疎との鳥 籠の禽
問題13 江戸城パニックぱすにっく
「「「 あ 」」」
其処には怒りのオーラがあふれ出ている十四郎の姿があった。
「お~ま~え~は~ァ~」
「わ――見つかっちゃった!怒られちゃう !! 」
わたわたと慌て逃げると怒りを爆発させた十四郎が怒鳴り追うのだった。
「この馬鹿娘がァァァァ !! テメェ何処に来てるだァァァ !! 」
「土方にーちゃんが虐めるゥゥゥゥ !! 」
「怒るに決まってるだろうがァ !! 」
ばたばたとそよと将軍の周りをグルグルと走り逃げていると、その後から近藤と総悟がやってきた。
「俺達のお姫様やっと見つかりましたねィ」
「優姫ちゃん駄目だよこんな所に来たら !! 」
そう近藤が言うのとほぼ同時に一人の男性が入ってきて言った。
「その嬢ちゃんが侵入者なんだな。一応捕らえろオメー等」
その一言に近藤は蒼い顔をしながら慌てて言う。
「いやちょっととっつァん待ってくれよ !! 」
「誰であろうが江戸城に侵入した奴に変わりねェだろうが。大人しくその嬢ちゃんを……」
男性が其処まで言った所、優姫の事を庇う様に将軍が立っていたのだった。
「将ちゃん何してんだ?」
「片栗虎、彼女は余とそよの友人だ。侵入者では無い」
「…………」
「松平さん。どうか優姫さんを見逃しては頂けませんか?」
後に続く様にそよがそう言ってきた為、松平は頭をガリガリと掻いてから十四郎の後ろで怯え隠れていた優姫の頭を乱暴に撫でて言う。
「話に聞いていた以上の存在の様だな」
「?」
言っている意味が分からないらしく優姫がじーっと見ていた。その姿を横目に松平は慣れた手つきで言うのだった。
「おい侵入者は気の所為だったと伝えておきやがれ」
「とっつァん……」
松平の行動に近藤が安堵していると苦笑いで言う。
「将ちゃんにもそよちゃんにも言われたらさすがに捕らえる訳にはいかねェだろう」
「片栗虎、助かる」
そう言った将軍に松平は手を振りながら言い返した。
「なになに、俺と将ちゃんの仲だろうが」
「優姫さん」
まだ怯えているらしく十四郎から離れずにいる優姫の元にやってきたそよは言った。
「彼が先程話していた松平片栗虎さんです」
「この人が?」
「ええ」
にこっと微笑んだそよに安心したらしく、優姫は視線を松平の方に移した。
松平はオールバックに無精髭、サングラスをしている中年の男性だった。
「嬢ちゃんが近藤達がよく話す『優姫』ちゃんだな」
「うん」
安心はしたのだが警戒心は解けていないらしく、優姫が十四郎から離れる様子は全く見られないのだった。
そんな様子を見て松平は頭をぼりぼり掻きながら困った表情で言う。
「オジサン嫌われちゃったみたいだなァ」
「そりゃあいきなり逮捕する、みたいな事言われればさすがの優姫だって怯えるに決まってますさァ」
すたすたっと優姫の元に来ながら言った総悟に松平は言う。
「んな事言ってもなァ俺には俺の立場があるだろうが。お前等全員切腹させるぞ」
「遠慮しますさァ」
きっぱりと断った総悟から近藤に視線を変え、松平は言った。
「まあ取りあえず今回は見逃してやるが次はねェと思えよな」
「恩に着るぜとっつァん」
「それと妹の面倒はちゃんと見ろよな」
「分かってるって」
へらへらと答えた近藤の事を優姫はじーっと眺めるのだった。
◆
侵入者でなくなった事からゆっくりと将軍とそよと楽しそうに優姫は話をしているのだった。騒ぎが一段落し、十四郎も総悟も一息ついている中、松平は近藤の元に来て周りに気付かれない様に言う。
「近藤。アレが『例』の子なんだろう?」
優姫の事を見て言った松平に近藤は頷いた。
「ああ」
「見た感じは普通の女の子でしかねェな」
「俺はいつも一緒にいるんだ。優姫ちゃんは本当に何処にでもいる普通の子だよ」
にこにこと楽しそうに笑っている優姫の事をじーっと見て、松平は真顔になって言い切る。
「あの子が攘夷浪士との関わりが疑念されてる」
「…………ああ」
先日優姫が攘夷浪士である高杉晋助と一緒にいたと言う情報が近藤のみに伝えられていた。証拠写真もなく、真意は分からない。
それに何よりも優姫が攘夷浪士であると言う事を信じたくなかったのだ。
「優姫ちゃんは優姫ちゃん。それ以上でもそれ以下でもねーよ。俺は優姫ちゃんの事を信じたい」
腕を組んでそう言うと近藤も優姫の元へ向かっていき、松平は溜息をついてからぼそっと呟いた。
「……危ねェのは攘夷浪士である事じゃねェんだよ、近藤」
にこにこと楽しそうに微笑んでいる優姫の事を見、松平は困った様に言った。
「幕府が優姫ちゃんの事、目ェ付けてるんだよ……」
何も知らず、優姫は今も笑顔でいるのだった。
(2007,1,6 飛原櫻)