疎との鳥 籠の禽
問題13 江戸城パニックぱすにっく
「お姫様?」
近藤と二人縁側で茶菓子を食べているといきなり話をされたのだった。
「将軍様には妹姫様がいてな、将軍様と同じくらい大切な方なんだよ」
近藤が指さす江戸城を優姫はじーっと見て呟いた。
「……お姫様……」
江戸のトラブル娘
第13話 江戸城パニックぱすにっく
「今日は将軍様の警護の為将軍様をお迎えに江戸城まで向かう。将軍様に何か遭ったら俺達の首が飛ぶから覚悟しておけよ」
会議室の前で近藤の説明を聞いた優姫は何か思いついたらしく足早に走って行くのだった。
◆
「……お城ひろーい」
江戸城内に入った優姫は笑顔でそう言った。ぽてぽてと廊下を一人歩いているとばったり出逢った女中が優姫の姿を見て大声で叫んだ。
「侵入者ァァァァァァ !!!! 」
「大変、見つかっちゃった !! 」
優姫はシンを抱きかかえて足早に走って行った。
「侵入者を捜せ!将軍様とそよ姫様の所へ急げ !! 」
近藤の指示で隊士達がバタバタと江戸城内を走り回っている。場所が場所であり、緊迫した空気が続いている。
「で、侵入者の外見は?」
土方に尋ねられると女中ははっきりと答えた。
「見た事も無いもふもふって感じの動物連れた小さな女の子です」
「「「 ………… 」」」
その一言に近藤達は固まる。
そんな外見に当てはまる少女が一人だけ身近にいるのだから。
「…………優姫……?」
ダラダラと冷や汗を流しながら近藤は言った。
「まさか優姫ちゃんが此処にいる訳ないじゃん。彼女ちゃんと屯所に残して……」
するとこちらに向かってバタバタと走ってきた山崎が慌てて言ったのだ。
「局長!どうやら優姫ちゃん江戸城に侵入したみたいです !! 目撃者がいました!」
「あの馬鹿娘がァァァァァァァァ !!!! 」
江戸城内に十四郎の怒鳴り声が響くのだった。
◆
「えっとえっと……」
パタパタと足早に走る優姫は目的の部屋を一生懸命に探していた。
「何処にいるのかなぁ……お姫様」
そう言っていると前後からバタバタと人が走る音が聞こえ、逃げ場の無い優姫は慌てふためいた。
「わぁたいへっ…… !? 」
すると右側の襖がすっと開き、優姫は引き込まれた。
バタバタと走って行く音が遠ざかると後ろからふんわりとした声がする。
「大丈夫ですか?」
「う――?」
くるっと振り返ると高そうな着物と簪を挿している少女が一人座っているのだった。にこっと微笑んでいる少女に優姫はにぱっと答えた。
「うん、有り難う」
にこにことしていると腕の中にいたシンがぴょんと腕の中から飛び出し、少女の周りをぐるぐると走り回る。
「まあとても可愛らしい子ですね」
優しくシンの頭を撫でながら少女は優姫に笑顔で尋ねてきた。
「侵入者さんが出たと聞いていましたがどうして侵入をしたのですか?」
すると当たり前の様に優姫は笑顔で答えたのだった。
「あのね、私そよ姫様に会いに来たのー」
すると少女は驚いた顔をしながらにこっと微笑んで自己紹介をしてきた。
「まあそうでしたの?私がそよです」
そう言われ優姫は笑顔で尋ねるのだった。
「おねーちゃんがそよ姫様――?」
「はい」
にこっと返事をしたそよに優姫も嬉しそうに微笑んだ。
◆
「どうして私に会いに来たのですか?」
そよ姫に尋ねられ、優姫はシンを膝の上に乗せつつ答えるのだった。
「えっとね、今日近藤にーちゃんに聞いたのだけど将軍様には妹姫様がいるって聞いたの」
「はい、私の兄は将軍です」
「でねでね、将軍様もそよ姫様もずっとお城にいて外に行けないって聞いたの」
そう優姫が言うとそよは寂しそうな表情で頷いて言う。
「はい、私も兄も城下へ行ける事はほとんどありません」
「だからね」
「だから?」
不思議そうに優姫の事を見てくるそよににこっと微笑んで言ったのだった。
「だから遊びに来たの」
◆
「優姫さんはここで待っていて下さい。今兄の周りを見てきます」
「うん」
こそこそと将軍がいる所まで移動した二人は、周りに気付かれない様にこそこそと会話をしていた。
「侵入者騒ぎできっと兄の周りにはたくさんの人がいると思います。私が何とか兄を連れ出してみます」
「そよ姫様頑張れ――」
優姫に応援され、そよはにこっと微笑んで将軍の所へ向かって行った。
「シン、今将軍様が来るんだってー」
ぐしゃぐしゃっと頭を撫でてやるとシンは不思議そうにキューと鳴く。暫くするとそよ姫と共に一人の男性がやってきた。
「兄様、彼女が優姫さんです」
やんわりとそよが紹介すると優姫は笑顔でぺこっとお辞儀をして言う。
「将軍様初めまして。えっとね、遊びに来ました――」
にぱっと微笑むと将軍は気の抜けた表情で言った。
「これはまた小さな侵入者だな。片栗粉達に説明してきた方が良いのか?」
「そんな事をしたら優姫さんが捕まってしまいます。このまま優姫さんの事を隠したまま移動しましょう」
そう言ったそよに将軍は静かに頷き、こそこそと移動するのだった。
「将軍様の自己紹介ながーい!」
将軍の自己紹介を聞き、優姫は尊敬の眼差しで言っていた。
「そんなに長いの覚えるの大変じゃないの――?」
「そんな事はない」
そう言うと将軍は一息で言う。
「征夷大将軍徳川茂茂」
「凄い凄い――!」
パチパチと手を叩いて言うのだから将軍も嬉しくて仕方ないらしく、何度も何度も言っていた。そんな二人のやりとりを見てそよは嬉しそうに微笑むのだった。
楽しい。
それは今の状況の事を言うのだろう。そう思ったからだ。
こんなに楽しいと思う状況が久しぶりで、それで初めての様な感覚もあるから。少しでも長くこの空気が続いて欲しい、そう願うのだった。
「優姫は片栗虎に会った事がないのか」
将軍に尋ねられ、優姫は人差し指を顎もとに当てながら答えた。
「ん――えっと片栗粉さんは近藤にーちゃん達よりも偉い人で、近藤にーちゃん達の上司の人だよね?うん、名前だけ聞いた事あるよ」
「片栗虎は良い奴だ、今度優姫も会ってみると良い」
優しく頭を撫でられ、優姫は嬉しそうな表情でいる。
そんな優姫の表情に釣られてそよも将軍も微笑んでいるとバン!と大きな音と共に襖が開いた。