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らぶれたー?やぶれたー!

 

 

「…………よし、でけたっ!」

 入学から一週間が経った早朝、ビシッと白い封筒に文字を書き上げ、咲夜は満足気に封筒をカバンの中にしまい込んだ。



オタク+オタク=?
4ページ目 らぶれたー?やぶれたー!



「と、言う事で呼び出し準備は万端です、ボス」
「誰がボスだ、誰が」
「何となく予想は付いてたけど僕の目には果たし状、と言う文字が見えるよ」

 登校早々にドヤ顔で封筒を取り出した朔夜だったが、隊長と総帥に安定の対応を返された。
 朝からヌフフ顔をしながら話されたかと思えば、影山を手紙で呼び出すと言い朔夜が取り出したのが何故か果たし状。

「絶対来たくなる様に仕上げてみました」
「ドヤァするな」
「影山君気の毒」

 一週間の観察の結果が果たし状。朔夜の考えには付いていけないと言わんばかりのドライな対応を二人はしていた。

「話し出される前に聞いておくけど殿下なんて書いた?」
「ふっふっふっ……」
「総帥、それ聞いたら駄目なヤツ」

 総帥からのツッコミを受けた隊長は朔夜が口を開く前に素早く言う。

「やっぱ面倒だからパス」
「えー」

 ブスっと眉間に皺を寄せた朔夜だっが、じっと封筒を眺めてから隊長に言う。

「隊長、ジュースゴチるから達筆で果たし状書いてくんない?」
「断る」
「ちぇー!」

 交渉失敗に朔夜は不貞腐れたが、まぁ個人的な事だし仕方ないと意気込んで立ち上がった。

「健闘を祈る」
「殿下が祈る側でどーすんのよ」

 総帥に一言に朔夜はてへぺろ、と誤魔化していた。





「……あ?」

 昼休み、下駄箱に来た影山は自分の靴の上に何か置かれている事に気が付いた。朝来た時には確実に無かったそれを怪訝そうな表情をしながら手に取る。

「…………はぁ !? 」

 手に取ったそれは白い封筒。でかでかと果たし状、と書かれている。
 なんでこんな物を置かれたのか、影山に身に覚えが全くなくて混乱してしまう。
 間違いで入れられたのではないのかと慌てながら裏返してみると、裏には影山飛雄殿へ、と書かれていて間違いではないのが分かる。

「はた……果たし…………はぁ !? 」

 混乱しつつも中身を確認しないのは気味が悪く、そおっと警戒しながら中身を取り出す。中の紙にはシンプルで短い言葉が書かれていた。
 その言葉を読んで影山の顔はさぁっと青醒めた。

 放課後、果たし状を握り締めて影山は無言で歩いていた。
 行き先は第二体育館裏。果たし状に書かれていた呼び出し場所だ。
 影山は今後頻繁に行く場所になる予定だが、余り人がいない場所なのか体育館へ向かえば向かう程、人はいなくなっていき静寂に包まれていく。
 手紙の差出人に関しては本当に思い当たる節が無かった。ただ、書かれている内容には思い当たる節があったのだ。
 周りの事を気にした事がなかったのだが、知っている奴がいてもおかしくない。
 脅しにはならないが、不安が無いと言えば嘘となる。
 第二体育館裏へと曲がる前に生唾を飲んでから進んだ。

「………………?」

 そこに居たのは女子一人。てっきり男子がいるとばかり思っていたのだから拍子抜けしてしまう。
 こちらの存在に気が付くと、その女子は嬉しそうに笑顔で言い出した。

「わーい、来た来た――!」

 てててっと駆け寄ってくる姿に思考が付いて行けず、はてなマークを飛ばしながら吃り声で影山は尋ねた。

「は、果たしじょ……おま……?」
「うん、私私」

 にぱにぱと笑いながら言う姿に張り詰めていたモノがプツンと切れてしまい、気だるそうにしつつ確認の意味も含めて尋ねた。

「……俺の秘密って?」
「ん?」

 描いたと言う筈なのに、目の前にいる女子は不思議そうに首を傾げるので、ぐわっと怒りが込み上げて来て、影山は怒鳴り言った。

「この果たし状?に書かれてる事!俺の秘密をバラされたくなかったら放課後第二体育館裏へ来い、って書いてあんだろ!」

 噛み付く勢いで言ったにも関わらず、女子は慌てる様子も怖がる様子もなく、あっけらかんとした表情で言うのだった。

「そんな感じで呼び出されたら怖くて来る気にならない?マジ怖」

 ドヤァ、と言う顔で言われどっと疲れが出て、影山はついその場にしゃがみ込んでしまった。昼休みから今までの間の不安がとり越し苦労だったのだから。

「どしたー?腹痛?うんこ?」
「………………てめぇふざけたモン送りつけて。つかうんことか初対面の奴に言ってんじゃねぇよ……」

 女子だし、とか言う気持ちは出てこなかったが取り敢えずそう告げて顔を上げた。……ら、頬を膨らませて怒っているではないか。
 何が気に入らなかったのかと言葉に詰まると、ぶーぶー文句顔で言われた。

