【短編夢】花巻貴大夢 ボーイシュークリームガール
- kululu0607
- 2022年4月18日
- 読了時間: 6分
「俺、最近好敵手(ライバル)が出来たんだ」
「そっか、おめでとさん」
「真面目な話してる所!」
花巻の怒りに仕方ないと松川は顔を上げた。
ボーイシュークリームガール
「で?お相手さんは?」
興味無さそうに聞いたが、花巻は握りこぶしを作り、思い出しながらに話してきた。
「制服は伊達工だと思う」
「へー」
「常に無駄の無い動きをしている」
「それは凄い」
「店に入ってからデザートコーナーまで一直線に来て」
「……ん?」
「陳列位置が変わっても、サッとシュークリームをレジに持って行くんだ」
「ストップ」
花巻の話がバレー無関係である事を知り、松川は確認の意味を込めて話を止めた。
興味無かったのだが、バレーの事ならば仕方ないと思っていたら、食べ物の話だった。
言われた事を思い出し、松川は質問してみた。
「見た目どんな子?」
「見た目?そうだな……何時もハーフアップのポニーテールだった気がする」
「女子じゃん!バレーの話じゃなくてシュークリームの取り合いを、伊達工女子としてるのか !? 」
「そうだよ、あのコンビニ置いてる数少ないからすぐ無くなるのに、増やしてくんねーんだよ。で、その伊達工女子とラスワンのシュークリームの取り合いがよく起こってる」
真面目そのモノで言い切る花巻に、松川はどうでもよくなってしまい、再び見ていた雑誌に目を落として言う。
「男だったらシュークリームの一つや二つ女子に譲れば良いだろ。はい、この話は終わりで」
「まっつんはこの争いがどれだけの事か分からないから、そんな事言えるんだ」
「一生分からんな」
ぱらり、と雑誌を捲る松川に、花巻は納得出来ない顔をするしかなかった。
◆
「部活帰りのシュークリーム程美味いのはない」
部活帰り、最寄りのコンビニへ立ち寄った。
このコンビニスイーツのシュークリームが最近の花巻のマイブームだった。
まろやかなカスタードにカリカリのシュー生地。思い出しただけで涎が出てしまう逸品だ。
「ジャンプ買ってシュークリーム買って帰るか」
店内に入り、人がいないのを見てゆっくりと店内を回れる、とカゴを取り雑誌コーナーに向かう。
目的の雑誌を入れ、お茶を買っていこうとドリンクコーナーを見ていると、入店音が店内に響いた。
この店この時間、まさか、と花巻が慌ててデザートコーナーへ向かうとそこには見慣れた姿が。
今日も綺麗に結ばれたポニーテールに、深緑のブレザー。
その手にはシュークリームの袋があり、それを手にサッとレジへ向かっていってしまう。
「しまった !? 」
慌てて陳列棚を見るとやっぱり最後の一つだったらしく、シュークリームの姿は何処にもない。
バッとレジを見るともう会計も終わるらしく、支払いの真っ最中。
店員から袋を受け取ると、颯爽と出て行ってしまう。
「…………俺のシュークリーム」
ギリィ、と苦虫を噛み潰したような表情でその後ろ姿を見ていると、ピタッと立ち止まり、チラッと花巻の事を見てきた。
そして、フッと鼻で笑う様な表情をして立ち去ってしまった。
「な……なっ……」
鼻で笑われた事に、花巻は震えていた。
◆
「鼻で笑ったんだぞ!絶対に分かってやってるじゃん!確信犯じゃんか!」
「そもそも取り合いになってるのを分かっていて、呑気に店内回ってる方が悪いだろ。先にシュークリームカゴに入れろよ」
バリボーを見ながら言う松川が正論しか言わないので、花巻は持ってきたジャンプを握りしめて言う。
「少年ジャンプは心のバイブル!」
「いや、知らないから」
「はぁ〜〜……俺のシュークリーム……」
ぐったりする花巻を横目に、松川は淡々と言ってきた。
「てか花巻も花巻だけど、そのシュークリームガールも凄いな。シュークリーム以外買えば良いのに」
「シュークリームガール?」
愛称に顔を上げるので、松川は言う。
「いやだって伊達工女子である事以外、何も知らないだろ?名前とか学年とか一切」
「……そうだな」
