疎との鳥 籠の禽
問題9 もふもふもふもふ
「何だろうコレ……リス……にしては大きいし猫じゃ無いし……」
「もふもふなの!」
しゅぴっと手を挙げて優姫が言うので山崎はじーっと見て尋ねた。
「もふもふ?」
「うん、もふもふしてるからもふもふ」
自称もふもふを抱きしめながら優姫は笑顔で言っているのだった。
確かに毛深くて触り心地がもふっとしているからもふもふと名付けたくなる気持ちは良く解るが……。
「絶対に地球の生き物じゃなさそ……」
ぼそっと呟いてから立ち上がり山崎は優姫に向かって言うのだった。
「取りあえずそのもふもふ君連れて屯所に帰ろう」
「もふもふ連れてって良いの?」
ぎゅむーっともふもふを抱きしめて尋ねて来たので山崎は頷いて言ってやった。
「もちろんだよ。局長達も頼めばきっと飼っていいって言ってくれるよ」
「わーい」
優姫は嬉しそうな顔をすると頭にもふもふを乗せて、山崎と仲良く手を繋いで屯所へ戻って行く。
(まぁ……そもそも局長達が優姫ちゃんのお願い聞かないなんてあり得ないもんなぁ…………)
そんな事をこっそり心の中で山崎は思うのだった。
◆
「局長――、あの……」
屯所に戻って来ると近藤の事を呼び探していたら、突然背後から刀がぬっと出てきたので山崎は青ざめて振り返えった。
「ふ、副長 !? 」
ゆらりと殺意をめいいっぱい出している十四郎が言った。
「……テメェが犯人か、アァ !? 」
「なんのですか―――― !! 」
「優姫に手ェ出した奴に決まってるだろうがァァァァァァ !! 」
ぐわっと刀を振り上げた十四郎に対し、優姫がさらっと言う。
「土方にーちゃん退にーちゃん虐めちゃ駄目」
その一言で十四郎がぴたっと止まったので山崎はホッと息を付いた。何時もだったら有無言わずに攻撃されるが、優姫が味方側としていてくれる間は身の安全が保障される。
優姫様様である。
「優姫ィ、今すぐに離れて下せェ」
総悟の声を聞き振り返ると山崎を狙って光っているバズーカーがいた。
「ええええええ !? ちょっと沖田隊長まで !? 」
わたわたっと慌てる山崎に向かって総悟ははっきりと言ったのだ。
「山崎の分際でィ優姫と手ェ繋ごうなんか良い度胸じゃないですかィ?」
ガチャッと構える総悟に山崎は急いで優姫の手を離して言う。
「いやちょっと別に手繋いで帰って来ただけで命狙うの止めて下さいよ !! 」
山崎が必死に弁解をしていると障子がバーンと蹴り飛ばされて近藤が出てきた。普通に障子を開ける事が出来ないのかと言うツッコミは、今は出来ない。
「局長 !! 」
助けが来たと思って嬉しそうに山崎が言うと、目を光らせた近藤が怒鳴り言うのだった。
「優姫ちゃんに手出してたのお前だったのかァァァァァァァ !! 」
「アンタ等いい加減にしろォォォォォ !! 」
山崎が叫んだのと同時に三人が攻撃を仕掛けたので、大きく息を吸うと優姫が怒鳴った。
「三人共正座―――――― !!」
ぴしゃんと雷が落ちて全員の動きが止まった。
「三人共退にーちゃん虐めちゃ駄目でしょ !! 」
庭に正座をしている三人に向かって優姫はプンプン怒りながら言い続ける。
「みんな退にーちゃんの事虐めちゃ駄目!」
珍しく怒っている優姫に隊士達がぞろぞろと集まって覗き見ていた。
野次馬、と言うよりは怒っている優姫可愛い、と言うロリコン魂強めの集まりだったが。
「あんまり退にーちゃんの事ばかり虐めたら絶交だからね !! 」
本気で言っているらしいプンプン状態の優姫の事を宥めながら山崎は慌てて説明をした。
「あのですね、何を勘違いしているのか分からないんですけど、別に俺優姫ちゃんに個人的な好意寄せてる訳じゃありませんし。と言うよりも最近の優姫ちゃんの様子の事調べて来ただけですよ」
「優姫の事ストーカーしたのか……」
刀に手を伸ばした十四郎に山崎は両手を振って否定して言った。
「ストーカーなんかじゃないですよ!局長じゃ無いんですから !!」
「あれ?さりげなく酷くない?」
ストーカー扱いされた近藤がそう言ったのだが、山崎は無視して優姫の頭をさして説明した。
「てかみんなコレ見えて無いでしょ?」
そう言われ始めて優姫の頭の上に乗っているもふもふの存在に気付き、十四郎は不思議そうに言うのだった。
「何だそりゃあ」
ぱたぱたと尻尾を振っているもふもふを見て優姫は笑顔で答える。
「もふもふ !! 」
「えっと多分何処かの星の生物だと思うのですけどね、優姫ちゃん見つけたみたいで今までこっそり飼ってたらしいです。最近食事残してたのこの子に食べさせてたみたいで」
もふもふの頭を撫でながら山崎が説明していると優姫が言うのだった。
「あのね……、この子此処で飼っても良い?」
へにゃっと笑顔でいる優姫の事をぽかーんと見ていた三人に向かって山崎は付け加えた。
「とにかく優姫ちゃん恋煩いなんか全くしていませんでしたから。ただ隠れて飼ってただけですよ」
優姫が誰かを好きになった訳じゃないと分かった途端、近藤は優姫の事をぎゅむーっと抱きしめながら言うのだった。
「もちろん良いに決まってるだろう~~」
「まァ天下の真選組ですから動物一匹くらい楽勝に養えますぜィ」
「こいつ何食うんだろうな。まあ取りあえず首輪とか買いに出かけるか」
総悟も十四郎も素早く優姫の所にいて、山崎ははぁ、と大きな溜息を漏らすのだった。
◆
「てか名前もふもふじゃ可哀想だろう?」
もふもふ相手に楽しそうに遊んでいる優姫に向かって十四郎がそう言う。
名は体を表す、とは言うが余りにもまんまで捻りのない名前過ぎる。
「まァ優姫らしくて可愛いネーミングセンスですけどねェ」
続けて総悟も言ってきたので優姫はもふもふの事をじーっと見た。優姫の視線にもふもふはキュー、と首を傾げていた。
「ん――――、じゃあシン」
へにゃっと優姫が言うと近藤が不思議そうな表情で尋ねてきた。
「シン?良い名前だと思うけど誰かの名前使ったりとかした?」
「目つきが悪い所が晋助にそっくりだからシン――」
にぱっと答える優姫に三人は声を合わせて言うのだった。
「「「 誰……晋助って…… 」」」
それが高杉晋助の事を指している事を知るのはもう少し後の話になるのだった。
(2006,10,7 飛原櫻)