疎との鳥 籠の禽
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秘密の特訓は男のロマンである
影山は見覚えのある声に、ギギギギギ、と首を動かす。
体育館の入口のドアに、見覚えのあるお団子頭がいた。
「わ〜〜」
キョロキョロと興味津々に体育館の中を見ているその姿に、全身の血の気が引いていく。
早朝練は時間が早いから、無理では無かったのだろうか。始まってから一時間以上経過はしているが、何故いるのか。
予測出来ない事態に思考回路がぐるぐるしていると、最初に口を開いたのは菅原だった。
「え……誰?」
オタク+オタク=?
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その声をきっかけに影山は素早い動きで動くと、朔夜の腕を掴んで外に出た。
少し離れた所に行くと、影山は口を開いた。
「何でいる !? 無理じゃなかったのか !? 」
「ん?無理って何が?」
首を傾げる朔夜に、影山はついつい声量が上がっていってしまう。焦りと混乱から、だ。
「五時は無理言ってただろ !! 」
「え?うん?だって今、六時だよ?」
朔夜の言葉に影山はピタッと止まった。確かに今は五時ではなく六時であるから。
「五時は無理だから、六時に見に来た!でもグダったから十分の遅刻〜」
てへぺろ、と言う朔夜に影山は全身の力が抜けていく。来ないモノだと勝手に決め付けていた結果がこれか、と。
「ね〜、朝練ってどんな事してるの〜?眠くないの〜?」
気になる気になる、と身体を揺らす朔夜だったが、体育館の入口からこちらを見ている三人に気が付いて止まった。
「影山、その女子は……なんだ?」
ミシ、と音が鳴りそうな程にドアを掴みながら尋ねてくる田中の声に、影山は大きな溜息が漏れる。
この状況で説明しない訳にはいかないが、同時に早朝練の原因を話さなければならなくて。
「初めましておはようございます〜。影山君の彼女してる海野朔夜です〜」
ぺこり、と挨拶をする朔夜に田中の声が裏返る。
「かかかか彼女ー !? 」
「へい」
こくり、と頷く朔夜に田中を見つつ、菅原も声を掛けてきた。驚きを隠せない表情で。
「影山……彼女居たのか…………意外と言うかなんと言うか……」
ジロジロと見てこられる視線に、朔夜は影山を見上げて尋ねた。
「え?話してないの?」
「…………話す訳ないだろ、んな事いちいち」
「えー !! 除け者はんたーい!」
ぶーぶー怒る朔夜に、逃げたい気持ちが出てくる。やっぱりこの掻き乱される感覚が苦手で慣れない。
どうやって逃げようかと考え出していると、ザッと飛び出してきた日向が言った。
「影山の何処が良かったの !? 」
失礼極まりない言葉に青筋を立てていると、朔夜は笑顔で答えていた。
「顔ー!」
「くぅっ!やっぱり顔の良い奴が勝つ世の中なのかぁ !! 」
ガクッと膝を付いて嘆く田中に驚いていると、朔夜は付け足す様に笑顔で言う。
「後、しんちょー!」
「やっぱり身長大事なのかぁ!」
続く様に膝を付く日向に朔夜は首を傾げていた。影山はと言うと、何となくだが勝った気がして、気は悪くなかった。
中身ではなく容姿が良い、と断言されていたのが。
「日向も田中も落ち着くべ。えーっと……海野さん?だっけ?」
「はい!元気です !! 」
なんだその返事はと思いつつ、菅原は確認をとってみた。彼女、と言う事は影山とそれなりに付き合いが長いと思って。
「影山と同じ学校だったべ?」
「んーん」
ぷるぷると首を横に振るので、菅原はあれ?と思った。まだ一年は入学してから一週間過ぎただけである。同じ学校じゃないのに面識があったのだろうか、と。
(影山の性格からして、全く知らない相手を彼女にしたりなんて……)
んん?と混乱してくると、朔夜は笑顔で言ったのだった。
「四日前から彼氏と彼女!」
「付き合いたてぇ !! 」
再び嘆いた田中はズンズンと影山の元まで行くと、これ以上ない程の絡み具合で言ってきた。勿論メンチはしっかりきっている。
「女子に興味無い様な顔しやがって、しっかり興味津々じゃねーか!」
「はぁ?」
「出会って一週間で告白だぁ !? 舐めてるんか?遊びに来てるんか?あぁ !? 」
田中の勢いに押されそうになってしまうので、チラッと横目で朔夜の事を見る。自分?と指を指すので影山が頷くと、朔夜は笑顔で再び言う。
「遊びに来てる訳じゃないけど、告白しましたー」
「したんじゃなくてされてるんか影山ァ !! 」
くそぅ!と膝を付く田中に菅原がやっと動いて引き摺りながら言う。
アァー、と嘆く田中の事を朔夜は本当に不思議そうに見ている。このまま田中にビビって朔夜が帰ってくれないかと影山は見ているが、この様子を見る限り帰りそうにはなかった。
「取り敢えず中に戻ろうべ。目立つから」
◆
「影山だけは本当に止めた方が良いから!」
「ほうほう。詳しくこっそり詳細をコソコソ話でも」
体育館の中に入ると日向に言われ、朔夜はカモンカモンと呼んで話を聞いていた。
何で会ったばかりなのに、そんなに親しそうに話しているんだと、影山が青筋を立てている中、二人は話している様だった。
「なぁーるなるなる」
日向から何を話されたのか分からないが、朔夜は親指を立てて言う。
「おっけーおっけー、大丈夫」
「えー、マジかぁ」
肩を落として言う日向に、影山は殺気を飛ばしながら言う。
「……何を勝手に話してるんだ、テメェは」
「ヒィッ !? 」
その殺気に耐えられなかったのか、日向はサッと朔夜の後ろに隠れた。男子としては小柄とは言え、それでも朔夜に比べれば大きいので意味はない。
怯える日向と、怒る影山を見比べて、朔夜は影山の事をつんつんと突きながら言う。
「も〜〜、影山君は照れ屋なんだからぁ」
「それだけはねぇ !! 」
「え〜〜」
影山に怒鳴られても平気なのか、朔夜はのらりくらりと躱している。
その様子を見て、菅原は何となくだが状況を悟ってきた。