疎との鳥 籠の禽
岩泉一と飴玉
「そう言えばお前はすぐに俺の及川に告白女子見て笑ってるけど、お前は及川の事好きになったりしねぇのか?一応アイツは顔だけ!は良いからな」
遠回しに彼女の気持ちを尋ねると、彼女は岩泉よ背中をバシバシ叩きながら笑うのだった。
「ないでしょー!あのチャラ男相手に!どの女の子に囲まれてもヘラヘラしてるあの姿見て、コイツ女の子だったら誰でも良いんじゃない?ってしか思わないし」
叩くな叩くな、と彼女の手首を掴むと、岩泉の顔を覗き込む様に顔が近くに来たのでドキッとしてしまう。
「及川も岩泉もケツの青い時からの、子供バレー教室での付き合いじゃん!今更異性として見ろ、とか二人の事知り過ぎて無理無理!」
及川とセットで自分の事も異性として見れないと言われてしまい、胸がズキっと傷んでいると、髪の毛を触りながら彼女が頼み込んできた。
「今月お小遣い余裕ないのっ!髪の毛お願いしてもいいっ?」
別に美容師の才能がある訳じゃなければ資格もないのに、彼女のお財布事情が厳しい時は岩泉が彼女の髪の毛を切っていた。
彼女の髪の毛を切ってばかりいて、ちょっとした腕前持ちになった位である。
「次の月曜日でいいか?男バレ月曜日じゃねぇと休みにならねぇから」
「全然オッケーオッケー!もう岩泉様様だよっ!岩泉いなくなったら本当に困る!」
そう言う彼女に便利屋としていなくなったら困る、のではなく、岩泉個人がいなくなるのに困る、と思って欲しいのはとてもでは無いが言えない。
サッパリとした性格の彼女は本当に付き合うのに変な気遣いはいらないし、互いの事もある程度分かっているので対応も楽。
だからこそ彼女と恋仲になりたいと言う思いは年々積もるばかりだ。
「ったく仕方ねぇな」
岩泉は自分の気持ちを隠すのに必死になりながら、いつもと変わらぬ付き合いを保つのだった。
◆
土曜日。部活を終わらせ、珍道中で食べてから及川は用事があると言う事なので、一人で帰っていた。
(明後日はアイツ俺の部屋に来るんだよな……)
別にそれは今まで数え切れない程合った事である。今回が初めて、と言う訳がない。
でも髪の毛を切っている度に彼女の身体が女の身体へと成長しているのを、間近で見ていた。
角張っていない肩に細い首筋。うなじは綺麗で、胸はふっくらと膨らんでいった。
「〜〜っ!」
邪な思いを幼馴染に抱くな、と岩泉は邪心を払う様に首を横に振って追い払おうとした。
けれど、髪の毛を切っていくと見える彼女の身体を思い出すと、自然と興奮してしまう。
(……俺、首元フェチだったのかよ…………)
あの綺麗な首筋に舌を這わせてみたい。うなじに口付けて、痕を付けてみたい。
布団に押し倒して、彼女の身体に……。
「嫌われる事を何しようとしてるんだっ俺はっ !! 」
自分の想いを口に出して否定する。
否定して、彼女との関係はバレー教室を通じての幼馴染だと自覚しなければ、危ない。
彼女はバレーをやっているだけあるので、女子から見たら身長はある方だ。
岩泉の方が若干高い位で、そんなに身長差もない。
(落ち着け……俺達は幼馴染……俺達はバレーを共にやっているスポーツ好きだ……)
頭の中で自分に必死に言い聞かせる為に前をちゃんと見ていなかった。
「ぶっ!」
突如弾力があり、そして何だか柔らかいモノに顔をぶつけてしまった。
人肌程度の温かさもあると思いながら、目を開くと、そこには誰がどう見ても女性の胸の谷間があった。
「うわぁ !? 」
真っ赤な顔をしながら、岩泉は大慌てて後ずさった。そして、ぶつかった相手の事を確認する。
元々高身長だと思われるのだが、また高いヒールを履いている為に、百八十近い長身。
腰元まである髪の毛は綺麗なウエーブが掛かって、漆黒の髪が映える。
切れ長の瞳に真っ赤なルージュを付けた唇もまた細く。
ぱっかり開いたデザインの服の胸の谷間は大胆に魅せているとしか思えない。
大人の女の魅力を全て持っているかの様な美女であった。
そっち系の店に務めているか、モデルか何かと思い、岩泉は慌てて頭を下げて謝罪をした。
「すっすみませんっ!考え事していて前を見ていなくて大変失礼な事をしてしまいましたっ!」
考え事をしていて女性の胸に顔を突っ込んでしまった、など墓場に持っていくしかない羞恥だ。
焦る岩泉とは対照的に、美女は岩泉の事を上から下まで見てクスッと笑って言った。
「ボウヤ、私に気が付けない位に恋をしちゃってるのね?」
美女に彼女の事を考えて周りが見えなくなっていた事を当てられてしまい、これ以上ない程に恥ずかしさを感じた。