「そうなると何て呼べば良いのか分からないからシュークリームガール。あ、向こうからしたら花巻はシュークリームボーイだな」
変な愛称が出来たと、再び机に伏せって花巻は呟いた。
「シュークリームガールが憎い…………」
「他の店舗でも行けば良いだろ?」
「……あの店が一番家から近いんだよ」
「じゃあシュークリームガールもそうなのかもな」
「小中で見た事ねぇよ」
「ふーん」
興味の欠片もないが話を聞いてくれてはいるので、松川の反応が悪くてもそこは我慢するしかなかった。
松川に愚痴った所で、手元にシュークリームが来ない事も分かりきっている。
ただ、余りにもシュークリームガールに勝てなくて悔しいのだ。
勿論、花巻が先にシュークリームを手にしている事だってある。
その上で、負けると悔しいのだ。
「…………はぁ」
昨日食べられなかったシュークリームの事を思い出すと、余計に空腹になってしまい恋しさすら感じていた。
◆
「今日こそシュークリーム!」
ズンズンとコンビニに向かって歩いていると、丁度シュークリームガールが店内に入っていく姿が見えた。
「マズイっ!」
慌てて店内に入り、デザートコーナーへ直行。
シュークリームに手を伸ばしているのを見て、花巻はガッとシュークリームを掴んだ。
が、それはほぼ同時であり二人で一つのシュークリームを掴んでいる状態だった。
「…………」
「…………」
目が合い、沈黙が流れる。
そしてその沈黙を破ったのは、二人ではない声だった。
「おかーさん、シュークリームなかったよー」
二人の間に割り込む様に入ってきた幼稚園児位の男の子。
陳列棚を見ながら言うので、互いに見合ってからスっとシュークリームを差し出して言った。
「「 どうぞ 」」
シュークリームを受け取った少年は、嬉しそうに母親の所へと走っていってしまった。
その姿を見ながら、花巻はシュークリームガールに声を掛けた。
「ラーメン好きか?」
「普通」
「近くに美味いラーメン屋あるから行くか?」
「行く」
返事を聞き、花巻はシュークリームガールと共に珍道中へと向かっていく。
シュークリームガールは口数が多くないのか、無言のまま花巻の後ろを着いてきている。
チラッと見ると荷物の中に工具箱が合ったので、流石工業高校だと思いつつ、珍道中の暖簾を退けて中へと入った。
「ここの豚骨ラーメンマジ美味いから」
「へぇ」
キョロキョロと店内を見ているので、チョイチョイとカウンター席に呼ぶ。
すとん、とシュークリームガールが座ったのを見てメニュー表を渡して言う。
「チャーハンも餃子も美味いけど、女子はんなに食えないか」
「工業系だから力作業多いし、他の子よりは食べれると思う」
「じゃ餃子半分こでもするか。おっちゃーん!」
ラーメンと餃子を注文し、残さず完食をし、満腹で満足した心でシュークリームガールと別れるのだった。
◆
「と、言う訳でシュークリームガールと珍道中行ってきた」
「うん、意味が分からないな」
「文句あるなら俺のジャンプ返せ」
話半分にジャンプを読んでいる松川に言うと、松川は顔を上げて言った。
「てかさ」
「ん?」
「名前、聞かなかったのか?」
「あー……」
顎に手を宛て、花巻は昨日の会話内容を思い出しながら答えた。
「美味いシュークリーム売ってる店の話して、今度一緒に行く約束したけど、互いに名乗ってねぇな」
いや、一緒に出掛ける予定組んだ癖に名前を未だに知らないとか、どれだけシュークリームの優先順位が高いのだと、松川は呆れ返ってジャンプに視線を戻し言った。
「もうめんどくせぇから永遠にシュークリームガールとシュークリームボーイでいろ。ボーイミーツガール、じゃなくてボーイシュークリームガールじゃん、お前ら」
松川の言い回しにそれは良いかもしれない、と花巻は考えていた。
恋愛とかなしのシュークリーム愛好家としての同士であり、好敵手であるのがシュークリームガールなのだから。
(2021,5,5 飛原櫻)


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