疎との鳥 籠の禽
第8話 私と入ファミリー試験
「音羽放課後プールに来てくれ」
「なんで?」
授業サボりをし過ぎてしまった為に、裏庭掃除中をする事になり、一人箒を走らせていたら突然現れたリボーンが誘ってきた。何でプール何だろうと思っていると、リボーンは言ってきた。
「前言っただろう。お前をファミリーに入れるって。今日山本と一緒に入ファミリー試験やるからこい」
ほぼ否定権の無さそうなリボーンの言い方に溜息をついた。入ファミリー試験があるなんて『ごっこ』にしては本格的だなぁ……と。
正直雲雀の事で疲れていたし、今日は帰ろうかと思っていた。まぁ、でもたけちゃんがいるなら良いか。
「うん、良いよ」
私と
第8話 私と入ファミリー試験
「リボーン何やってるんだよ !! 」
放課後プールに姿を現した私の事を見て、綱ちゃんは非常に怒っている様だった。怒っている理由は私とたけちゃんの入ファミリー試験の事らしい。
「山本も音羽も友達だって言ってるだろう!お前の変な世界に巻き込むなって何回も言ってるだろう !! 」
ちゃっかり水着を着てプールでぷかぷかと浮かんでいるリボーンは、ちらっと私の事を見てから言った。
「今極寺に山本呼びに行かせたぞ」
「なっ !! 」
綱ちゃんはその言葉を聞くなり、顔を青褪めて大慌ての様子で走り出した。
「『あの』極寺くんだぞ !! 」
「ほれ、音羽も行くぞ」
プールから素早く飛び出し、綱ちゃんの腰にロープを巻き付けたリボーンに言われる。まぁする事も無いし、たけちゃんの所に行った方が早いだろうと判断し、私も後を追って走った。
◆
「たけちゃ――ん」
何処にいる、とは言っていなかったのだけれど、綱ちゃんは感が優れているのかもしれない。綱ちゃんが走って行った先に本当にたけちゃんと隼ちゃんがいたのだ。
二人の姿も確認したのでぶんぶんと手を振ると、隼ちゃんに睨まれていたたけちゃんは、笑顔で手を振り替えしてくれた。
一方の隼ちゃんはと言うと、私の姿を見るや気に入らないと言わんばかりの表情になった。
「んでオメーまでいるんだよ」
「何でってねぇ……、呼ばれたから着いて来ただけ」
そう言ってからたけちゃんの元へ行くと、綱ちゃんとロープで繋がっているリボーンに気が付いたらしく尋ねてきた。
「なにそいつ。ツナの弟?」
「ちゃおっス」
焦っていたのか、どうかは分からないけれど、今頃リボーンの事に気が付いたらしく、綱ちゃんはかなり驚いていた。
リボーンはたけちゃんの事を見定める様に見つめる様に、じーっと見てさらっと言う。
「弟じゃねーぞ。俺はマフィアボンゴレファミリー殺し屋リボーンだ」
まだマフィアに拘ってるみたいだなぁ。設定から入るのが子供に取っては大事な事なのかもしれないけれど。慌てる綱ちゃんをよそに、たけちゃんは笑いながらリボーンに言った。
「そっか。そりゃ失礼した。こんなちっせーうちから殺し屋たぁ大変だな」
「そーでもねーぞ。お前もボンゴレファミリーに入るんだぞ。もちろん音羽も一緒だ」
きっぱりと言うリボーンに慌てている綱ちゃんに対して、たけちゃんはいつも通りの笑顔で言う。
「まーまー相手は子供じゃねーか。俺らもガキん時やったろ?刑事ごっこだのヒーローごっこだの」
たけちゃんはそう言うけれど、まぁマフィアごっこする子供なんて、リボーン以外今の所見た事ないけれどね。わざわざ言わないけど。
上機嫌のたけちゃんはひょいっとリボーンを肩に乗せて、立ち上がった。
「ファミリーの十代目ボスはツナなんだ」
「っほ――そりゃまたグッドな人選だな」
「うわ――――――っ !! 」
仲良さげにしているたけちゃんとリボーンの様子を見て、綱ちゃんは非常に驚いていた。
「どーかした?」
「や…………リボーンの奴俺がちょっと触れただけで半殺しにする癖に……」
綱ちゃんの言葉に二人の上下関係を考えてみた。赤ん坊に勝てない中学生……なんだそれ。どういう関係?この二人は……。てかリボーンにすら勝てないのか綱ちゃんは……。
(まぁ、見たまんま綱ちゃんって弱そうだもんなぁ)
私が相手にして本気にしなくても、綱ちゃん程度ならば簡単に手を捻れる気がした。てか、絶対に出来る。
「よーし分かった。んじゃ俺も入れてくれよ、そのボンゴレファミリーってのによ」
たけちゃんの一言にリボーンはニカッと笑い、綱ちゃんは慌て、隼ちゃんは気に入らないと舌打ちしていた。三者三様の反応だったので、見ている方は結構面白い。
「で、何すりゃいいんだ?」
「まず入ファミリー試験だぞ」
「っへ――試験があんのか。本格的じゃねーか」
たけちゃんの肩から飛び降りながら、リボーンは言う。
てか、たけちゃんが試合とか好きな性格を知って試験って言ってるな。
確信犯で間違いない。
「試験に合格しなきゃファミリーには入れないからな。因みに不合格は死を意味するからな」
さも当然だと言う表情でどーんと言い切ったリボーン。綱ちゃんはと言うとリボーンの発言に対して頭を抱えているみたいだった。
「音羽も同じだぞ」
