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問題2
煙草よりもチュッパチャップス食べて

 

 

「日直……どうしようかなぁ……」

 優姫は真っ逆さまに落ちながら、未だ日直の事を考えていた。


 


江戸のトラブル娘
問題2 煙草よりもチュッパチャップス食べて

 



「はぁ…………日直」

 サボったら先生にも貴史にも怒られてしまう。下手したら明日もまた日直になってしまうかもしれない。
 優姫はそんな事ばかりを気にして落ちているのだ。


 黒いのに飲み込まれた次の瞬間、優姫はお空の高い所にいた。
 人間である優姫が空を飛べる筈がなく、重力に従いこうして地面に向かって真っ逆さまに落ちているのだった。


「おじいちゃーん、おばーちゃーん!日直サボっちゃったよ」

 すっかり綺麗さっぱり記憶から忘れていた日直だったのだが、思い出してしまったからにはしっかりと仕事をやりたかったらしく、優姫は未だに日直の事を考えているのだ。

「あ、そろそろ地面だ」

 段々と地面が近づいてきたにも関わらず、優姫は焦る事なくのんびりと言った。
 死んでしまう、と言う危機感よりも日直をサボって怒られてしまうと言う方が優姫にとって重要らしく、墜落後の事は全く考えてないようだ。

「チュッパチャップス落とさない様にしないと」

 優姫はぎゅっと袋を握りしめて墜落した。

「ぐぁっ !? 」

 ドーン、と言うけたたましい音と一緒に誰かが悶え苦しむ声が聞こえる。

「……あれ――?あんまり痛くない」

 あれだけの高さから墜落したにもかかわらず、思った以上に痛みを感じず、優姫は不思議そうに目を開けた。


 其処は小さな雑木林の様で、木の枝が墜落の衝撃を和らげるクッションになったらしい。と、言っても地面に墜落したときに全く痛く無かったに近かった。


「ん――地面が柔らかい ?? 」

 自分の真下の地面を押してみるとふにっと柔らかく暖かかった。
 と、次の瞬間。

「誰だテメェ」

 と、同時にいきなり目の前に刃物が出てきたのだった。優姫はその刃物をじーっと見てから顔を上げた。
 そこには顔に包帯を巻いている目つきの恐い青年がいた。

「…………」

 青年と刃物を見合わせてから優姫は叫んで言うのだった。

「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!地面から人が出てきたァァァァ― !! 」
「誰が出てくるか!テメェが人の上に乗ってきたんだろうがァ― !」

 ぐわっと怒鳴って言われ、優姫は少し考えてから言う。

「そうなの?」
「『そうなの?』じゃねぇ。つーかなんなんだテメェは」

 相変わらず刃物を突きつけた状態で言う青年を見て、今度は刃物を見て優姫は黙り込む。

「あ?なんだ刀に怖じけ付いたの……」

 か?、と言い切る前に優姫がやった行動に青年は目を見開いた。優姫が突然刃先に人差し指を当てたと思ったら、そのまま横に動かしたのだ。
 途端ぷつ、と指先が切れ血がダラダラと流れ出た。

「お……おい……?」

 いきなりの行動に目を丸くしながら声を掛けた瞬間、優姫が涙目で叫んだ。

「痛いィィィィィ !! 」
「当たり前だろう !何してんだテメェ!」
「だってぇ……玩具かと思ったんだもん」

 えぐえぐと泣きながら見上げて言う優姫に、青年は呆れ顔で刀をしまって言った。

「ほれ貸せ」
「?」

 ひょいっと優姫の手を取ると青年は当たり前の様に人差し指を咥えた。

「舐めとけば勝手になお……」
「私の指食べたァァァァァァァァァ !! 」
「アホかァァァァァァ!」

 青年はぐわっと怒鳴りつけるのだった。





「えっとバンソコ、バンソコ」

 数分後やっと落ちついた優姫は自分のカバンの中を漁りながら言う。

「確かカバンの中におねーちゃんが『キューキューセット』入れてくれた筈」

 がさがさとカバンを漁りながら独り言を言う優姫の事を、未だ膝の上に乗せたまま青年は黙って見ていた。
 警戒心ゼロの異質な存在である少女だ、と思いながら。

「あった――!アンパン○ンのポーチ!」

 優姫はでかでかとアンパン○ンの絵がプリントされているポーチを目を輝かせながら取り出して言った。

「あんぱ……?」

 言っている意味が分からず見入る様に見ている青年を他所に、優姫はポーチを開けてバンソコを取り出すと言った。

「じゃーん!ドラ○もんのバンソコー」

 ドラ○もんのプリントがしてあるバンソコをぺたっと指に貼り付け、優姫は満足そうな表情をするのだった。

「他に何入ってんだ?」

 ひょいっと優姫の手からポーチを取ると優姫はぱたぱたと暴れながら言う。

「わーん、ドロボー!」
「こんな訳の分からないもんいるか、中見るだけだ」

 青年はそう言いながらポーチの中身を漁っていてとあるモノを見つけてびしっ、と固まった。

「?」

 そんな青年の事を黙って見上げていると青年は何かを取り出して言う。

「お前……これは……」
「んー?」

 優姫は青年の持っているモノを見て首をかしげて言った。

「何それ」
「何それってコンド……ゲフゲフッ !! 」

 一人咳払いをした青年を見て優姫は思い出した様に言った。

「あ、おねーちゃんがね『世の中物騒で何があるか分からないから、これは常に持っていきなさい』って言ってくれたのだ」

 にこにこと全く悪気無く言い切った優姫に青年は呆れ顔で呟く。

「……どんな姉だ」


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