「初対面じゃないですぅー」
「へ?」

「クラスメイトなんですけどぉー。席も割と近いんですけどぉー」

 思いがけない繋がりに言葉が出ない。クラスメイトと言われても全くピンと来なくて、普段自分がどれだけ周りを見ていなかったのか思い知った。
 ブーブー唇を尖らせて怒る姿にしどろもどろになっていく。

「クラス…………おぉ……」
「別にいいですけどぉー!そー言う奴だって調べたからいいですもーん!」

 今、何と言ったのだろうか。聞き間違えてなければ『調べた』と言った筈だ。調べたとはどう言う意味なのか。そもそも何を調べた言うのだろうか。
 目の前の相手の考えが分からず、ただただ困惑しか出来ない。

「…………なんで呼び出した?」

 やっと言えた言葉はそれ。
 果たし状と訳の分からない事を書き、クラスメイトとは言え面識がない相手を呼び出してきたのだ。
 赤縁の眼鏡に頭の上にお団子頭にしている女子。影山から見る限り、身長は高くなく運動をしている様には見えない。
 バレー一筋で生きてきた自分にとって、この女子は未知の存在。何を考えて、何をしようとしているのか予想も予測も出来ない。

「あのねあのね!」

 影山の問い掛けに、女子はパアっと明るい顔になって言ったのだ。

「付き合って!」
「…………は?」

 女子の言葉に変な声が出てしまった。
 付き合う、とはどう言う事だろうか。何処へ付き合って欲しいと言うのだろうか。

「付き合うって……何処にだよ」

 尋ねてみると、女子は腕を組みながらうーんと頭を捻って考えていた。行き先もなく付き合えと言ったのかと怪訝そうに見ると、女子は得意げな顔で顔で言う。

「二次元かあの世辺り?」
「はぁ?」

 あの世も意味が分からないが、二次元とは何を指しているのか影山には分からない。
 しかし向こうはそれがしっくりと来たらしく、にぱにぱと笑っている。

「あのね、一週間じっくりと観察してみて、すんごいダメ人間だって分かった!だから付き合って!」

 影山には最早何を言っているのか、理解出来なくなっていた。
 今まで生きてきた中で、目の前の人間は理解出来る範囲外に居る存在であると分かってしまった。
 何て返すのがベストなのかと混乱していると、学ランの裾を掴まれて言われた。

「駄目?」
「……駄目、じゃ……ない」

 その姿を見ていたら勝手に口から言葉が出ていた。

 影山は驚いて口元を押さえていると、パァっと目を輝かせて女子は言った。

「やったー!わーい!」

ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ姿に、影山は益々状況が分からずに着いていけない。
 喜んでいる事だけは分かる。しかし何故喜んでいるのかが分からない。

「お、おい……?」

 しどろもどろに声を掛けると、女子は飛び跳ねるのを止めてギューッと両手を握りしめて言う。

「それじゃあこれからよろしくね!」
「あ……ああ?」

 完全に場の流れを持っていかれていて、反射の様に影山は頷いてしまう。
 何一つ理解していないと言うのに。

「それじゃあ、私もう帰るね!また明日~!」

 パタパタと手を振りながら、女子はさっさと帰ってしまった。
 最初から最後まで話が見えなかった影山は、一人取り残されてしまう。
 去り際が潔過ぎる位で、影山は呼び止めると言う発想も出てこなかったのだ。

「な……なんだった、んだ?」

 やっと絞り出した言葉は情けなく、影山は呆気に取られていて歩き出す事も出来ずにいる。

「あ……そう言えば…………」

 クラスメイトなのに、名前も知らないぞ、と影山は思った。
 クラスメイトだからなのか、それとも忘れているだけだったのか、最後まで名乗ってもらえなかった。

「……クラスメイト、なら……明日聞けば良いのか?」

 手には未だに果たし状が握られたまま、確認を取れない影山はそう答えを導き出す他、何も出来ないのであった。





「ふんふんふ~」

 影山からの返事を聞き、朔夜はスキップしながら帰り道を進んでいた。
 二次元から来たみたいな男である影山は、今日から彼氏になった。
 これは後でLINEで報告しなければ、と上機嫌で考えている。
 勿論、影山が『付き合う』と言う言葉の意味を理解していない事を朔夜は知らない。
 それもその筈。


 だって朔夜は付き合って、としか言っていなく、好き、と言う単語を発していないからだ。


「らぶれたー大作戦、成功したっ」

 えへへ、と朔夜は笑った。しかしその事にLINEでツッコミを入れられるまで、朔夜も告白の基本を忘れている事を本人も知らなかったのだった。
(2021,5,17 飛原櫻)

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