他人事の様に聞いていたのが分かったのか、リボーンは私にも同じ事を言ってきた。
「え――私も――?」
「女子供関係ねぇからな。例外は認めない」
淡々とリボーンが言う中、どうやらたけちゃんはリボーンの事がかなり気に入ったらしく、頭をぽんぽんと撫でていた。するとリボーンは何処からか短銃を取り出し言う。
「試験は簡単だ。とにかく攻撃をかわせ。まずはナイフだ」
そう言うのと同時にいつの間にかナイフも用意していたのか、リボー ンはたけちゃんに向かって、ナイフを数本投げつけた。
「うおっ!」
それを総てかわしたたけちゃんに感心していると、今度は私に向かってリボーンはナイフを投げつけてきたのだ。
「うわっと!」
本当に容赦ないなぁと思いいつつ慌ててソレを避けると、間に割り込んできた綱ちゃんが慌ててリボーンに言った。
「待てよリボーン !! 本当に山本と音羽殺す気かよ !! 」
「まあ待てツナ」
焦る綱ちゃんの肩をがしっと組むと、へらっとたけちゃんは言っていた。
「俺等もガキん時木刀で遊んだりしたろ?いーじゃねーか。つきあおーぜ。音羽も良いだろう」
ぽふっと私の頭に手を置いきながらに尋ねられたので、笑顔で答えた。まぁ軽く付き合う程度ならば問題ないし、何よりも乗り気になっているたけちゃんわ説得するのが面倒くさかった。
「うん、たけちゃんがそう言うなら」
「ボスとしてツナも見本を見せてやれ」
さらっとリボーンに言われて、綱ちゃんは非常に驚いて声を上げていた。たけちゃんと言えばノリノリで楽しそうに言ってきている。
「そいつぁーいい。誰が試験に受かるか競争だな」
「売られた勝負は買う主義だから良いよ」
「ちょっ……え゛え゛―――― !? 」
やる気満々の私達を見て、綱ちゃんは軽く顔が青褪めている様だった。
まぁある程度運動神経が良い私達と比べ、ダメツナと呼ばれている綱ちゃんは運動神経が良くないのだから嫌な気持ちでいるのだろう。
「さあ逃げろ!」
ザッと走り出したたけちゃんの後に続いて、私と綱ちゃんも走る。リボーンと言えば容赦なくナイフを投げ続けてきている。
中々投げ慣れている感じみたいだったけど。そもそも何処からこんな量のナイフが出てきているのか地味に疑問。
「あぶなーい」
ひょいひょいっとナイフを避けているのだけれど、地面に刺さっているナイフを見て思った。ナイフ……オモチャじゃなくて本物なんですけど。
ギラリと太陽光を浴びて光るナイフ。斜めの角度でもしっかりと地面に刺さっている。それなのに全く気が付かず、未だにオモチャだと思い混んで笑いながら逃げているたけちゃんは本当に大した奴だと思う。
「次の獲物はボウガンだ」
そんな事を考えている間にリボー ンはどうやら先回りをしていたらしく、逃げていた先でボーガンを構えていた。
うん、アレも多分ゴム鉄砲じゃなくて、本物のボーガンで間違い無さそう。
少し呆れ気味の表情をしていたら、バチッと目が合いにぃっと意味あり気に笑われた。
「音羽思った以上に反射神経いいじゃねーか」
「お褒めの言葉ありがと。コレでも不良、喧嘩なんて日常茶飯事だよ」
見た目からと性格の所為か、上の学年の人達から目をつけられる事は多い。よく分からないのだけれど、たけちゃん関連でなんか近寄ってくる人も多い。
それと最近は雲雀から逃げる事が多くなっていて、ソレも関係していそうだなぁ。
「タダでは転ばないからね」
雲雀の存在を頭から消してにこっと微笑んで言うと満足したのか、リボー ンの表情が動いた気がした。
「ガハハハハハハハ !! 」
「今度は何だ?」
高笑いに反応して全員で非常階段の方を見ると、一人の少年がなにやらぎゃーぎゃーと騒いでいた。
どうやらリボーンに用事があるらしい。が、しかしリボーンは完全無視で私達に向かって攻撃を続行してくる。シカトだ。
「おチビごめんね。今忙しいから!」
そう一言だけ声を掛け、逃げ続けていたら突然ミサイルが飛んできた。
一瞬何でミサイル?と考えてしまった為に逃げ遅れそうになったのだが、そこを素早くたけちゃんに腕をひかれて庇われた。たけちゃんは一息つくと多少真面目な表情になった。
「こいつぁなめてっと合格できねーな」
「リボーン !! 試験なんてやめようぜ !! 」
必死に説得をする綱ちゃんに対して、リボーンは本当に楽しそうな表情でマシンガンを取り出して撃ってくる。
銃弾と共に再びミサイルも飛んできて、本当に命がけ状態だ。てか、学校でこんな騒ぎしていて雲雀の耳にでも入ったらどうしようかと思ったら、それに対して悪寒が走った。
「十代目 !! 」
隼ちゃんのジェスチャーに全く理解が出来ていない綱ちゃんは顔をしかめていた。まあ見た感じ『避けろ』、みたいな事を言っている感じはするけど……。
伝わっていなさそうなので、全く意味が無いのだけれど。
と思っていたら、次の瞬間ダイナマイト・ミサイル・銃弾とまとめて飛んできた。
ミサイルと銃弾はリボーンがやっているのだけれど、ダイナマイトは何処から飛んでいているのかと思えば、どうやら隼ちゃんが投げていた。いや、何でダイナマイト持ってるんだ?
