疎との鳥 籠の禽
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二次元の壁を越えた男?
「…………」
海野朔夜は今物凄く真剣に考えている。此処まで真剣に何かを考えたのは初めてではないかと思う程に、真顔で自分の机に座って両肘を付いている。
気分は碇ゲンドウなりのポージングを決めている。
担任が何やら話している。
いや、何やら、じゃなくて今からの入学式の段取りの話をしているのだけれど、今はそれ所ではない。最早入学式などどうでもいい。
朔夜はそう断言出来ていた。
じーっと見つめる先にいるのは斜め前、二つ前の席に座っている後姿。少しだけ離れた場所に座っていても分かる位にでかい。
立った姿を見ていないし、正直朔夜は身長が高いとは言えないので自分基準が一般論とは言えない、が断言してやる。
絶対にでかいに決まっている……と。
(落ち着け私…………よく考えるんだ…………此処は残念ながら二次元ではなく三次元……そう、三次元……)
脳内でブツブツと呟きながらチラッと目を動かす。やはり、いる。
(え、ちょ、まっ…………何あの人 !? めっさ黒髪じゃね !? てか後頭部めっさ綺麗な曲線っぽくね?え?何?クラスメイトに二次元の壁をぶち破ったっぽいのがいるんですけど !! )
脳内では大混乱状態だが、表面上は無表情の冷静を装う。
てかそうしなければうっかり声に出してしまって、入学式が始まる前に全てが終わる気がした。いや、終わるだろう。
何故今スマートフォンを弄る事が出来ないのだろうかと、朔夜は苦虫を噛み潰した表情で堪えた。
滅茶苦茶この気持ちを叫びたい、語りたい。なのに友二人よ………。
なんでそんなに席、離れているんだ。
(いや席が離れてる理由なんか私一人だけあ行なのが原因なんだけどね !! 憎し出席番号!てか二人して終わりの方とか靴箱下で裏山なんですけど !! )
最早違う事を考えて状況打破を図るが、視界に後姿が入るので無駄に終わっていた。
姿勢が良い訳ではないが何故か姿勢が良く見えるのは二次元マジックだろうか、と現実逃避に磨きがどんどん掛かっていく。
自分が新入生とか今から入学式とか全部頭から吹っ飛んでしまった。もう帰りたい気持ちしかなかった。
妄想に妄想が磨き掛かっていく中、入学式が始まるらしく体育館への移動が始まった。
席を立って廊下へ移動、となり出席番号的に自分が先で相手が後だと言う事は分かっていたので、立った横をさりげなーく見て、確信した。
オタク+オタク=?
2ページ目 二次元の壁を越えた男?
(あ、この人間違いなく二次元の壁をぶち破って来た人やわ)
入学式は滞りなく進んでいた。でも朔夜の頭の中は脱☆二次元をしてきた相手の事でいっぱいだった。
ただ、ソォッと隣を通った時に、その身長を目前で見て正直ビビっていた。
身長百五十台の自分に対して相手はもう顔一つ分位違ってもいいのではないかと言う位に大きかった。
本当に同じ歳の人間なのかと疑いたいレベルの長身、だ。
校長先生からの長い話も妄想をしていれば一瞬の話であり、苦にもならない。高身長である事を悶々と考えていたのだが、ハッと気が付いてしまう。
(…………進撃の巨人!)
この間隊長に貸してもらった漫画を思い出す。
そうか、巨人だからあのサイズか。納得。巨人ならば仕方がない。
駆逐しなければならない存在だったとは驚きである。
(ウォール宮城に(多分)二メートル級の巨人出現しました!…………いや、二メートルは流石にないか)
下らない事を考え続けたまま、入学式自体は無事に終わるのだった。
途中出てきた教頭先生の頭が絶対にヅラだ、とそこら中からヒソヒソ声が聞こえていたのが、入学式においての唯一覚えている内容となってしまったのは、また別のお話で。
◆
「おい、この薄情者二人組め」
「安心しろ、最初から仲間じゃ無かっただけだ。お前は何時から俺達が仲間だと勘違いしていた?」
「なー」
「毎度の事だけど血も涙もないな!」
「殿下の不幸程メシウマはないからな」
「安定の隊長節~!いよっ!流石隊長!」
入学式も終わり、解散となったので友人二人の所に来て話をしていた。
無論、話したい事は二次元を脱出してきた巨人(仮)の事であるが話は大分脱線していた。
中学からの縁である隊長と総帥。無論、あだ名であり本名じゃない。
殿下、隊長、総帥ととんでもないあだ名三人娘であるが、互いに困る事がないのでそのまま呼び合っている。
「で?何でカイジ顔になってるの?何が合ったん?あ、雲雀さんはなしで」
総帥の先手必勝!を食らいながらも、さっきまで合った事を正直に告げた。
「おまいら.....大変だ。このクラスに二次元の壁をぶち破った奴がいた」
キリッと言い切った時の言われた側の顔と言ったら。軽蔑の眼差しで見てくるので朔夜は必死に伝えた。
「ほらー!! いたやん !! なんか大っきいの !! 」
バンバンと机を叩きつつ主張を続けているとやっと理解してもらえたらしく、あー、と言われた。
「そー言えばそっちの席の方に背が高い奴いたなぁ」
「言われたら確かにうっすら記憶の中に僕もいるな」
興味はないがクラスメイトだし、人より大きくて目立つ身長を持てば記憶の片隅に刻まれる。
だから二人も認識だけはしてくれていたので、ついつい興奮して声が大きくなっていく。
「ソイツソイツ!絶対に二次元から来てるねん !! めっさ二次元 !! 」
「自己紹介もまだだし、俺らと中学違うから誰か知らないけど、殿下それ本人に絶対に言うなよ?引かれる騒ぎじゃないからな。俺は先に忠告したからな?面倒だから二度は言わないからな」
「隊長つめたーい。総帥ぃー」
「僕の意見を言っても良いならば、現実の人間は二次元からは来てない、以上」
「ぐぅぬぅぅぅ.......」
慣れきっている会話とは言え、ぐでっと机に伏せってブツブツ言ってしまう。
「だってぇー、黒髪なんだよー、短髪なんだよー、ツリ目なんだよぉー」
「全部三次元に存在する時はどうしたらいい?入学式初日から馬鹿すんの?いや、現在進行形でしてるのか」
呆れ顔の隊長と既に興味も無くなっている総帥を見ながらうだうだしていると、本当に面倒になったらしいので総帥が言う。
「殿下ー、REBORN観なくていいのー?今日さっさと入学式終わらせて観る言ってたじゃん?」
雲雀さん、雲雀さん騒ぐのは五月蠅いが、クラスメイトの事を二次元の人間だとうだうだ言われ続けるのはもっと五月蠅い。そう言わんばかりの話の変え方だった。
「そうそう、馬鹿な事言ってないでさっさと帰ってさっさとREBORN観て雲雀騒いで正気に戻れ」
ガタガタッと荷物をまとめて帰る準備を始めるので仕方ない、と帰路に着く事にした。
確かに帰宅して落ち着けば正気に戻る、かもしれない。一時の気の迷いと気持ちを切り替える為にも帰宅するしかなかった。
(2018,6,21 飛原櫻)