疎との鳥 籠の禽
第6話 私とボンゴレファミリー
「姐さん、向かえに来ました」
「誰が姐さんだァァ !! 」
当たり前の様に教室に現れた草壁に向かって、私は思いっきり黒板消しを投げつけやった。
私と
第6話 私とボンゴレファミリー
草壁も私の扱いには慣れているのか、方に当たった黒板消しの所為で白くなってしまった部分を叩きながら、さも当然かの様に告げてきた。
「恭さんが呼んでますので来て下さい」
「次、その名前言ったらそのリーゼントもぎ取るからな」
釘を指すようににっこりと笑顔で毒づいてから、私はお弁当を持って草壁の事などいない扱いて、足早に教室を出て行こうとした。
「あれ?音羽何処か行くの?」
「珍しいね。あ、もしかしてやっと諦めて風紀委員長と一緒に食べるの?」
違うと分かった上でからかう様ににやにや、っと笑って言った綾に私は真顔で言い返してやる。
「殴るよ」
拳を作った私に対し、綾に対して溜息を付いてから、有美は対照的に落ち着いた様子で尋ねてきた。
「誰かとお昼一緒に食べる約束でもしたの?」
「うん、たけちゃんに誘われたの」
たけちゃんの名前を言った途端、二人の会話がトーンが上がり、まるでピンク色に早変わりした。
「きゃ――山本君とだって――」
「山本君格好いいよね――」
二人の反応に呆れていると、綾は私の腰を肘でつつきながら言う。
「あんな格好いい人が幼馴染みなんてこの幸せ者め――」
「何訳の分からない事言ってるのよ」
たけちゃんはたけちゃん。それ以下でもそれ以上でもない。そもそも周りがたけちゃんの事で騒ぐ理由が、いまいち理解出来ない。
そんなに騒ぎたくなる様な奴だったか?たけちゃんって……。
「なんか友達紹介したいらしいから。んじゃ待たせたくないし、私行ってくる」
ひらひらっと二人に向かって手を振ってから、私は未だ廊下にいる草壁に言った。
「着いてきたら殴るよ」
再度着いてくるなと釘を打ち、私は急いで屋上へ向かっていった。
◆
「はへ――。たけちゃん何時の間にこんな友達出来てたんだ」
屋上へ来ると学年で有名な『ダメツナ』と呼ばれる沢田綱吉と、そう言えば外国から来た帰国子女と言う事で私のクラスでも騒がれている獄寺隼人がいた。
「山本テメー十代目の前で女自慢か?」
「獄寺くんそんな言い方駄目だってば……」
「ははは何言ってるんだよ、さっき説明しただろ?俺の幼馴染みだって」
へらへらっと笑うたけちゃん。そんなたけちゃんに噛みつく獄寺隼人。その二人の事をオドオドと見ている沢田綱吉。
正反対の性格をしているのは勿論の事だけれど、たけちゃんとはそもそもタイプが違う。二人は異色って言えば異色な組み合わせかもしれない。どういう経緯で仲良くなったんだろう……。
「ほら音羽、自己紹介自己紹介」
たけちゃんに言われ、私はそう言えば忘れていたな、とぺこっとお辞儀をしてから言う。
「んと一応たけちゃんから事前に聞いてるかもしれないけど。私の名前は音羽、山本音羽だよ」
「「 山本? 」」
私の名字を聞くなり、二人は不思議そうに顔を見合わせていた。なのでたけちゃんの事を見てみた。するとたけちゃんはへらへらと笑いながら言ってきたのだ。
「あ、そう言えば言ってねーっけな」
「えっと……山本の従兄弟?」
控えめに尋ねてきた沢田綱吉に対し、たけちゃんは何も説明していないのだな、と判断しながら私は手を振って答える。
「んーん、赤の他人」
「俺と音羽は戸籍上では兄妹なんだよ」
私の言葉に被せる様に、さらっと言ったたけちゃんに対し、獄寺隼人は眉間に皺を寄せながら言う。
「はぁ?何だそれ」
たけちゃんの事を半ば睨むような視線を送るコイツに、たけちゃんは嫌われているのかと思いつつ私が代わりに答えた。
