疎との鳥 籠の禽
問題4
江戸って京都?
「みんなに紹介する。今日からここに住む事になった優姫ちゃんだ」
ぽん、と背中を叩きながら紹介されているのだが、優姫はぽかーんと目を丸くするのだった。
何故か皆食い入る様に見てくるからだ。
江戸のトラブル娘
問題4 江戸って京都?
「えと…………優姫です。よろしく……お願いします?」
疑問系で挨拶をした所、歓声が沸き上がるのだった。
「女の子――!」
「若い!」
「可愛い!」
「小さい!」
口々にガッツポーズをしながら喜んでいる人達に優姫は目を丸くする。
「お前等喜ぶのは別に良いけど手出したら怒るからな」
近藤がそう言うとブーイングの嵐が起きた。
「局長ばっかり一緒にいてずるいっすよ!」
「そ―そ―!俺達だって色々話したりしたいですよ」
「盛り真っ盛りのお前等に可愛い――――優姫ちゃんを近づける訳ないだ折るがァ――!」
ぎゃーぎゃーと口論を始めだし、優姫がぽかーんと見ていると何事もない様に座っていた総悟が手招きをしてくる。
どうすればいいか分からなかったし丁度良かったので優姫は総悟の隣にすとん、と座った。
「まァむさ苦しい男集団ですからねェ。優姫みたいなァ女の子がいるなんて天国なんでィ」
「ほへぇ」
「取り合えず歓迎するからゆっくりすると良いですぜェ」
他人事の様にへらへらと言った総悟を優姫はじ―っと見ていた。
そんな優姫の視線に気付いたのか総悟は笑顔で尋ねた。
「どうかしましたかィ?俺に惚れたとか」
「ん――っとね、土方にーちゃんと追いかけっこするのって楽しい?」
今日の昼間の事を尋ねてこられ、総悟は頬を掻きながら言った。
「まァ楽しいって言えば楽しいですねェ」
近藤の暴走を一人止めようとしている十四郎を見ながら総悟は言った。
「土方さんはからかうと楽しいですからねェ」
其処まで話すと優姫が総悟の隣に座っていたのに気が付いた十四郎が言う。
「テメェどさくさに紛れて何ちゃっかりしてるんだよ」
「土方さんがァマヨネーズ臭いから優姫嫌になったんですってェ」
にやにやと言った総悟に十四郎は腰に下げている刀を掴んで叫んだ。
「よぉし外出ろ総悟ォォォォォォォォ!」
「嫌ですよ、今ァ優姫と話してて忙しいですからァ」
どさくさに紛れて優姫の肩に手を回して言う総悟と、青筋を立てて怒りを堪えている十四郎を見て優姫は答えた。
「土方に―ちゃんも沖田に―ちゃんと一緒にお話しようよ」
にっこりと笑顔で言われ、耳まで真っ赤にして固まっている十四郎を驚いた表情で見ていた総悟だったが、話しかけて隣にいる優姫の事を見た。
「いいよね?沖田にーちゃん」
にぱ―、っと目を輝かせて少しだけ首を傾げている優姫の姿を見て総悟は胸が高鳴るのだった。
微かだが頬を赤くしている総悟を見て、十四郎は気に入らんと言わんばかりに優姫の腕を掴んで自分の膝の上に座らせた。
「土方に―ちゃん?」
急にどうしたのだろう?と見上げると更に不機嫌だと言う表情で総悟の事を睨んでいる十四郎の姿が目に入った。
「土方さん一人占めってのはずるいんじゃないですかァ?」
まるで優姫は自分のモノだ、と言わんばかりのその行動が総悟はかなり気にくわなかった。
「俺はこいつの監視をしてるんだから何したって俺の勝手だろうが」
勝手に火花を飛ばし出した二人を見比べて優姫は困ってしまうのだった。
◆
「あ、そうそう」
やっと騒ぎも落ちついて夕飯を食べ出していると総悟は思い出した様に優姫に言う。
「わざわざおに―ちゃんって呼ぶ必要無いですからさァ、俺の事は気軽に総悟って呼べば良いですぜェ」
「そ―ご?」
首を傾げて言う優姫の頭をぐしぐしと撫でながら総悟は満足そうに言った。
「そうですぜェ。俺の事はこれから総悟って呼んでくだせェ」
「うん、総悟」
にっこりと答えた優姫を見て総悟は口元を押さえて悶えた。
(あり得ない位可愛すぎ……土方さんと一緒にいるなんて不釣り合い過ぎですぜェ)
総悟の動きを不思議そうに眺めている優姫を見て十四郎は気にくわない思いつつ、持ってきたマヨネーズを勢いよくどんぶりにかけだした。
そのマヨネーズの多さに優姫は興味津々に言うのだった。
「うわ――すご―い」
もはや何丼だったのか分からない位のどんぶりを見て、これ以上無い位興味心丸出しでいる優姫を見つつ、むしゃむしゃと食べながら言う。
「お前も食うか?土方スペシャル」
先ほど聞いていた土方スペシャルを目の当たりにして優姫は笑顔で答えた。
「これが土方スペシャル――?食べる食べる !! 」
尻尾でも生えていれば引きちぎれんばかりに振っていそうな優姫の反応を見て、十四郎は勝ち誇った顔で総悟の事を見た。
総悟はその視線にすぐ気付き、ムッとしながら優姫に話しかけてみた。
「優姫、んなモノ食ったらァ腹壊しますぜェ」
「大丈夫、一口だけだから」
にっこりと何も知らずに笑顔を向け、総悟はその笑顔にノックアウトした。
「総悟―?」
変な動きばっかりしている総悟の事を呼ぶと、ずぃっと目の前にどんぶりと箸が出てくるのだった。
「ほれ、一口だけだからな」
ひょい、っと箸でご飯を取ると十四郎は当たり前の様に優姫の口元に持っていった。
「は―い」
優姫の方も全く気にする事もなく、出された物をパクっと食べる。
むぐむぐとしっかりと噛んで食べている優姫の事を後ろから覗き込む様に十四郎は尋ねた。
「どーだ、美味いか?」
「ん――」
しっかりと噛んで飲み込むとにっこりと笑顔で答えた。
「マヨネーズの味しかしなかった!」
にぱっと笑顔で見上げてきた優姫に十四郎も悶えた。
(あ――やべっ…………無茶苦茶可愛いし)
十四郎も総悟も悶え震えていて優姫はきょろきょろと見合わせて首を傾げながら言った。
「変なの」
◆