疎との鳥 籠の禽
問題8 銀髪の侍さんを探せ
「すっぱ―― !! 」
「この酸っぱさが癖になるネ」
銀時を待っている間、神楽と新八と話をしていた。
「優姫ちゃん今日は用事が合って来たんだよね?何か遭ったの?」
人数分のお茶を運んで来た新八に優姫は持ってきた紙を出して言った。
「あのね、屯所でね、近藤に―ちゃん負けちゃったってみんなが凄く騒いでてね、みんな物凄い勢いで出かけちゃったと思ったらコレが落ちてたの」
「ラブレターあるか?」
酢昆布をくわえながら覗き込んできた神楽と新八は、書かれている内容を見た。
「何々? 『白髪の侍へ !! てめェコノヤローすぐに真撰組屯所に出頭してこいコラ!一族根絶やしにすんぞ。真選組』。…………何コレ?」
眼鏡を動かして何度も見直す新八に優姫は答えた。
「白髪の侍って坂田に―ちゃんの事だよね?みんなが凄く恐かったし坂田に―ちゃんの事呼んできた方が良いかなって思って来たの」
お茶を飲んで答えた優姫に新八は困りながら言う。
「銀さんが卑怯な手を使って倒したあの人……、確か真撰組の局長なんだよね?銀さん分かってやってたみたいだけど大丈夫なのかなァ……」
新八が心配そうに言うと玄関のドアがガララと開いて銀時が戻って来た。
「銀ちゃん早いアルね」
「あ、銀さんちょっと話が……ってどうしたんですかその怪我 !? 」
戻ってきた銀時が怪我をしているのを見て新八は慌てて尋ねた。すると銀時は面倒臭そうな表情で答えてきた。
「あ――――大串君と感動の再会してね」
「意味が分からないです」
新八がズバッとツッコミを入れると優姫が駆け寄って来て言った。
「坂田に―ちゃん大丈夫?」
ぎゅっと服を握りしめて尋ねて来た優姫に銀時は笑顔で答える。
「で―じょぶで―じょぶ。銀さん無敵だからこれくらいの怪我すぐに治るから」
ぐしゃぐしゃっと頭を撫でてやると優姫は不安そうな顔をしつつも笑顔になった。
◆
「んでさ――優姫はどうして今日来たんだ――?」
優姫の事をすっぽりと膝の中に抱え込んでご機嫌でいる銀時が尋ねると、新八がさっと紙を手渡すして言う。
「それ優姫ちゃんが屯所で見つけたモノらしいですよ」
「ん――――?『白髪の侍へ !! てめェコノヤローすぐに真撰組屯所に出頭してこいコラ!一族根絶やしにすんぞ。真選組』」
じっと見ていた銀時は納得した様に紙をくしゃくしゃに丸めて言う。
「そ―言う事ですかコノヤロ―」
ぺいっと丸めた紙をゴミ箱へ投げ入れると、優姫の事をぎゅ―っと抱きしめて銀時は言いだした。
「だから大串君五月蠅かったんだな。ん――優姫ちゃ~ん、銀さん恐いから一緒にいてよ~~」
スリスリと頬ずりをされ、優姫は頭を撫でながら言った。
「坂田に―ちゃん大丈夫~~?」
「微妙に会話がずれている辺り優姫ちゃん天然だなァ……」
新八が呆れかえっていると、酢昆布を食べきった神楽が嬉しそうな表情で言った。
「優姫今日ここに泊まるアルか !! 」
「お泊まり?」
銀時の頭を撫でていた手をぴたっと止めて優姫は首を傾げながら言った。
「おうおう泊まってけ泊まってけ、むしろ此処に住んじゃいなさい」
上機嫌で言った銀時に優姫はにぱっと答えた。
「えとね、近藤に―ちゃんに聞いてみないと分からないからまた今度ね」
悪気無くさらっと言った優姫に銀時はガクッと項垂れた。
「坂田に―ちゃん屯所に行かなくても大丈夫?」
玄関で優姫が尋ねて来たので銀時はぐりぐりと頭を撫でながら言った。
「大串君に会ったから行く必要はね―な。優姫ちゃんがどうしても来て欲しいって言うのなら銀さん行っちゃうけどな」
「……大串君って土方に―ちゃんの事?」
「あ――そんな名前だった気もするなァ」
優姫の事以外は興味ありません、と言わんばかりの銀時の反応に新八は大きな溜息をついてから言った。
「またいつでも遊びに来て良いからね」
新八に続き神楽も笑顔で言ってきた。
「今度一緒に酢昆布買いに行くアル」
「うん、またね」
優姫は元気に手を振ってから万事屋を後にするのだった。
◆
優姫が一人屯所へ向かって歩いていると、気配なく茂みの中から呼ばれた。
「見つけたっスよ」
「ふえ?」
ぴたっと立ち止まると其処にはまた子の姿があるのだった。
「あ、えっと…………来島ねーちゃん」
へにゃっと答えるとまた子は呆れた表情で尋ねて来た。
「ちゃんと真選組の奴等の情報は集めてるっスか?晋助様の足を引っ張るようなマネは許さないっス」
「私晋助の足引っ張ってないよ?」
見当違いな返答をされ、また子は完全に呆れながらぶつぶつと言うのだった。
「晋助様もなんでこんな奴に大任任せたりしたっスか……」
「あのね…………」
ぶつぶつと言っているまた子の着物の裾をひっぱりながら優姫は尋ねてみた。
「真選組……本当に悪い人?」
「何言ってるっス!悪い奴等に決まってるっス !! 」
はっきりと言ったまた子に優姫はしゅんとしながら独り言の様に答えた。
「近藤にーちゃんも土方にーちゃんも総悟もみんな凄く優しいんだよ……」
その一言にまた子は目を見開いて言ったのだ。
「お前まさか……真選組局長や鬼の副長、一番隊長に気に入られてるっスか?」
「ふえ?……えとね近藤にーちゃんが私の身元引き取り人で、土方にーちゃんのお部屋で寝泊まりしてて総悟と一緒に遊ぶの」
にこっと微笑んだ優姫にまた子は顎に手を当てながら言う。
「……あの三人がこいつに執着しているのは大きな収穫かもしれないっス。使いようになれば……」
優姫は真選組を崩す為の人質として使う事も出来るかもしれない。そう思ったまた子は優姫に言うのだった。
「とにかく晋助様が良いと言うまでは、ずっと真選組の奴等と一緒にいるっスよ。絶対の約束っス」
「うん、分かった」
はっきりと頷いた優姫を見てからまた子は姿を消すのだった。
「晋助……元気にしてるのかな…………」
晋助の真意も自分の置かれている状態も何も知らずに優姫は小さく呟いたのだった。
(2006,10,2 飛原櫻)