「んと私の両親、私が幼稚園の時に交通事故死しちゃってね。山本のおじさんとおばさんが私の事引き取ってくれたから。あ、本名は如月音羽ね」
そうさらっと言った私に対し、沢田綱吉は青褪めた顔色をしながらオドオドしながら尋ねてくる。
「わ……悪い事聞いちゃったかな……」
「別に」
「別にって………」
内容が内容だと言うのにあっさりと伝えた。事実だし、隠した所で何時か知られる事なのだから、隠す理由もない。しかし私の言葉にエェー、と言わんばかりの表情をする沢田綱吉を横に置き、私はたけちゃんに言った。
「それにたけちゃんがいるもんね――」
「そうだな」
ぐしぐしっと私の頭を撫でたたけちゃんを見て、何故か獄寺隼人がキレた。全力でキレた。
「テメー!結局は十代目に対して女自慢に来ただけじゃねーか!」
「ちょっ……獄寺君落ち着いてってば !! 」
慌てて止める沢田綱吉と獄寺隼人の事を、たけちゃんは仲が良いなぁと笑っていた。仲は良さそうだけれど、なんか微妙な壁を感じるけど。
暫く騒いでいたけど落ち着いたらしく、私の事を見てきた。私を見ている、と言うよりも目を見ている様だった。
「その目って……コンタクト?」
左右で瞳の色が違うし、髪の毛を染めている事もあるからファッションだと思ったのかもしれない。物珍しそうにじーっと私を見てきた沢田綱吉に対し、へらっと言う。
「あ――これアルビノ――。プチアルビノ」
「ある……びの?」
首を傾げる沢田綱吉にアルビノを知らないのか、と思って私は答える。
「正式名称は確か先天的色素異常、だったかなぁ?ちゃんと色素無いから目、赤いんだよね。血の色なんだ。で、色素無いから陽の光に弱い病気」
病気、と聞いて焦る沢田綱吉だけれど、だが慣れっこなので何も気にせずに答えた。
「全然平気だから。もう慣れた」
「えっと……慣れたりするモノだっけ……病気って……」
呆れかえっている沢田綱吉に対し、私はグッと親指を立ててやった。
◆
「よし決めた」
お昼を食べ終わった私が突然そう言ったので、みんな不思議そうな表情で見てきた。
「二人がたけちゃんの友達ならば、つまり私の友達ね」
「えぇ―― !? 何その考え !! 」
驚き叫ぶ沢田綱吉に対し、私は淡々と二人の名前を思い出しながら言い切った。
「えっとアンタは沢田綱吉だから綱ちゃんで、そっちは獄寺隼人だから隼ちゃんね」
決定、とにこっと言い切ると隼ちゃんはキレ言った。
「何でちゃん呼びなんだつ――か勝手に友達決定か !! 」
「うん」
きっぱりと言い切った私を見て、たけちゃんは苦笑いしつつ言い加えた。
「こいつ一度言い出したら聞かないから諦めた方がいいぜ。俺も昔『たけちゃんって呼ぶな』って言ったら、半殺しにされたからな――」
「あっさりとした表情で凄い事さらっと言った―― !? 」
たけちゃんの言葉にすかさずツッコミを入れたツナちゃん。と、言う事はツナちゃんはツッコミ担当か。
「と、言う事でよろしくね。私の事は好きに呼べば良いから」
「認めてねぇつーかそもそも俺はコイツ自体認めてねーっての !! 」
たけちゃんを指さしながら青筋を立て怒る隼ちゃんに対して、たけちゃんは笑う。
「獄寺は相変わらず面白い奴だな」
「ぶっ殺すぞテメェ !! 」
今にも喧嘩になりそうな二人の事を困った表情で見てから、綱ちゃんは控えめに言う。
「えっとじゃあ……音羽で良いかな?」
「うん、全然オッケー」
ビシッと親指を立てて言うと困りながらも、綱ちゃんは笑ってくれた。隼ちゃんと仲良くなれるまではもう少し先なのだろうな、と思った。
数日後、紹介されたのをちょっと後悔する事となるのだが、今の私はまだのその事を知らないのだった。
(2022,3,27加筆修正 飛原櫻)