疎との鳥 籠の禽
岩泉一と飴玉
それじゃあ本題の髪の毛カットをお願いしようかと、伸びから目を開くと目の前に既に岩泉が立っていた。
「それじゃあ髪の毛何時もと同じで……」
言いかけている途中で岩泉が膝を付いたので、首を傾げながら声を掛けた。
「岩泉?」
「…………マッサージ、もっとしてやるよ」
「んっ?」
どう言う事、と首を傾げようとした彼女の隙を一瞬でつき、両手首を掴んで壁に押し付けるのと同時に口付けた。
「っ!」
いきなりキスをされた彼女が身体に力を入れたので、負けじと岩泉も力を入れた。
身長差が余りなくても男女の力の差はあったらしい。岩泉の方が力が勝っていて、ずるっとズレ落ちる様に二人で布団に倒れ込む。
彼女の口の中に飴玉を押し込もうとするも、口の中に何かを入れられそうになっているのに分かっているらしく、彼女の口は簡単には開かない。
腕と口の押し問答を続ける事二分。呼吸のしづらさからか、一瞬だけ。本当に一瞬だけだったが彼女の力が緩んだ。
その瞬間を岩泉が逃す訳がなく、手を離して背中に手を回すと少しだけ身体を持ち上げた。
気道が少し狭くなった為に苦しくなったのだろう。彼女は岩泉の背中の服を引っ張っていたが、口の力を緩めて酸素を求めてしまったのだ。
ころん
その緩みに岩泉はやっと飴玉を彼女の口の中に移す事に成功した。
(やっと入った!)
岩泉がそう思った瞬間だった。自分の服を引っ張っていた力が突然無くなり、彼女の手がぽすっと布団に落ちたのだ。
(急に抵抗を止めた……?)
何故だ、と思うと彼女は突然無抵抗になり、ポーっとした表情で岩泉のキスを受け入れていたのだ。
何故急にそうなったのか分からなかったが、抵抗しないのならば都合がいいと彼女の口内へ舌を入れた。
初めての他人の口の中に入ったと思いながら、彼女の舌の上に乗る飴玉をそっと舐めとった。
「 !! 」
途端に口中に広がる甘酸っぱさ。
先程のまでずっと口の中に入っていても、一切味がしなくビー玉でも含んでいるのではないのかと思っていたのに、急に味がしたのだ。
『好きな子の口の中で舐め合う』
美女が言った言葉を思い出す。
この飴はもしかして、一人で舐めても無味で、二人で舐めると味が出るのかと。
舐めていたら味が変わる飴は沢山あるが、二人で舐めなければ味が変わらないなんてそんな飴は見た事も聞いた事も無い。
(惚れ薬、ってマジか……)
美女が言っていた事が本当ならば、惚れ薬だからこんな不思議な現象が起こる事も納得出来る。
彼女が突然大人しくなったのも、惚れ薬が効いた所為なのかもしれない。
そんな事を考えつつ、岩泉は彼女と飴玉を舐め合い始める。
彼女の口の中で飴玉は互いの舌の上を転がり合い、唾液で溶けていき、甘酸っぱくなっている唾液を彼女は飲み込んでいる。
抵抗をしなくなった彼女の手に自分の手を絡ませて、岩泉は夢にまで見た彼女とのキスに酔いしれた。
唇は柔らかいし、目の色がちょっと青みがかかっているとか、目を開いたままキスをしているから見えるモノをじっくりと観察している。
いつの間にか彼女の頬が紅く染まっていて、彼女が可愛く見えてきた。
口の中は本当に甘酸っぱいし、飴玉も小さくなって来たので、岩泉は言われた行動を実行に移す。
「バレー教えるの上手い所が好きだ」
すぐに唇を重ねて飴玉を探しながら舐め合う。
「女っぽくなってく身体が好きだ、特に胸」
くちゅくちゅと甘酸っぱさを堪能しながら舐め合う。
「真っ直ぐな所が好きだ」
飴玉が小さくなっていくのを感じながら舌を絡ませる。
「俺に頼ってくる姿が可愛くて好きだ」
絡ませる手の力を込めながら舐め合う。
「及川に絶対に惚れない所が好きだ」
深く、深く口付けて舐め合った。
(言ったぞ五つっ……)
美女の言う通りならば、好きな所を五つ言ったのだから、彼女が自分に惚れてしまっている筈である。
絡ませ合っている舌中心に合った小さな飴玉は、唾液で全て溶けきった。
その唾液を彼女がある程度飲んだだろう、と甘酸っぱさが口の中にまだあるが、岩泉はやっと彼女をキスから解放した。
無理矢理キスして抵抗された時間も含めると大体二十分はキスをしていただろう。
ファーストキスが二十分など聞いた事ないと思いながら唇を解放して顔を離すが、やはり彼女は潤んだ瞳と紅潮した頬で岩泉の事を真っ直ぐに見つめているのだ。
(名前……呼ばせて確認しねぇと)
彼女の口から岩泉、と呼ばれなければ惚れ薬が効いていると分かる。
甘酸っぱい口でゴクッと唾液を飲み込んでから、彼女に声を掛けた。