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【ソラの子】空2 崩れた日常1

  • kululu0607
  • 2022年5月1日
  • 読了時間: 5分

「はぁ…………」


 放課後、授業後の片付けを一人でしながら綱吉は大きなため息をついた。

 一人でこの広い体育館の掃除が大変なのは勿論だが、綱吉が周りから駄目駄目言われていても学校に来る理由であった憧れの少女に彼氏がいたのだと知ったからだ。

 もう学校に来る意味もないと項垂れていた。掃除も中途半端な状態だったがもう帰ろうとした瞬間、扉が開いて誰かが入ってきた。


「綱吉、手伝うよ」


 そこにはもう帰る支度を済ませていて、綱吉の荷物も持ってきた飛鳥が立っていた。


「飛鳥…………あ゛~~……」


 頭を抱える綱吉の姿を見て、飛鳥はさらりと尋ねてきた。


「笹川京子と何か合ったの?」


 ズバッと言い当てられ、綱吉はますます凹みながら答える。


「いや…………やっぱり剣道部主将とデキてたんだって。もう学校に来る意味がない…………」


 朝から駄目駄目言われ続けた上に失恋。もうやる気が起きないと落ち込む綱吉に、飛鳥は首を傾げながら言う。


「同じ委員会なだけとしか聞いてないよ?」


 同じクラスメイトだからか飛鳥は綱吉の想い人、笹川京子と最低限の付き合いが合った。

 実際は京子から話しかけてくる事が多く、飛鳥から話し掛ける事はないのだが。話し掛けられたら対応をするだけ。

 深く関わる事を飛鳥は好まなかったが、京子は積極的に飛鳥に話し掛けてきていた。その話の中で飛鳥はたまたま剣道部主将の話を聞かされていたのだ。


「そう言ってるだけで実際はデキてるんだよ…………はぁ」



 綱吉が京子に恋している事を飛鳥は知っている。それに対して飛鳥は協力をする事はしないが、否定をする事もなく応援だけはしていた。



「大丈夫だよ、綱吉」


 転がるモップを手に取りながら言った飛鳥に綱吉は問う。


「何が……?」

「綱吉だもん、大丈夫」

「いや…………うん」


 飛鳥の慰め方がいまいち分からないと思いながらも、飛鳥の優しさに癒された。


「飛鳥、帰ろうか」


 飛鳥が持ってきた荷物から制服を出して着替えを始めた。綱吉が着替え出したのを確認して飛鳥は掃除のモップをしまいに行く。

 その間に着替えを急いで済ませた綱吉は笑顔を飛鳥に向けた。


「行こう、飛鳥」

「うん」


 しっかりと互いの手を握りしめて二人は家に帰った。





 家に帰った飛鳥と綱吉は別々に過ごしていた。綱吉は自室で過ごし飛鳥は居間で奈々と過ごしていた。


「家庭教師?」

「そう、今日ポストにチラシが入っててねツナにって頼む事にしたの」


 ルンルンと上機嫌で話す奈々の事を飛鳥は相変わらずの無表情で見ていた。その側には二匹の動物がピッタリとくっついていた。



 一方は体高三十センチ程の緑色の鳥。頭に長い羽根があるのがチャームポインの様だ。

 もう一方は体高六十センチ程の薄紫色の犬。尾が二本あるのが自慢。

 見ての通り普通の動物ではなかった。



 それでも沢田家では家族として受け入れられていて、飛鳥に懐いている。そんな二匹の相手をしている飛鳥の表情は無表情ではなく、どことなく柔らかい表情になっている様に見えた。


