【孤独な人形師】孤音2
- kululu0607
- 2022年4月14日
- 読了時間: 2分
人形師は 出掛ける 梺の村へ
その時 視界の端に 写る
一人の 青年
孤音2
村の青年
少女は久しぶりに出掛ける、梺にある村へ。
今回は己の作る人形を売りに行く訳ではなく、買い出しをする為に。その度に村人から嫌そうな顔で見られるので本当に数ヶ月に一回の買い出しで済むように少女は行動をしていた。
別にその様な顔をされるのは慣れきっていて気になる事ではないのだが、売る事を拒まれない様にそうしていた。
梺の村へ行く為に己が住まう家を出て静かな森を歩く。今日も森は静かで凛としていて、美しく生きていた。
人々からは『人喰いの森』と忌み嫌われる森であったが少女はこの森が大好きであり、離れる気など毛頭もなかった。
美しく静かな愛すべき空間。
それを理解出来ない周りの人間に不快感を感じてはいるが、自分を忌み嫌っている人々に向かって無理に弁解する必要もないと少女は何も語らない。
理解出来るヒトなどいないと決めつけて。
梺の村に来ると相も変わらず平和ボケしている。誰もが楽しそうに、笑顔でいる。
少女の姿を目視するまでは。
少女の存在に最初に気が付いた村人が途端に表情を変える。その表情は強張っていて、同時に冷たく見下す目だった。
一人が気付けばまるでドミノ倒しの様に広がる。少女が来た事を理解すると足早に家に戻る者、ヒソヒソと話し出す者、出ていけと言わんばかりの空気を出す者と今までの暖かく明るい村は何処にも存在しなかった。
しかし事の元凶である少女は一切態度も表情も変えずに歩く。
慣れきってしまった差別の空気など痛くも痒くもない。そんなのを気にする時間があるのならば早急に用事を済まして帰ればいい。すたすたと歩き目的の場所へと歩く。
その際に少女の視界に人だかりが見えた。
普段ならば気になる事などないのだが、何故か今日は無性に気になったのだ。自分を避けて集まっているのでない事に気になった。
その集まりの中心にいるのは一人の青年。明るく微笑むその表情に優しい声。彼がどの様な人物なのかすぐに伺えた。
誰からも愛される、存在。
少女とは正反対の存在。人から忌み嫌われる自分とは違い、人から愛される青年。
だが、それを羨ましいと思う感情など少女には存在せず、逆に疎ましい存在であるな、と頭の片隅で思いながらその集団を横切った。
その時だ。少女の考えすぎでなければ、気の所為でなければ。
青年と一瞬だけ、刹那の瞬間だけ目が合った。
他の村人とは違ったその目を一瞬だけ気にして、でもすぐに忘れて少女は歩き去る。
これが総ての始まり。……否、終わりの始まりとなる事を誰が気付いただろうか。
(2016,4,4 飛原櫻)

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