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男だって迷う時は迷うし戸惑う

 

 

 部活に入部する前に問題を起こしてしまった。それを馬鹿正直に話せる気がしないのだ。
 話した事により朔夜に……。

(……いやいやいや !! さっさと俺に飽きて欲しいんだから、昨日の事を)

 ブンブンと首を横に振りながら、自分の考えかけていた事を否定する。


 落胆されたくない等、思う訳ないのだ。


「あ、影山君だぁ」

 後ろから声を掛けられ、影山はビクッと驚いた。登校時間なのだから、いておかしくないのだが、タイミングが良過ぎて心臓に悪い。

(コイツ俺に発信機でも仕込んでるのか……?)

 動悸を抑えながら朔夜を見下ろしていると、小首を傾げられた。こう言う姿を見る限りも、朔夜はやっぱり普通の女子なんだな、と影山は思う。
 口を開くと訳が分からないのだが。

「影山君はおっきいから、遠くからでもすぐ分かる〜」

 顔にでも書いてあったのだろうか。考えている事を当てられて、ムムっとしていると朔夜は言う。

「教室まで一緒に行こ〜」
「……おう」

 影山の返事を聞くと、朔夜は嬉しそうに隣に来て歩く。
 それを見ていると、朔夜は徐ろにリュックサックをゴソゴソと漁り、ゲーム機を取り出して言う。

「ねー、3DS持ってる?」
「持ってねぇ」

 深く考えずに、正直に言うと朔夜がこの世の終わりの様な表情で影山の事を見ていた。
 衝撃を受けていると言うか、ショックを受けていると言うか。兎に角そんな顔だ。

「…………3DS持ってないの?……死ぬの?」
「死なねぇよ」

 大袈裟に言われたが意味が分からないので答えると、朔夜は残念そうに言うのだ。

「やだー。六月にポケモン新作出るから一緒に遊びたかったのにぃー。私、3DS二つ持ってなーい」

 唇を尖らせながらぶーぶー言う朔夜の言葉に、影山は思っていた。
 六月、と言った。

(二ヶ月後……まだ付き合ってるつもりなのか……)

 そんなに長くこの関係が続くとは、とてもでは無いが思えない。何もしない出来ない自分に呆れられるのだから。

「くぅ……発売前に対策練ってくる。あ、そうだった」

 ジジっとファスナーを閉じながら、朔夜はこっちが本題だったと言う様子で尋ねてきた。影山が危惧していた事を。

「部活どうだったー?パイセン優しい?」

 やはり来た、と息を飲んだ。怒らせてしまって入部を認められていない、と言えばいい。事実だけを淡々と告げれば……。


「優しい、と思う」


 が、口から出てきた言葉は違った。
 無論、優しい先輩と言うのも嘘では無い。
 自分達の為の早朝練習に二年の田中龍之介、三年の菅原孝支が付き合ってくれる事になった。
 面倒見のいい先輩と言う事は優しい先輩、と言う事だ。


 嘘は言っていない。でも、本当の事も言っていない。


 何で言えないのか、影山自身分かっていない。
 自分の常識だった枠の外に居る朔夜に、どうしたいのかどうなりたいのか。分からない感情が自分を狂わせている。
 自分の心の中を、突風が吹いているかの様に吹き飛ばしてくるから。

「もう部活参加してるの?あれ?でも本入部って来週からじゃないっけ?ありっ?」

 帰宅部を選んでいるので朔夜の知識は少ないが、最低限の事は分かるらしい。
 んー?と考え込む朔夜に影山は言う。

「本格的な参加は来週からだけど、今週も混ぜてはもらえる」
「ほうほう!流石運動部!朝練だ!何時から?」
「…………五時から」

 時間を聞き、朔夜はひょー!と飛び跳ねて言う。

「五時!私絶対無理起きられない !! 」

 その言葉に影山はホッとしていた。起きられないと言う事は、入部前の早朝練の事を朔夜に知られる事は無い。
 知られないと言う事は説明する必要もない。バレー部には正式に入部してから顔を出してもらえば、万事解決だと胸を撫で下ろしていた。
 その為、影山は次の朔夜が言った言葉を聴き逃していた。それを聞いていれば、対策が練れたのかもしれなかったのだが。


「五時は無理、だねぇ」


 水曜、午前六時十分過ぎ。秘密の早朝練習二日目。問題なく進んでいる筈、だった。
 影山と田中、日向と菅原。その組み合わせで練習をしていた。
 床を蹴る音、ボールを叩く音、互いの声。それしか聞こえていなかった体育館に、突如場にそぐわない気の抜けた声が聞こえたのだ。


「わ〜〜本当にこんな早くからやってる〜」


 その声に合わせる様に、ぽんぽん、とボールが転がっていく音が響く。
 影山はその聞き覚えしかない声に、身体が固まった。
 聞き間違えたりなんて、する訳がない。


 朔夜の声が体育館の入口の方から、した。
(2021,7,24 飛原櫻)

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