疎との鳥 籠の禽
問題2
煙草よりもチュッパチャップス食べて
「俺はもう行くからな」
すくっと立ち上がって歩いていく青年の後を優姫は急いで追いかけた。
「何だ……」
いきなりついてきた優姫に青筋を立てながら見下ろすと、にこにことした表情で言うのだった。
「おにーちゃん何処行くの?」
「ア?何処に行こうが俺の勝手だろうが」
そう言って歩幅を早くすると優姫は慌てて早足になって付いてきた。
「あのね、私日直だから学校帰らないといけないの」
「だったらさっさと帰れ」
冷たく言い放つとしゅん、とした声色の返事が返ってくるのだ。
「でも此処何処か分からない……だからお家にも帰れな……」
うぇ、と小さい泣き声を聞き、青年は慌てて言う。
「おい、泣くな。死んでも泣くな。誰かに気付かれたら面倒だろうが」
「……だって……だって……日直…………」
今にも大声で泣き出しそうな優姫を急いで脇に抱えると、青年は猛ダッシュするのだった。
◆
「此処何?」
数十分後、今にも崩れ去りそうなあばら屋へ連れて来られ、優姫はきょろきょろと見回すと再び涙目で言った。
「学校じゃな……」
「泣くなって言って……」
「晋助様!その子供は一体……」
「あ?」
「う?」
急に女性の声が聞こえ優姫は抱きかかえられたまま奥の方を見た。
「わ――綺麗な人だー。おにーちゃんの恋人?」
へらっと悪気無く尋ねると女性は顔をぼん、と赤くして言うのだった。
「えっ……えぇ !? 」
「ちげーよ、仲間だ」
きっぱりと否定した晋助に優姫は言った。
「違うの?おにーちゃん格好いいからモテそうなのに」
にこ、と言った途端晋助はぼろっと優姫を落とした。
いきなりの事に何の対処も取れずべしゃっと地面に激突した優姫は鼻を押さえながら言う。
「びこ………鼻骨から何か生まれる !! 」
「生まれるかァ!」
ぐわっとツッコミを入れた晋助の声に奥から続々と人が出てくるのだった。
「高杉様、一体どうしましたか !? 」
「あのクールな高杉様がツッコミなど……」
「おい、また子。あの子供は……」
皆鼻を押さえながら悶え苦しんでいる優姫を見て、不思議そうにまた子を見た。
「いや私も今見たばっかりで……。晋助様が脇に抱えて連れて帰ってきたみたいっスけれど……」
「拾った」
「「「「「「 拾ったァ !? 」」」」」」
我を取り戻したのか煙管をくわえながら言った晋助に皆大声を出した。
「拾ったって晋助様っ !? 」
「空から降ってきて後付いてきたから連れて帰ってきただけだ」
ぷかー、と煙を吹き出しながら落ちついた表情で言う晋助に皆困りながら言う。
「しかしとてもじゃないですが戦力になるとは…………」
「それに変な服来ていますし……」
「俺が拾って来た言ってるんだ。文句ある奴ァ出てこい」
ぎらっと殺気だった目で言われ皆が黙った頃、顔面激突の痛みが治まった優姫が晋助の事をじーっと見上げているのだった。
「……なんだ」
口から煙を吹き出した瞬間、優姫は慌ててカバンの中を漁り出す。
「今度は何を出すつもりだ……?」
晋助は顎下の方でちらちらと動くモノを見て言った。
「何だそれは?」
「チュッパチャップス !! 」
「ちゅっぱ……?」
優姫は一生懸命に背伸びをしながら言うのだった。
「煙草は身体に悪いから吸っちゃいけない、っておじーちゃんが言ってたんだよ!お口淋しいのならこれあげる」
晋助は神妙な顔でチュッパチャップスを受け取るとギロっと優姫を見下ろす。
「あああああの子……あんな事して高杉様に殺され……」
「なんて命知らずな……」
奥の方で怯えながら様子を伺っている人達の事など全く気にせず、優姫は晋助の事を見上げている。
本当なら今すぐにでも切り捨ててやりたかった。
が、見上げてくる優姫を顔を見てそれが出来なかった。
優姫はあり得ない程期待いっぱいの眼差しで自分の事を見上げているのだ。
「………………」
晋助は未だ煙を出している煙管とチュッパチャップス、そして今か今かと期待の眼差しを向けている優姫を見比べ、ガリガリと頭を掻いてから煙管の中身を地面に捨てるのだった。
その行動に皆目を見開き、何も言えなかった。
あの晋助があんな小さな子供の言う事を聞いている、あり得ない。
そんな視線を無視し、晋助はチュッパチャップスの袋を取ってから優姫をちらっと見るのだった。
「それ飴だよ、コーラ味。いっぱい買ってもらったから一つあげる」
もう一度にこっと微笑んだ優姫を見て、チュッパチャップスを咥えた晋助は肩に手を回すと言った。
「良いモン見せてやるから付いてこい」
◆