疎との鳥 籠の禽
問題4
江戸って京都?
喜ぶべきなのか悲しむべきなのか微妙な心境のまま、何とか自分を落ちつかせながら顔を上げて言った。
「……近藤さん何か用か?」
「いや、だから湿布を持って来たんだけど……お前大丈夫か?」
誰が見てもおかしいとしか言えない十四郎の状態に、近藤は見入る様に見てきたので何でもない、と言い切るしかなかった。
「まあとにかく……優姫ちゃん、ほれ湿布」
近藤は持ってきた救急箱から湿布を取り出すとぺた、っと張ってやると満足げに言った。
「よし、これでよし。後な」
「「 ? 」」
どう見ても優姫と自分は一回り近く歳が離れている。
ごそごそと懐を漁っている近藤を見入る様に見ると、得意げに紙切れを一枚手渡してくるのだった。
「これなぁに?」
紙を見てもピンとこないらしい優姫の手から紙を取って読むと十四郎は顔を上げて言った。
「こいつの戸籍……?」
「私の戸籍?」
自分の事を指さして尋ねると近藤は自信満々に答えた。
「優姫ちゃんは一応孤児扱いで戸籍申請に行ってきたんだよ。身元引き取り人は俺な」
親族の部分を見ると近藤勇、と書かれていてその隣には義兄と書かれているのだった。
「これで正式な兄妹だよ優姫ちゃ――ん!」
「近藤に―ちゃん!」
ぱぁ、っと両手を広げてきた近藤の腕の中にすぽっと入ってまた二人の世界が出来た。
十四郎はその光景に呆れながらも高鳴る鼓動を必死に落ちつかせていた。
(マジで近藤さん来てなかったらヤバかったな……)
えへへ――、と上機嫌で笑っている優姫の姿を見て再びほのかに顔を赤くしてしまい必死に顔を振った。
「戸籍戸籍――」
嬉しそうにそう言いながら優姫は戸籍の紙を持っている十四郎の所へ戻って来るのだった。
「えへへ――」
本当に嬉しそうに笑っている優姫の事を見て呆れつつも、優しい表情で見て頭を撫でてやった。
そんな十四郎の姿を見て、近藤は心の奥で思うのだった。
(トシ………もしかして…)
「えとえと……」
優姫がじーっと紙を眺めているのを見て深く考える事を止めた。
十四郎が優姫に好意を抱いているなど……。
「……江戸?」
ふと住所を見た優姫は顔を上げて尋ねた。
「江戸って京都?」
「「 ………… 」」
そんなあり得ない質問に十四郎も近藤もなんと返せば良いのか分からず、ぽかーんとしてしまった。
「江戸江戸――京都ー」
「違げェェェェェェェェェ !! 」
たまらずツッコミを入れた十四郎に優姫はびくっと反応するのだった。
「江戸と京は全然場所違うっての !! お前何勉強してるんだよ !? 」
「えとえと…………家庭科!」
得意げに答えた優姫に近藤が大きく反応を示した。
「美味いモン作れるか !? 」
「う?」
何故かあり得ない位勢いよく尋ねてきた近藤に優姫は首を傾げるのだった。
(2006,8,19 飛原櫻)