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問題5
テロリストはヅラ

 

 

「行ってらっしゃい――」

 優姫は元気よく出かけて行く皆の事を見送るのだった。


 


江戸のトラブル娘
問題5 テロリストはヅラ

 



 優姫が此処に来てから早一ヶ月が過ぎようとしていた。
 物事を深く考えないタイプだった事もあるのか、江戸での生活にもすぐになじむ事が出来た。


 その間の近藤の馬鹿兄っぷりや、十四郎と総悟の日常茶飯事の喧嘩風景などを見て優姫は生活をしているのだった。
 が、何か一つだけ文句を言う事があるとすれば…………。


「つまらないよ――」

 縁側でごろごろと転がっていると、庭で布団のシーツを干している女中の菊が困り顔で言うのだった。

「みんな優姫ちゃんの事が大事だから危ない外に出て欲しくないのよ」
「でもでもォ――」
「まあ優姫ちゃんみたいな年頃の子をずっと屯所に閉じこめておくのも問題だし、今日近藤さんが戻って来たら私の方から言ってあげるから元気出しなさい」

 パンパンとシーツのシワを伸ばしながら言う菊に優姫はガバッと起きあがって言った。

「本当―― !? お菊さんありがとう―― !! 」

 優姫は菊に抱きついてそう言うのだった。


 屯所に来てからと言うモノ優姫は外は危ない、と言う事から一度も外に出してもらっていないのだった。


 生活に必要なモノは総て買ってきて貰っているし、何一つ不自由などはしていない。
 それに毎日の様に近藤や総悟達がたくさんお土産と言って買ってくる物だって山ほどある。不自由のふの字も無いのが現状なのだ。
 とは言っても優姫はまだ子供だ。
 外に遊びに行きたいと思うのが当たり前の事であり、軟禁状態である今の環境が良いモノとは決して言えない。


「さて洗濯物も一通り干せたしお茶にでもしましょう」
「は―い!」

 優姫は嬉しそうに手を挙げて返事をした。

「近藤に―ちゃん達何時帰ってくるのかなァ……」

 縁側でのんびりとお茶をしていたのだがやはり暇であるのが事実の為、優姫はつまらなそうな表情で空を見上げて言った。

「そうねェ……今日は潜入捜査のお仕事だって言ってたから、帰りは夜になるかもしれないわねェ」

 同じく空を見上げた菊はそう言った後に思い出した様な表情で言ってきた。

「そうだ優姫ちゃん、良いモノあげるからいらっしゃい」
「?」


「うわ―――― !! 」

 女中が寝泊まりする部屋に案内された優姫は嬉しそうな声を上げた。

「うん、やっぱり若い子には似合うわね」

 菊はそう満足げな表情で頷いて言っていた。

「わ――わ――」

 優姫は何度も嬉しそうな表情で自分の着ている着物を見ていた。

「どうも近藤さん達が買ってくる服って地味なモノばかり多いと思ってね。女の子なんだものオシャレな服着たいにきまってるのにね。まァあの人達にそう言う事は分からないと思うから、この間買い物行ってきた時に一緒に買ってきたの。優姫ちゃんなら絶対に似合うと思ったけどやっぱり似合うわね」

 にこにこと菊は新調された着物を嬉しそうに見、何度も鏡台を覗き込んでいる優姫の姿を見て満足げに言いながら呼ぶ。
 呼ばれるとすぐに優姫は菊の元へ戻ってきてすとんと行儀良く座るのだった。

「せっかく着物着たのだから髪の毛結ってあげるね」

 言いながら素早く髪を櫛で梳かしていると、優姫が不満そうな表情で自分の髪の毛に触れて言った。

「私凄い寝癖くせっ毛なんだよなァ~~」
「そうね、結うのが大変そう」

 すると優姫はぶーぶーと文句を言い出してくる。

「私、髪の毛ストレートになりたーい」
「あら、このくせっ毛はくせっ毛で可愛らしいと思うわよ」

 菊が笑顔でそう言っても優姫は納得いかない表情で、跳ねている前髪を掴んで伸ばしている。

「おばーちゃんもね『優姫の髪の毛は寝癖が酷いからしばるのが大変だねぇ』ってよく言ってた――」
「くせっ毛はまとまりにくいから仕方ないわね。はい出来た」

 髪の毛を結い終わったらしく菊にそう言われ優姫は急いで鏡台を覗き込んで言った。

「わ――お菊さん上手――――!」
「簪挿してあげるわ」

 そう言って菊が簪を挿した所で襖が開いて一人の女中がやって来た。

「どうかしたの?」

 菊が立ち上がって尋ねると女中は困った表情で言ってきた。

「それがお菊さん大変ですよ。またお釜が壊れちゃったみたいで」
「あらあらそれは大変、すぐに行くわ。優姫ちゃん用事入っちゃったから私は台所に行くわね」
「うん、お菊さんありがと――」

 にぱっと返事をすると菊と女中は足早に去って行った。

「新しい着物――」

 優姫はすくっと立ち上がると今着せてもらった着物を改めて見るのだった。


 地味過ぎず派手過ぎない着物。裾丈は膝上であり、洋服で言えばミニスカートに当たるだろう。
 ピンク基準の可愛らしい着物だった。


「おっるすばんおっるすばん!」

 満足そうな表情で優姫は縁側に戻ったのだった。

「むぅ…………」

 数十分後やはり暇で仕方ない優姫は急いでスニーカーを持ってきて履くとびしっと言った。

「暇だし屯所内をお散歩しよう!」


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