疎との鳥 籠の禽
第5話 私と怪我人
「たけちゃん!! 」
おじさんから連絡を受けた私は、慌てて病院へと駆け込んだ。
私と
第5話 私と怪我人
「たけちゃんどういう事 !? 」
ばっと病室へ駆け込むと、其処には右腕をギブスで固定している痛々しい姿になっているたけちゃんがいた。
「よお音羽」
けれど、たけちゃんは何時もの様にへらっと手を振るのだから、私は怒った。
「『よお』じゃないよ!何で怪我しちゃったの !? 」
そう言うとたけちゃんは苦笑いをしつつ、正直に答えてくれた。
「ちょっと野球の練習し過ぎたんだよ」
「骨折する位無理したの……?」
見ているだけで痛々しいたけちゃんの腕を見つめて、私は黙り込んだ。ここまでたけちゃんが思い詰めていたなんて知らなかったんだ。
こんな事になってしまうならば、たけちゃん一人置いて先に帰らなければ良かった……。
シュンとする私に、たけちゃんは何時もの声色で言ってきた。
「怪我に関して、音羽は気にする事何もないからな」
ポンポンと頭を叩いてくれるたけちゃんは、いつものたけちゃんだけど違う。凄く辛そうな目をしてる、無理してる。
「たけちゃ………」
「大丈夫だ」
これ以上はまるで踏み込ませないかの様ににっこりと微笑んでくれたたけちゃんに、言葉が出てこなくて何も言えなくなってしまった。
◆
次の日、たけちゃんが学校の屋上から飛び降り自 殺をしそうになった。ソレを止めてくれた子がいたおかげで、たけちゃんは無事だったのだけれど。
無論私は、怒濤の如く怒った。
「この馬鹿たけぇぇ !! 」
ぎゅむーっと両頬を思いっきりひぱってやると、たけちゃんは慌てて答えた。
「いででで!悪かったって !! 」
「おばか―― !! 」
片手を骨折しているたけちゃんに、私の両手を抑える術は無い。なおも引っ張り続ける私の目は涙目だったと思う。もしたけちゃんが本当に死んでいたらと思うと……。
「音羽泣くなって」
泣き出す私のぐしぐしっと頭をたけちゃんは撫でてくるので、ギュッと抱きついて呟いた。
「……たけちゃんまで母さん達みたいにいなくなったら嫌だ」
「音羽……」
死んだ直後の母さん達の姿を私は見ている。居眠り運転の車に突っ込まれ、即死で亡くなった両親の血塗れで冷たくなった死体を。
たけちゃんまであんな風になったら嫌だ。
「……本当にもう大丈夫だから、な?」
「……約束だよ」
「おう、約束だ」
にこっと笑ってくれたたけちゃんは、何か吹っ切れたのかいつものたけちゃんに戻っていた。
「あ、そうだ」
「ん?」
ぽん、と思い出したかの様に私の頭をぽんぽんと叩きながら、たけちゃんは言ってきた。
「お前明日昼空いてるか?」
「うん、空いてるけど?」
急な話ではあったけれど、別に特段用事がある事はない。一瞬雲雀の姿が過ぎったけれど、なかった事にしておこう。
大丈夫だと私がそう答えれば、たけちゃんは笑顔で続きを話してきた。
その表情は本当に嬉しそうな表情であって、珍しさすら感じてしまう程に。
「お前に紹介したい奴等がいるから、明日昼屋上で弁当な」
「へ――、珍しいねぇ」
他人から好かれやすいたけちゃんの周りには、常に人がいる。誰かを紹介していたらキリがない位に。
そんなたけちゃんが人を紹介したいと言うのだから、本当に珍しかった。
「そんなに気に入ったんだ」
「面白い奴等だぜ」
「じゃあ期待しようっと」
明日の予定が決まった。たけちゃんが会わせたいって人って、たけちゃんの事助けてくれた人なのかな……。
そうだったら楽しみだな。
(2022,3,21 飛原櫻)