疎との鳥 籠の禽
日向翔陽と飴玉
「こっこんにちわっ!お邪魔しますっ!」
「どうぞいらっしゃいませ」
週末、勉強道具を詰め込んだカバンを肩に下げて、彼女の家に来た。
二階建ての庭付きの一軒家。彼女はこの空間で生活して育ってきたのかと、キョロキョロしてしまう。
そんな日向の姿を見ながら、彼女は相変わらずクスクスと笑いながらに言ってきたのだった。
「誰もいないよ」
「出掛けてるの?」
週末なのに両親不在なのを尋ねると、彼女は答える。
「お父さんね、今長期単身赴任中でね。お母さんは今週はお父さんの所に行ってるの」
両親不在と言われ、日向は本当に二人っきりなのだと動悸が激しくなっていく。
「大丈夫だよ。お母さんには日向君が来る事話してあるし、ゆっくり勉強してね、って」
「そっ……そうなんだ…………勉強頑張らないとなっ」
頭を掻きながら日向が答え、彼女の部屋へと案内されていく。
彼女の部屋は綺麗に片付けられていて、黄緑色基調の落ち着いた雰囲気の部屋だった。
(良い匂いがする……気がする)
こっそりと匂いを胸いっぱいに吸ってから、テーブルの前に座ってノートと筆箱を取り出そうとカバンの中を漁る。
コロ
カバンの奥底に、ピンク色と紫色の飴玉が見えた。
それにドキドキしながら、日向は勉強会を始めるのだった。
◆
「すっごい分かりやすくて助かったよ!」
数時間後、予想より遥かに勉強は捗り、綺麗に書いたノートを見て日向は目を輝かせていた。
「良かった。私も予習したい所多く出来たし、次のテストはきっと大丈夫だね」
「うんうんっ」
ニコッと笑う彼女に必死に首を縦に振って肯定をする。
そして、もうじき帰らなければならない時間なのか、と日向は時計を見ながら寂しく思っていた。
楽しい時間はどうしてこうも早く過ぎていってしまうのだろうか。
もっと長い時間一緒にいたいのに……そう思っていると、無意識にカバンの中に手を入れていて、飴玉を触ってしまっていた。
(これを二人で舐め合えば……)
日向の心の中に悪魔の囁きが聞こえてきてしまう。二人っきりの空間。誰の妨害も入らない彼女の部屋。
二人並ぶ様に座っていて、肩は触れる程に近い。
(俺に……惚れる…………)
かさり、とピンク色の飴玉を包み紙から出してしまった。
これを口に含んで彼女に口移しをすれば。
(…………惚れ薬……卑怯なのは分かってる)
度胸のない自分はきっと一生告白が出来ない。
きっかけも掴めない。だったらいっそうの事……。
(弱虫で卑怯でごめん……でも君が本当に好きなんだ)
そう心の中で謝り、日向は飴玉を口に含んでしまった。
コロ、と飴玉の形を口の中で把握してから、片付けをしていた彼女の肩を掴んで振り向かせた。
「日向君?どうかした……」
警戒心がなく、無防備だった彼女の唇に日向は本当に口付けてしまった。
「!」
流石に驚いたのか、ビクッと動いた彼女。でもその動いた、には口が含まれていて、微かに開いた口の中に飴玉を押し込んでしまう。
ころり、と飴玉が日向の口の中から彼女の口の中へと移動する。
飴玉が移動した途端、元々抵抗していた訳ではなかったのだが、彼女の動きが止まった。
ポーっと日向からの口付けを黙って受け入れているのを見ながら、日向はくちゅりと舌を入れて飴玉を探した。