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問題9 もふもふもふもふ

 

 

「わあ!」

 一人朝の散歩をしていた優姫はとあるモノを見つけて、嬉しそうに声をあげるのだった。



江戸のトラブル娘
問題9   もふもふもふもふ



「ごちそうさまでした」

 ぽん、と手を合わせて言う優姫に近藤の叫び声が屯所に響き渡る。

「ちょ……優姫ちゃ――――ん !! 」
「ふえっ !? 」

 いきなり大声で呼ばれ、優姫はびっくりした顔で近藤の方を見た。

「お腹痛いの !? 調子悪の !? 」

 肩を掴んでがくがくと揺らされてしまい、優姫は何がなんだがさっぱりのまま揺らされていた。

「こんなに飯残したりしてどうかしたのか?」

 マヨネーズ大量がけの朝食を食べきり、煙草に火を付けている十四郎は優姫の机の上に置かれている食事を見て言った。
 ご飯もオカズもたくさん残っていて、コレでは皆が心配してしまって当たり前なのだった。

「大丈夫だよ、元気元気!」

 優姫はへらっと笑うとそのままの笑顔で自分のお盆を持ってそさくさと去って行く。

「ダイエットでも始めたんですかねェ」

 お茶を飲みつつ言った総悟に近藤はぐわっと言った。

「優姫ちゃんは今の状態で十分可愛い!痩せる必要なんか皆無だ !! 」

 ぎゃーぎゃーと騒いでいる近藤達に静かに食べ終わった山崎が答える。

「そう言えば最近優姫ちゃん一人で出かける事が多くなったみたいだけど、恋煩いでもしちゃったのかな?よく恋すると食欲無くなるって言うし……」
「「「 何ィィィィィィィィ !? 」」」

 恋煩い、と言う一言を聞き三人は声を合わせて叫んだ。

「ウチの優姫に手ェ出すなんて良い度胸だな……切腹だ」

 ジャキッと刀を抜きながら十四郎が言うので山崎は慌てて言う。

「いや別に本当に優姫ちゃんに好きな人が出来たかどうか分からないんですし……ちょっと局長!副長止めてくださ……」

 慌てて近藤に助けを求めて振り返ると、黒いオーラを出す近藤がゆらりと立ち上がって言った。

「…………俺の大事な妹に手を出した奴誰だァ……」
「えぇぇちょっと !! 沖田さ……」

 こうなったらもう総悟で良いから助けを求めるしかないと思い、呼ぼうとした瞬間山崎はこれ以上ない位顔が引きつった。

「優姫に手ェ出した奴なんかみんなバズーカーで撃ち殺してやりますぜィ」

 三人とも殺る気満々で食堂を出て行き、一人取り残された山崎は大きな溜息をついて言うのだった。

「誰かが殺されちゃう前に調べた方がよさそうだな……」

 自分が監察官である事を始めて良かったと山崎は本気で思った。




「最近の優姫ちゃんの様子?」

 まず尋ねるなら女中が一番だと思い、台所で洗い物をしている女中達に話を聞き出す。捜査の基本だ。

「特に変わった所は無いと思うけどね」
「うんうん、ご飯も毎日完食してるし」
「え?完食?」

 山崎はその一言に大きく反応するのだった。
 今朝の優姫は食事をたくさん残していた。すたすたと足早に去って行ったのだが、確かに食事は残っていた筈だ。

「好き嫌いの無い子でいつも美味しい、って言ってくれるから作り甲斐があるわ」

 ニッコリと答えた女中と別れ、山崎はむぅ、と唸った。
 食堂を出て行った時には残っていた優姫の食事が、流しに辿り着くまでの間に綺麗になくなっている。

「不思議だなァ……」

 誰かにご飯を恵んでいるのかと思いながら菊の元へ向かっていく。

「優姫ちゃん?」

 パンパンとシーツを干しながら菊に尋ねた。大量の洗濯物を干していたので、何もしないで話だけするのは気が引けたからだ。
 一番優姫と仲が良い女中は菊だ。菊なら何か知っているかもしれない、と山崎は期待しながら話をした。

「最近何か様子がおかしいとか何か見ていません?」
「そうねェ……」

 新しいシーツに手を出しながら菊はあっ、と何かを思い出したらしく言った。

「そう言えば最近着物の裾に泥が付いてる事が多いね。何処か山の中にでも行ってるのかと思ってるんだよねぇ」
「泥が?」

 山崎が首を傾げるとパンパンといい音を出しながら菊は頷く。

「洗い甲斐があるって言っちゃえばあるんだけどねェ……。毎日汚れているの見ると心配になっちゃうねェ。子供は元気に泥だらけになるのが一番だけど」
「あ、そう言えば優姫ちゃんですけど」

 菊と一緒に洗濯物を干していた一人の女中がこう言ったのだった。

「優姫ちゃん最近食事の残り物を大切に持って出かけて行ってるみたいですけれど、何か犬とかでも隠れて飼ってたりするんじゃないんですか?」
「動物?」

 優姫の性格からして、もし隠れて動物を飼おうとしているのかが分からず、どうしてなんだろう、と山崎は腕を組んだ。


「ごちそうさまでした」

 へにゃっと言った優姫は今日も食事を残していた。ソレを見て殺意メラメラの近藤達の事に気付く事なく、優姫はお盆を持って去って行くのだった。

(後をつけよう)

 山崎は誰にも気付かれる事なく、こそこそと優姫の後を追って行く。そさくさと食事の残りをタッパーに詰めると優姫は元気よく屯所を出て行った。

「…………本当に隠れて動物でも飼ってるのかなァ」

 優姫に気付かれない様に後を付けながら山崎はそう呟くのだった。





「出てきて良いよー」

 屯所から少し離れた公園の茂みの中に入り優姫はそう声を出した。すると茂みがガサガサと揺れぴょんと何かが優姫に飛びつくのだった。

「えへへおはよう」

 飛びついて来たソレを撫でながら優姫はしゃがみ込んでタッパーを開けて言った。

「今日の朝ご飯だよー」

 がつがつと優姫の持ってきた食事を美味しそうに食べているソレの頭を撫でていると、優姫のお腹がグーっと盛大に鳴った。

「あや、お腹鳴っちゃった」

 へにゃっと笑った優姫を見て隠れてた山崎は、ガサッと出てきて声を掛けるのだった。

「優姫ちゃん」
「ほぐあぁぁぁぁぁぁぁ !? 」

 急に声を掛けられたのだもんで優姫は驚いて大声を上げて振り返えった。

「……あ、退にーちゃん」

 山崎の姿を見るなり優姫はわたわたと慌てて隠すのだから、ブッと吹き出し笑いをしながら言ってやるのだった。

「全部見てたから隠す必要は無いよ」
「全部?」

 首を傾げて尋ねられたので山崎はしっかりと頷いて言う。

「最近ちゃんとご飯食べてないから不思議だと思って調べたのだけどね。こっそり動物飼ってたんだ」

 優姫の持ってきた食事を食べきったソレの頭を撫でながら山崎は言った。

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