疎との鳥 籠の禽
問題7
おにーちゃんはゴリラ、
おねーちゃんもゴリラ
「ときに貴様、先ほどよりお妙さんと優姫ちゃんと親しげに話しているが、一体ど―ゆ―関係だ。うらやましい事山のごとしだ」
優姫の事を言われ、銀時は先程の一言を思い出した。
『えっと近藤にーちゃんは私のお兄ちゃんだよ』
「妹さんを俺に下さい、お義兄さァァァァん !! 」
「何言ってんだアンタは !! 」
すかさず新八のツッコミと妙の蹴りを浴び、倒れた銀時を無理矢理起こすと妙はにっこりと笑顔で言うのだ。
「許嫁ですぅ」
ボロボロになっている銀時の腕を掴んで妙は笑顔で言い続けた。
「私この人と春に結婚するの。もうあんな事もこんな事もしちゃってるんです。だから私の事は諦めて」
妙の嘘に対し、銀時は不思議そうに尋ねる。
「そ―なの?」
「話を合わせろ」
ぎらっと黒くなった妙に銀時が引きつっていると、その事を本気だと思った近藤はギリギリと歯ぎしりしながら言った。
「あ……あんな事もこんな事そんな事もだとォォォォォォォォ !! 」
「いやそんな事してないですよ」
後ろからの新八のツッコミを無視し、近藤は言った。
「いやっ!いいんだお妙さん!君がどんな人生を歩んでいようと俺はありのままの君を受け止めるよ。君がケツ毛ごと俺を愛してくれたように」
びしっと決めたのだがお妙は即答で答えた。
「愛してね―よ」
近藤は未だのんびりと席に座ってパフェを食べている優姫と妙を見て銀時を指さし言うのだった。
「オイ白髪パーマ!お前がお妙さんの許嫁の上、俺の可愛い優姫ちゃんにまで手を出そうとは良い度胸だ!決闘しろ !! お妙さんと優姫ちゃんをかけて !! 」
「う?」
急に話を中に入れられ、優姫はスプーンを口に咥えたまま顔を上げた。
◆
「よけいな嘘つかなきゃよかったわ。なんだかかえって大変な状況になってる気が……」
場所を喫茶店から橋へ移動し、橋の下の方に立っている近藤を見て妙は言う。
「それにあの人多分強い……決闘を前にあの落ち着きぶりは、何度も死線をくぎり抜けてきた証拠よ」
心配そうに言う妙に対し、神楽は得意そうに言った。
「心配いらないヨ。銀ちゃんがピンチの時は私の傘が火を噴くネ」
「なんなのこの娘(こ)は」
妙と新八が呆れ顔で神楽を見ている中、優姫は笑顔で橋の下にいる近藤に向かって手を振っていた。
「近藤に―ちゃん頑張れ~~」
「おお――優姫ちゃ~~ん!おに―ちゃん絶対に勝つから待っててね~~」
デレデレとしている近藤を姿を見て新八は呆れながら言う。
「物凄いシスコンっぷりですね」
「つ―かなんであんなゴリラと優姫が同じ血が通ってるアルか。信じられないネ」
近藤と優姫の事を見比べて言った神楽に優姫は笑顔で答えた。
「近藤に―ちゃんは義兄だよ」
「良かったアルゥゥゥゥゥゥ !! 」
血が通って無かった事がそんなに嬉しかったのか、神楽は優姫の事をぎゅ――と抱きしめるのだった。
「おいッ !! アイツはどーした !? 」
「あ――なんか厠行ってくる言ってました」
新八が言うのと同時に厠から戻ってきたらしい銀時が姿を現した。
「来たっ!遅いぞ大の方か !! 」
すたすたと歩きながら銀時は誇らしげに言い切る。
「ヒーローが大なんてするわけね―だろ、糖の方だ」
「糖尿に侵されたヒーローなんて聞いた事ね―よ !! 」
ずばっとツッコミを入れ、いろいろと話をしていると段々と人が集まりだし、優姫は声を掛けられた。
「お嬢ちゃん、橋の下で何やってんの?」
「えっとね………お妙さんをかけて決闘なんだって」
自分もかけられている事など全く知らずに答えると橋の下を覗き込んで町の人達は言う。
