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問題10 攘夷浪士

 

 

「優姫ちゃーん?」

 先程まで庭先でシンと遊んでいた筈の優姫の姿が何処にも無く、菊は探しているのだった。

「今から買い物にでも行こうかと思ったのに何処に行っちゃったのかしら……?」

 ふと裏門が小さく開いているのを見て菊はパタパタと裏門へ行った。

「また裏門から外に出ちゃったのかしら?」

 ひょこっと顔を出して裏道を見ると菊は自分の目を疑った。


 優姫が高杉晋助と共に歩いている。物凄く嬉しそうな表情をして手を繋ぎ合って。
 その頭の上に乗っているシンもおとなしくしているのだった。


「…………優姫ちゃん……?」


「美味しい――!」

 みたらし団子を頬張りながら優姫は嬉しそうに言っていた。その隣には静かに晋助が団子を食べているのだった。

「はい、シンにもあげる――」

 すっと差し出されたみたらし団子をシンはくちゃくちゃと美味しそうに食べ出した。蜜が口周りに付いてベタベタになっていたが、味が気に入ったらしく気にしていない様だ。

「真選組の奴等はどーだ?」

 さりげなく晋助が尋ねると、優姫はぱたぱたと腕を動かしながら言う。

「えっとね、近藤にーちゃんはシスコンで、土方にーちゃんはマヨネーズばっかり食べててね、総悟はいつも土方にーちゃんの事ばっかり狙ってて、退にーちゃんはミントンばっかりやってるの !! 」
「ほーほーそりゃあ騒がしそうだなァ」

 晋助がそう言うと優姫はにこっと微笑んで言う。

「うん、でもみんな優しいの」

 へにょっと微笑んでいる優姫に高杉はもやっとするのだった。この感情を言葉で表すのならばおそらく…………嫉妬。
 利用するだけの存在であった。それ以下でもそれ以上でも何でもない筈だった。
 しかしまた子から言われた事から無意識にの元へ来てしまったのだ。


『真選組の局長近藤と副長土方と一番隊隊長沖田が優姫の事を溺愛しているみたいっス』


 真意は分からない。実際に今日来てみれば屯所には優姫一人しかいなかったのだから。当人は真選組に非常に懐いているらしい。
 まあ優姫の性格から考え懐く事など分かりきっていた事なのだが。分かっていた事なのだが、………無性に気に入らないのだ。

