疎との鳥 籠の禽
#3 果報
[名・形動]
よい運を授かって幸福なこと。また、そのさま。「果報な身分」
goo辞書より転載
命が無欲な事は付き合いだしてからすぐに分かった。
何かを欲しがる事も無く、要求する事も無い。俺と出久と一緒に居たがる事に関しては主張してくる。
でも、それ以外が無いのだった。
そして、欲がない者程、運が強いのだった。
近所のスーパーへ買い物。お菓子は一人一個だけ。最近の流行りはヒーローウエハース。
ウエハースに一枚カードが付いている、と言うありふれたお菓子。
人気ヒーローのカードは無論レア度が高く、その中でもウルトラレアである金色のオールマイトのカードは高値で取引される程のレアカードだった。
そのカードをオールマイトに憧れている俺達が欲しがらない訳がなく、かと言って簡単に出る訳もなくタブりカードが増えていく日々だった。
「今日こそ出るかな!金色のオールマイト!」
目を輝かせながら袋を開けている出久の姿に、呆れながら溜息を付きながらに言ってやる。
「んな簡単に出るなら、とっくに出てるだろ」
「カードいっぱい溜まっちゃったもんね」
えへへ、と苦笑いしながら出久は命への視線を移した。
何時もは俺と出久しか買っていなかったのだが、命が今日は珍しく同じお菓子にする、と言ったのだ。
ヒーローには相変わらず興味が無い命なのだから、本当に珍しく、俺達に合わせたのは分かっている。それでも、自分から進んで欲しがったのが不思議だった。
「うわぁー、やっぱり出なかったぁ」
袋の中からカードを取り出して嘆く出久の姿を見てから、俺も袋を開けてカードを取り出した。
「……エンデヴァーかよ」
またこのカードかよ、とオールマイトでない事にガッカリしていると、袋を上手く開けられないのか、命が苦戦しているのが見えた。
相変わらずか、と思いながら命の手から袋を取り開けて手渡す。
「かっちゃんありがとう」
「ったく、上手い開け方があるって教えてやっただろうが」
「うん」
分かっているのかいないのか。命はこくんと頷いていた。多分分かってない。
「命ちゃんはどのヒーローかなっ?」
ワクワクと見てくる出久の姿を見て、命は袋の中からカードを引っ張り出していた。俺もついつい覗き込む様に見てしまった。
命が取り出したカードは太陽の光を浴びて強く反射し、黄金色に光っていた。
ウルトラレアのオールマイトのカード。
初めて見た現物に俺も出久も空いた口が塞がらない。
「おーちゃん」
ポツリ、と命が言うと出久は完全に興奮した様子で口を開いた。
「ほほほ、本物のオールマイトのウルトラレアカードっ !! 命ちゃんす、凄い!」
キラキラと金色に光るカードに、出久の様に興奮した声を出さなかったが、俺も内心気が気ではなかった。
欲しくて欲しくて仕方ないカードが目の前にあるのだ。それも持ち主はカードに興味が全く無い命。
そもそも突然買う、と言い出した時点で違和感があったのだけれど、命の強運がこのカードの存在に気が付いていたのだった。
だから欲しがったのだ。
「いず……」
カードを見つめ、これ以上ない程までに興奮している出久の方にカードを出しかけて命の手が止まった。
そして、ゆっくりと俺の事を見てきたのだ。
カードは一枚。欲しいと思っている奴は二人。命は俺達二人に対して差別は絶対にしない。
暫くじーっとカードを見ていた命は辺りをキョロキョロと見回しだした。そして、すぐ近くにあるコンビニに気が付くと、母親の元に走っていってしがみついた。
「お母さん!これもう一個!」
「はぁ?お菓子は一人一つの約束でしょう?」
「あそこでもう一個!」
引かない様子の命に、命の母親は俺と出久の事を見て溜息を付いてから言った。
「もう一つだけだからね。お菓子は三等分してちゃんと食べる事」
「うんっ」
母親からの約束事に命は必死に首を縦に振っていた。
そして母親から五百円を受け取ると、命は小走りでコンビニへと走っていく。
そしてすぐに出てきて、その手にはヒーローウエハースが握られていた。
「かっちゃん開けて!」
珍しく急かすな、と思いながら封を開けて渡してやる。
そして、命がカードを取り出すとそれは先程と全く同じ輝きを放ったのだ。
大の大人が何十個と注ぎ込んでも出ないカードを、命はたった二百円で二枚も出したのだ。
「みみみみ命ちゃん二枚もウルトラレアのオールマイト !! 」
興奮して鼻息荒くなっている出久を見て、二枚になったカードを命はさも当たり前の様に、俺達に差し出してきた。
「もももも貰って良いのっ !? 」
「うん、出久とかっちゃんの」
俺も出久も震える手でカードを受け取った。
太陽光を浴び、キラキラ光り輝くそのカードについ興奮してしまう。
カード集めに興味がない親達も、俺達の様子を見てやっと理解したのか、カードを見て言われた。
「何?やっと欲しかったカード出たの?」
「命ちゃんが、ウルトラレアのオールマイト二枚も出してくれた!」
俺の母親に出久は大興奮したままに答えていた。
俺達からか命に視線を移すと、命は不思議そうに小首を傾げていた。
「は〜、無欲って本当に当てるから凄いわよねぇ。命ちゃんにお願いしたら宝くじでも当てそう」
俺の母親の言葉に、親達は冗談交じりに雑談を再開し出した。
親達から命に視線を戻すと、嬉しそうにカードを見ている出久にぴったりとくっ付いていた。
相変わらずの姿だが、カードには全く興味が無い様子だ。
そんな見慣れきった姿を確認してから、改めて手に握られているカードに視線を落とす。気を張ろうとしても、どうしても顔がニヤけてしまう。
嬉しいのだから当たり前だ。
「命ちゃんはオールマイトのカード無くても大丈夫?」
出久の言葉に命は何度も頷いていた。そして、さも当たり前の様に言い切った。
「出久とかっちゃんの」
俺達が喜んで欲しい。それが命の言いたい事だ。
命の頭を乱暴にガシガシと撫でてやると、本当に嬉しそうな表情を命はしていた。
(命がなんか喜ぶ物、探してやるか)
俺と出久の手でキラリと輝くカードを見ながら、俺はそんな事を考えていた。
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