「アーちゃんがいるのだけれど少しでもツナがいい方に行けたらってね」


 綱吉に家庭教師がつくのが余程嬉しいらしいのだが、飛鳥にはいまいち分からなく不思議そうに首を傾げる。


プルルルル


「あら?電話だわ」


 鳴る電話を取り話が終わると奈々は言った。


「アーちゃん、また学校途中で帰っちゃったの?今先生から電話が来たわよ」


 電話の相手は担任だったのか、と思いながら飛鳥は答えた。


「綱吉が帰る言ったから」


 そう、ただ綱吉の意思に従ったと言う飛鳥に流石の奈々も困り果てた。飛鳥が綱吉の事を慕っている事は知っているけれど、たまに行き過ぎていると思う事も合った。


「……アーちゃんにもお願いした方がいいかしら?」


 ボソッと言いながら飛鳥を見れば、何事も無かった様にお茶を飲んでいた。


「とりあえずツナにも話してくるわね」

「うん」


 トントンと階段を上りながら話をしている奈々の声を聞いていた所、玄関のチャイムが鳴り響いた。


「…………」


 自分が出るしかないと玄関へ向かい、ドアを開けると誰もいなかった。


「…………?」


 おかしい、確かにチャイムが鳴ったのにと思っていると足元から声がしたのだ。



「ちゃおっス」



 声のする方へとゆっくりと視線を落とすと、そこには一人の赤ん坊が。真っ黒なスーツに真っ黒な帽子に小さなスーツケース。

 それは異様な光景だった。どうして赤ん坊がここに一人でいるのか。何故スーツを着ているのか。



 何故そんな人の事をマジマジと見てくるのだろう。

 そんなに珍しい見目をしているとは思ってない。自分は普通だと思っているし、周りもその様な目で見てくれている。

 そう…………普通、だと。


「…………お前が沢田飛鳥か?」


 初対面であるにも関わらず、自分の名前を知っているこの赤ん坊に対し、飛鳥は不信感を抱かずにはいられなかった。

 何処で名前を知ったのだろう。そう考えていた所、赤ん坊は言う。


「今日からこの家に家庭教師として来る事になったリボーンだ。沢田綱吉は何処にいる?」


 ああ、家庭教師だから名前を知っていたのか。そう頭の片隅で思ったけれど、すぐに赤ん坊の言っている事の重大さに気が付いてついつい声が漏れた。


「……家庭教師?」

「そうだ。オレが沢田綱吉を一人前のマフィ……いや、男にしてやる」


 何かを言いかけて止めたリボーンにますます不信感を感じながらも、奈々が選んだ家庭教師なのだ。家の中に入る事を拒否する権利はないので、飛鳥は無言で階段を指差した。


「サンキュ」


 綱吉の居場所を知り、リボーンは当たり前の顔で家の中へと入り階段を上っていく。ひょいひょいと慣れた足取りで歩く姿はとてもではないが、赤ん坊とは思えない。



 そもそも赤ん坊が一人でいる事もスーツを着ている事も、すらすら言葉を話せている事も、家庭教師をやっている事も、普通ならばありえない事だ。

 本当に赤ん坊なのか疑ってしまう。



 だがその姿を飛鳥は黙って見つめ、何も追求しなかった。何も言わない代わり、リボーンから視線を外す事はなかった。そもそも飛鳥の性格からしたら、家族以外は会話対象じゃないのだから仕方ない。

 しかし今の飛鳥の視線は誰が見ても同じ事を感じる。



 その瞳はリボーンの事を警戒している眼差し。



 痛い位の視線を背中に浴びながら、リボーンは小さく呟いた。


「………………アイツが沢田綱吉の妹、か……」


 その声が飛鳥に聞こえる事はけしてなかった。

 暫くしてから綱吉の部屋から奈々が戻ってきた。その表情は驚きを隠せていなく、頬に手を当てながら言ってきた。


「青年実業家かと思ったらあんなに若い赤ちゃんだったなんて驚きね――」


 驚いている点が人とずれているのだが、それが奈々の性格だから、と飛鳥は特に気に留めていなかった。


「アーちゃんは挨拶した?」


 その問い掛けに飛鳥は素直に首を横に振った。

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