「お団子美味しいね――」

 シンに向かってそう話しかけている優姫の声を聞き、晋助は現実に引き戻された。
 相変わらず優姫は嬉しそうな表情で笑っているのだった。

「なァ……」
「なァに?」

 もし今すぐに戻って来いと言ったら戻ってくるのだろうか。そんな事を思いに話しかけた瞬間、あ、と何かを指さして優姫が言った。

「ヅラにーちゃん!」

 優姫の指さす方向には桂の姿があり、こちらを見てかなり驚いた表情でいる。

「優姫殿?」
「やっぱりヅラにーちゃんだ!」

 そう言って嬉しそうに桂の元へ走っていく優姫の姿を見ながらその後を晋助も行く。

「よォヅラ、久しぶりじゃねーか」
「ヅラじゃない、桂だ」

 笠を上げながら言った桂は自分にしがみついている優姫の事を見て言うのだった。

「それよりも何故優姫殿とお前が一緒にいるんだ?彼女は真選組の娘だぞ」
「ソイツはァ俺の姫だ」

 クク、と笑いながら言った晋助の言葉に桂はすぐに理解したのか驚いた表情で言う。

「優姫殿も攘夷浪士だと言うのか?全くその様には見えないが……」
「まァコイツはちょい特殊だからなァ……」

 ぐりぐりと頭を撫でて言うと優姫が不思議そうに顔を上げて言った。

「晋助とヅラにーちゃんお友達なの?」
「ヅラではない、桂だ」

 桂にそう言われ、優姫は少し考えてから答えた。

「桂にーちゃん?」
「そうだ」

 優姫が自分の名前を『ヅラ』から『桂』へと変わった事を満足していると、晋助が答えるのだった。

「友達っつー訳じゃねェな、腐れ縁だ腐れ縁」
「むぅ」

 腕を組んで考え込む優姫をおいておき、桂は晋助に向かって話す。

「何も理解していない優姫殿を利用して何を企んでいる」
「オイオイんな言い方ねェんじゃねーか?なんだお前もコイツに弱いのか」

 未だう~ん、う~んと悩んでいる優姫を見てから桂を見た。

「優姫殿は攘夷をする人間には向かない」
「んな事分かってるに決まってるだろうが」

 はっきりと言い切った晋助に桂は驚きを隠せないのだった。

「出来る事ならこのまま連れて帰りてェくらいだぜ」
「高杉……お前……」

 まさか高杉が優姫の事を懸想しているとは信じがたく、桂は驚いた表情でいた。するとポンと手を叩いて納得したらしい優姫がにぱっと笑顔で二人に言うのだった。

「腐れ縁ってお友達って事なんだね」

 まだその事を考えていたのか、そう思い晋助は笑いを堪えていた。

「え――違うの―― ?? 」

 晋助の袖を掴んで何度も尋ねていて晋助はクク、と笑いを堪えながらも笑っていた。

「桂にーちゃん違うの―― ?? 」

 じっと見上げてくる優姫に桂は笑顔を作って言った。

「まあ間違ってはいないな」
「やっぱりお友達じゃん――――!」

 桂の返事を聞くなり怒った表情で晋助に話しかけている優姫を見て桂はぼそっと言った。

「君のその無邪気さは、時として残酷だな」
「ふえ?」

 急に言われが首を傾げていると高杉もクク、と笑って言うのだった。

「かなり残酷だぜ、純粋過ぎてなァ」

 何を言っているのか全く理解出来ずに首を傾げている優姫の頭を乱暴に晋助は撫でていた。

「まァ取りあえず少しの間黙って見てろや」

 優姫の肩に手を回すと晋助は歩き出す。

「もう行くの?」
「あァ」

 晋助がそう一言言うと優姫は笑顔で桂に向かって手を振るのだった。

「桂にーちゃんまたね」

 手を振るとすぐに晋助の方を見て優姫は嬉しそうに微笑んでいた。そんな姿を見て桂は小さく漏らすのだった。

「……その無邪気さがあまりにも残酷過ぎるな……。何も知らずに利用されていて……」

 出来る事なら晋助の元から連れ出し、銀時の所にでも匿ってやりたいと桂は思った。取りあえず近い内に銀時の元に相談しに行った方が良いと桂は思った。

「次は何時来てくれるの?」

 屯所裏口まで送ってもらい優姫はへにゃっと笑顔で尋ねるのだった。

「まァ気が向いたらだな」
「……そっか………」

 晋助の返事に寂しそうに答える優姫を見て思った事を晋助は口にした。

「なんか遭ったか?」
「う?何も無いよ ?? 」

 首を傾げた優姫はいつもの状態に戻っていて晋助は黙って見下ろした。じーっと見つめている優姫の頭を優しく撫でてやると晋助は屯所を去って行った。

「いっぱい遊んだね、シン」

 足下にいるシンに話しかけると優姫は何事も無かった様に屯所内へ戻って行くのだった。





「あの……土方さん」

 夜遅く、優姫とシンが寝付き一息ついていると静かに襖が開いた。

「ん?なんだお菊さん、どうしたんだこんな時間に」

 自分の着物の裾を掴んで気持ちよさそうに眠っている優姫の頭を撫でながら言うと、菊は何か戸惑った表情でいるのだ。

「あの………優姫ちゃんの事なんですけれど」
「コイツがどうかしたのか?」

 十四郎に言われ菊は今日見た光景を思い出す。


 攘夷浪士であり最も危険だと言われ指名手配されている高杉晋助。その晋助と共に歩いていた優姫。
 考えられる事は一つしか無かった。

 優姫は攘夷浪士である、と言う事……。

 しかしあまりにも幸せそうに眠っている優姫の事を見ると、今日見た事は夢だったのかもしれないと菊は思って首を横に振った。

(こんなに良い子が攘夷浪士の筈ないわね)

 そう自分を納得させると菊は笑顔で言った。

「いえ、やっぱりなんでもないです」
「そうか?またコイツが無茶したりしてたりしてるんじゃねーんだろうな?」

 愛おしそうに優姫の事を見て言う十四郎に菊は笑顔で答えた。

「大丈夫ですよ。最近は屯所の仕事も手伝ってくれますし良い子ですよ優姫ちゃんは」
「そうか、なら良いんだがな」

 灰皿に煙草を押しつける十四郎の姿を見てから菊は頭を下げて言った。

「お休み前に本当に失礼しました」

 さっと障子を閉めてから立ち上がった菊は昼間の事が頭から離れないのだった。

「優姫ちゃんが攘夷浪士……そんな訳ないわよね」

 菊は絶対に違って欲しいと願い縁側を歩いていった。
(2006,10,8 飛原櫻)

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