疎との鳥 籠の禽
岩泉一と飴玉
「な、なぁ…………」
何て声を掛けるのが最善なのかと考えていると、解放された彼女の手が岩泉の頬に触れて口を開いた。
「はじめ」
(名前でっ…………呼ばれた !? )
及川を含め、互いにずっと苗字呼びだった。それが当たり前だったし、及川がちゃん呼びする位で岩泉と彼女は完全に苗字呼び捨てだった。
そんな彼女が自ら岩泉の事を名前で呼んだのだ。
「俺の事……どう思ってる?」
頬に触れる手に触れながら尋ねると、彼女は少し視線を逸らしたけれど、すぐに岩泉を見つめて答えた。
「好き」
言われた瞬間に岩泉は思いっきり彼女の事を抱きしめてしまった。
彼女に男として、異性として見られた喜びが嬉しすぎて泣きそうにすらなる。
「もう一度言ってくれっ」
「好き」
「すまん聞こえなかったっ」
「はじめ、好き」
「お前の気持ち教えてくれっ」
「大好きだよ、はじめ」
ギュッと背中の服を掴まれた。でもそれは自分の事を引き剥がそうとする拒絶ではなく、離れたくないとしがみつく掴まれ方だった。
「はじめは……私の事…………知りたい」
彼女に尋ねられ、抱きしめる力が強くなりながら、やっと彼女に自分の想いを伝えられた。
「好きだっ……!ずっと……ずっと伝えたくて諦められなくてっ……。及川に近付く為にくる奴らと違って、俺の事を俺だと見て来てくれてたお前がっ」
「私ははじめにしか会いに来てないよ。だってはじめが好きなんだもん」
彼女の返答に喜び過ぎ、我慢出来ずに首筋に舌を這わせて吸い付いてしまった。
うなじも後で舐めてキスをしたいと思いながら、彼女の首に濃いキスマークを付けてしまった。
一つじゃ満足出来ずに二つ、三つと首筋に紅い華を咲かせていく。
岩泉の手によって自身の身体に所有印が付けられていると言うのに、彼女は一切の抵抗なく受け入れている。
(そうだっ……惚れ薬が完全に効いているのか調べないといけないんだった)
彼女の首筋を舐めながら、岩泉は飴玉の効果の確認の仕方を教えられたのを思い出すのだった。
◆
「ボウヤみたいな子は好きな子の心を手に入れただけじゃ満足しないでしょう?」
「両想いよりも欲しいモノって言いたいのか?」
岩泉が尋ねると美女はスラッと綺麗な立ち方をして、自分が最大限に綺麗に見える角度で立って説明をした。
「紫色の飴玉は悪魔の媚薬」
「媚薬ってもしかして……」
「だって好きな子を手に入れたらそれでおしまい。にはならないでしょ?好きな子の心を手に入れたら……次は身体、欲しいわよね?」
美女の胸元を主張させる服装につい見入って慌てて目を逸らした。
確かに言われた通りである。男と女である以上、身体を求めたくなる日は必ずくる。
「この飴を食べきって呼び方が変わったらね、一時間以内に彼女の身体に触りなさい。触るのは胸か……足の間にしなさい」
「はぁっ !? 」
彼女の乳房か女の場所の二択しか与えられずに岩泉は衝撃を受けた。
普通に考えてそんな身体の大事な所を、易々と触らせてくれる訳がないだろう。
「勿論、触るのは衣類の上からじゃなく、柔肌に直接、じゃないとね。私みたいに触りやすい服だったらいいけど、違うならばしっかり脱がせてから触るのよ。男なんだから、リードしてあげるのは当然の事よ。そして、触られても好きな子が嫌がらなかったら、この飴玉の効果が完全に効いてるって証拠。それが確認出来たら、今度は紫色の飴玉を舐め合って頂戴。それから……」
◆
(脱がせて……触る)
抱きついている彼女の服装を確認する。
帰宅してから岩泉の家に来ているが、彼女の本来の目的は髪の毛を切ってもらう事だったので、上下ジャージで肌の露出はほぼ無いに等しい。
まぁ、髪の毛の切った細かい毛が服の中に入らない為の対策なのだろうが、本当に脱がせないと上だろうが下だろうが触れなかった。
(どっちにするか……)
上も下も捨てがたい。
そもそも彼女は男に身体を触らせる経験があるのか、分からなかった。
及川みたいに浮いた奴じゃなかったし、そもそもバレー教室の手伝いばかりで男っ気はなかった。
「なぁ、ちょっと確認しておきたいんだけど」
「何?何でも聞いて良いから」
甘え抱きつく彼女を改めて布団の上に押し倒して身体を見つつ、腰元を触りながら岩泉は尋ねた。
「お前って今まで彼氏いた事あったか?」
「ないよ?彼氏ははじめだけ」
知らぬ間に彼女の彼氏になれていたのだと、嬉しさに悶えつつ、ジャージのファスナーを下ろしながら続けた。
「身体、男に触らせた事もないよな?」
「さっきはじめ触ったじゃないの」
「俺以外触ってねぇ……な」
「うん、そうだよ」