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日向翔陽と飴玉

「こっこんにちわっ!お邪魔しますっ!」
「どうぞいらっしゃいませ」

 週末、勉強道具を詰め込んだカバンを肩に下げて、彼女の家に来た。

 二階建ての庭付きの一軒家。彼女はこの空間で生活して育ってきたのかと、キョロキョロしてしまう。

 そんな日向の姿を見ながら、彼女は相変わらずクスクスと笑いながらに言ってきたのだった。

 

「誰もいないよ」

「出掛けてるの?」

 

 週末なのに両親不在なのを尋ねると、彼女は答える。

 

「お父さんね、今長期単身赴任中でね。お母さんは今週はお父さんの所に行ってるの」

 

 両親不在と言われ、日向は本当に二人っきりなのだと動悸が激しくなっていく。

 

「大丈夫だよ。お母さんには日向君が来る事話してあるし、ゆっくり勉強してね、って」

「そっ……そうなんだ…………勉強頑張らないとなっ」

 

 頭を掻きながら日向が答え、彼女の部屋へと案内されていく。

 彼女の部屋は綺麗に片付けられていて、黄緑色基調の落ち着いた雰囲気の部屋だった。

 

(良い匂いがする……気がする)

 

 こっそりと匂いを胸いっぱいに吸ってから、テーブルの前に座ってノートと筆箱を取り出そうとカバンの中を漁る。

 


コロ

 


 カバンの奥底に、ピンク色と紫色の飴玉が見えた。
 それにドキドキしながら、日向は勉強会を始めるのだった。

 


「すっごい分かりやすくて助かったよ!」

 

 数時間後、予想より遥かに勉強は捗り、綺麗に書いたノートを見て日向は目を輝かせていた。

 

「良かった。私も予習したい所多く出来たし、次のテストはきっと大丈夫だね」

「うんうんっ」

 

 ニコッと笑う彼女に必死に首を縦に振って肯定をする。

 そして、もうじき帰らなければならない時間なのか、と日向は時計を見ながら寂しく思っていた。

 楽しい時間はどうしてこうも早く過ぎていってしまうのだろうか。

 もっと長い時間一緒にいたいのに……そう思っていると、無意識にカバンの中に手を入れていて、飴玉を触ってしまっていた。

 

(これを二人で舐め合えば……)

 

 日向の心の中に悪魔の囁きが聞こえてきてしまう。二人っきりの空間。誰の妨害も入らない彼女の部屋。

 二人並ぶ様に座っていて、肩は触れる程に近い。

 

(俺に……惚れる…………)

 かさり、とピンク色の飴玉を包み紙から出してしまった。
 これを口に含んで彼女に口移しをすれば。

 

(…………惚れ薬……卑怯なのは分かってる)

 

 度胸のない自分はきっと一生告白が出来ない。
 きっかけも掴めない。だったらいっそうの事……。

 

(弱虫で卑怯でごめん……でも君が本当に好きなんだ)

 そう心の中で謝り、日向は飴玉を口に含んでしまった。
 コロ、と飴玉の形を口の中で把握してから、片付けをしていた彼女の肩を掴んで振り向かせた。

 

「日向君?どうかした……」

 

 警戒心がなく、無防備だった彼女の唇に日向は本当に口付けてしまった。

 

「!」

 

 流石に驚いたのか、ビクッと動いた彼女。でもその動いた、には口が含まれていて、微かに開いた口の中に飴玉を押し込んでしまう。
 ころり、と飴玉が日向の口の中から彼女の口の中へと移動する。
 飴玉が移動した途端、元々抵抗していた訳ではなかったのだが、彼女の動きが止まった。
 ポーっと日向からの口付けを黙って受け入れているのを見ながら、日向はくちゅりと舌を入れて飴玉を探した。

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