で、流石にこの状態にはたけちゃんも焦ったらしい。
「音羽俺に飛び乗れっ !! 」
その声と同時に慌ててたけちゃんの背中に飛び乗った。たけちゃんの方は綱ちゃんの事を急いでひっぱり、なんとか全員無事に済んだようだ。
土煙凄いし、絶対にこれ風紀委員来るぞ……。雲雀の耳に入る前にこの場から消え去りたい。
「試験合格だ。お前も正式にファミリーだぞ」
惨状など関係無いのかしれっとした表情でたけちゃにそう言ってから、たけちゃんの背中にいる私を見て付け足す様にリボーンに言われた。
「音羽はギリギリ合格な」
「え――何で――」
たけちゃんの背中から飛び降りて風紀委員の姿が見えないか辺りを見回しつつ尋ねると、当たり前の様に言い返された。
「試験中にお前二回山本に庇われてたからな。其処がマイナス部分だ」
「うえ――厳しいな――」
まぁ確かに減点対象になって当然だと思った。たけちゃんに庇われるのが当たり前だと思っていたのが良くなかったみたいだ。
でも慰めなのかどうか分からないが、言い加えられた。
「まあでも、オメー期待はしてるからな」
「うん」
そう言う会話をリボーンとしていたら、たけちゃんと隼ちゃんが意気投合していた。どの辺りで気が合ったのかと会話の内容に耳を傾けると、どっちが綱ちゃんの右腕になるかどうか、の話をしている様だ。
「あ、そうだ」
どっちが右でも左でも良いし、私は興味が無いので二人の会話には口を出さずにスルーした。それよりも大事な事を忘れる所だったと、私は思いだした様に綱ちゃんの所に行って尋ねてみた。
「あのさ――」
「ん?」
二人の言い合いに呆れ果てつつ困っている綱ちゃんに、私はたけちゃんには聞こえない様に、でもはっきりと言っておいた。
「マフィアごっこじゃなかったんだね」
言った途端、綱ちゃんは青褪めた顔色になり慌てふためきながら言ってきた。
「いやあのそのね !! 」
「だってさ、ナイフも銃も爆弾もどう考えても全部本物でしょ?」
運動場の惨状を指さしながらに言い切ると、綱ちゃんはバツの悪そうな表情で途切れ途切れに言った。
「あ………うん……そうだけどさ……」
綱ちゃんはちらっとたけちゃんの事を見たので、溜息をついて言ってやった。
たけちゃんは未だに気が付いていないのに私がずかずか言ってくるからなんだろうな。
「は~~、私はたけちゃんみたいに鈍感馬鹿じゃないから、偽物かオモチャくらい状況見れば分かるに決まってるでしょ?」
返答に困った表情でいる綱ちゃんに向かって、これは反応が面白いな、とにやっと笑って言ってみた。
「とにかく綱ちゃんがマフィアの十代目って本当なんだね。ファミリーに入れてもらったって事は綱ちゃんはボスか」
私の言葉と表情を見て、慌てて綱ちゃんは言う。
「俺マフィアのボスになるつもりなんて絶対にないからっ !! みんなとは普通に友達でいたいだけだからっ !! 」
必死に弁解する綱ちゃんの姿が見ていて割と面白い。どうやら言われた事なんでも真に受けるタイプなんだなぁ……。
「将来の職業は『マフィア』か。楽しみにしてるねボス」
「だーかーらーー !! 」
顔を真っ赤にする綱ちゃんの事を笑って見ていたら、たけちゃんに呼ばれた。
「音羽部活行くぞ――」
「うん」
カバンを拾ったたけちゃんは笑顔でこう言うのだった。
「しっかしさっきの爆発といい最近のオモチャってリアルな~~」
「たけちゃん馬鹿でしょ」
さらっと言ってやると、たけちゃんは何でだと言わんばかりの表情をしているのだった。
(2022,4,22加筆修正 飛原櫻)