ぐ。
息は上手く出来ないし喋れないし、バタバタと暴れる私に一言雲雀は言う。
「『たけちゃん』って……誰?」
雲雀の様子に有美は出来るだけ小声で言ってきたのだ。
「馬鹿―― !! 山本くん目付けられちゃうでしょ !! 」
「何で?たけちゃん関係ないじゃん!」
さっきから綾も有美もどうしてたけちゃんの事をこんなにも心配しているのだろう。雲雀の事にたけちゃん全然関係ないのに。
「とにかくこれ以上雲雀さんの前で山本くんの名前出したら駄目!分かった !! 」
有美に一押しされてしまい、私は勢いで頷いてしまった。此処まで必死な有美は初めて見る様な気がして……。
雲雀の方と言えば不機嫌絶頂期らしく、既にドアが殴り壊されていた。
「…………で……誰?」
「は?」
じりじりと寄ってくる雲雀を見て、本能で避けながら私は答えた。
「幼馴染み。じゃっ」
殺気を放つ雲雀を上手く避けきり素早く教室を出て行いくと、綾の怒り声が背後から聞こえた様な気がした。
でもこれ以上雲雀に付き合っている暇はないので、私は足早に運動場へと向かうのだった。
◆
「たけちゃんっ !! 」
野球部の練習に顔を出すと、バットを素振りしているたけちゃんがいた。呼ばれたたけちゃんはすぐに私の事に気付いてくれて、笑顔を返してくれた。
「おっ、音羽。今日も顔出すのか」
「うん」
取り敢えず、と適当な所にカバンを置き、たけちゃんの側に寄って言う。
「……調子どう?」
心配しながら尋ねると、たけちゃんは私と対照的にいつもの表情で答えてくれた。
「ん――相変わらずだけど音羽は気にする事ねーよ」
ぐしゃぐしゃっと頭を撫でてくれるのだが、やっぱりたけちゃんは元気が無い様な気がした。
「でも今までこんな事無かったもん……心配だよ」
最近たけちゃん野球のスランプで調子が良くない。今までこんな事なかったから、たけちゃん自身もかなり悩んでいる。
無理して元気でいる様な気がして心配……。
「…………私、野球してるたけちゃんが好きだもん。野球でき無くなっちゃったら淋しいよ」
ぎゅっとユニホームの裾を掴むと、たけちゃんはいつも以上に頭を撫でて言ってくれた。
「大丈夫だって。すぐに元に戻るからさ」
「たけちゃん……」
「こらぁ !! 武お前惚気てる暇合ったら練習しろっ!音羽も部活来たなら仕事しろ仕事 !! 」
ずかずかとこちらに歩いてくる部長の姿を見て、私は慌ててたけちゃんから離れた。
「わわっ……部長怒ってる!」
「やべーな。じゃあ音羽俺は練習に戻るな」
ポン、と頭を叩いてからたけちゃんは練習に戻っていくので、その姿を見ながらポツリと呟いてしまう。
「……早くスランプ脱出出来るといいなぁ」
さて、気分を変えて部活に参加するのだから、取りあえず仕事仕事!
その後何故か、野球部と風紀委員がもめかけたとか。
(2022,3,19加筆修正 飛原櫻)