「へ――面白そうな事してるじゃん。あ、始まるみたいだな」
そう言っているので橋の下を覗くと折れた木刀を見て叫んでいる近藤がいるのだった。
「あれェェェェェェェェェェ !? ちょっと待て先っちょが…………」
銀時は得意げに近藤の事を木刀で殴り飛ばした。
「ねェェェェェェェェェェェェ !! 」
勢いよく飛ばされる近藤に銀時ははっきりと答えるのだった。
「甘ェ……天津甘栗より甘ェ。敵から獲物借りるなんてざよォ~~」
銀時は折れた木刀を拾って言った。
「厠で削っといた。ブン回しただけで折れるぐらいにな」
「貴様ァそこまでやるか!」
銀時は近藤の事を見下し笑いながらはっきりと言い続ける。
「こんな事の為に誰かが何かを失うのは馬鹿げてるぜ。総てを丸くおさめるにゃコイツが一番だろ」
「コレ………丸いか……?」
ガクッと気を失ったのを確認すると銀時は何事も無かったのかの様に言うのだった。
「よォ~~どうだこの鮮やかさ。優姫もゲットしたし早くかえ…………ちゃぶァ !! 」
銀時が言い終わる前に神楽と新八が銀時の上に蹴り降りて来て、ばきばきにリンチしながら言う。
「あんな事までして勝って嬉しいんですかこの卑怯者 !! 」
「見損なったヨ!侍の風上にも置けないネ !! 」
「お前姉ちゃん護ってやったのにそりゃあないんじゃないの !? 」
ボコボコに殴られ蹴られながら必死になって言っていると、やっと橋の下へ降りてきた優姫が急いで走って来きていた。
「優姫ちゃ……」
「近藤に―ちゃん !! 」
優姫は銀時の顔面を踏んで、倒れている近藤の元へ走っていくのだった。
「に―ちゃん、に―ちゃん!大丈夫 ?? 」
わさわさと近藤の事を揺らしている優姫を見て銀時は一番のダメージを受けた。
「……そ―いやあのゴリラ……優姫の兄ちゃんじゃん」
ぐったりと倒れた銀時から離れつつ神楽と新八は言う。
「もう帰る。二度と私の前に現れないで」
「しばらく休暇もらいます」
銀時はふらふらになりながら立ち上がって言った。
「なんでこんなに惨めな気分?優姫ちゃんには嫌われちゃうしさァ~」
銀時は未だに近藤の事を呼んでいる優姫の事を見た。
「近藤に―ちゃん」
ぺしぺしと頬を叩いてみるモノも一向に目を醒ます気配が無く、困っている姿を見てちょっとやりすぎたなぁ…と銀時は反省してその場を去るのだった。
◆
「オイオイ何の騒ぎだ?」
見回りをしていると橋の下を見て騒いでいる人が大勢いて、十四郎は声を掛けた。
「エエ、女取り合って決闘らしいでさァ」
「女だァ?」
十四郎は呆れながら橋の下を覗き込み、見覚えのある姿にぼろっと煙草を口から落とした。
「優姫―――― !? 」
「う?」
聞き覚えのある声に顔を上げると其処にはいつもに増して瞳孔を開いている十四郎がいた。
「あ、土方に―ちゃん」
しゅん、と困った表情で見上げてきた優姫の元に駆け寄ってきて慌てて尋ねる。
「オイ何が遭った……って近藤局長…………」
優姫の向こうで気を失っている近藤を見て十四郎は呆れ顔になってしまった。
「何が遭ったんだよ」
「えっとね、ゴリラ戦争」
「はぁ !? 」
目を見開く十四郎に優姫は説明をした。
「お妙さん綺麗だけど怒るとゴリラになっちゃってね、それでゴリラ言われまくってる近藤に―ちゃん決闘したけど負けちゃってね」
「いやいやいや、全然わからねェから」
手を振って言いながら取りあえず近藤の事を担いで十四郎は言う。
「とにかく屯所に戻るぞ」
「うん」
優姫は未だ目を醒ます気配の無い近藤の事を心配しながら屯所へ戻って行くのだった。
(2006,8,29 飛原櫻)