疎との鳥 籠の禽
日向翔陽と飴玉
飴玉は彼女の舌の上に乗っていて、彼女の舌を舐めながら飴玉を舐め取り、老婆に言われた様に彼女の舌に戻すと、彼女もまた飴玉を舐めていた。
二人で飴玉を舐め始めると口に入れた瞬間は何の味もなかったのに、急に甘酸っぱい味が口中に広がり始めた。
初めての味で、何の味なのか分からないけれど、物凄く美味しく、彼女とのディープキスに酔いしれながら味わう。
二人で飴玉を舐めだしてから五分程経っただろうか。
口中が甘酸っぱく、飴玉が少しずつ小さくなってきた。
(そうだ……そろそろ…………)
ただ舐め合うだけでは意味がない。老婆に言われた事を思い出して、日向は少しだけ口を離して告げた。
「可愛い所が好き」
告げて再び口付けて飴玉と舌を舐め合う。
「綺麗な髪の毛が好き」
髪の毛に指を通しながら伝えて舐め合う。
「おれの試合見に来てくれる所が好き」
指を絡ませ合いながら握り合い、ちゅくちゅくと舐め合う。
「大きな目と長い睫毛が好き」
頬に触れ、撫でて舌を絡ませ合う。
「鈴の様な声で、まるで向日葵みたいに綺麗に笑ってくれるのが好き」
後頭部をしっかり掴み、抱きしめて味わう為に舐め合う。
好きな所を五つ伝え、日向は深く口付け、小さく無くなりそうになっている飴玉を彼女と舐めあった。
口中の甘酸っぱい味と彼女の唾液の味に酔いしれながら、飴玉が無くなっても暫くの間、舌を絡ませ続けた。
悪魔の惚れ薬、と渡された飴玉を彼女と二人で二十分程だろう。舐め合い食べてしまった。
唾液の糸を引きながら唇を離すと、彼女は熱の篭った瞳で日向の事を黙って見ていた。
(舐めきったら最後に……)
爆発するのではないかと言う程に激しく鳴る心音を聞きつつ、日向は口を開いた。
「おれの事…………呼んで?」
抱きしめたまま尋ねると、彼女の口が開いて言葉を発した。
「翔陽」
全身の毛が逆だった。彼女が自分の名前を呼び捨てで読んだのだから。
ずっと日向君、と呼んでいたのに飴を舐め合ったら呼び名が変わった。
もし、あの老婆が言っていた事が全て本当なのならば……。
「ね、ねぇ……おれの事」
ドキドキしながら尋ねると、彼女は鈴の様に綺麗な声色ではっきりと答えた。
「好き」
「〜〜っ!」
ギュッと彼女を抱きしめて、日向は何度も尋ねた。
「おれの事っ」
「好き」
「おれの事がっ」
「好き」
「おれっ……!」
「翔陽、好き」
ギュッと抱きついて答える彼女に日向は惚れ薬は本物で合った事と、彼女の心を自分に惚れさせてしまったのだと理解した。
「翔陽、私の事好き?」
胸元に頬擦りしながら彼女が尋ねてくるのだから、日向は強く抱きしめて想いを伝える。
「好きだよっ!大好きだよっ!初めて出逢ったあの日から大好きだったんだっ!」
日向の告白に、彼女は嬉しそうに返事をする。
「嬉しい。私も翔陽が大好き」
結ばれたくて仕方なかった彼女が自分の告白に喜び、大好きとまで言ってくれる。
日向は嬉しさで頭がおかしくなりそうだと強く抱きしめていたら、そのまま彼女を組み敷く様に倒れ込んでしまった。
その衝撃で日向のカバンの中から紫色の飴玉が出てきた。
それを見た日向は、老婆が付け加えるかの様に説明をしてきた事を思い出した。
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